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ゲージ対称性は、対称性ではないのか?

最近は物性物理分野周辺から、電磁気学の「ゲージ対称性」は対称性ではないという主張が出ているそうです。たとえば下記のレクチャーノートでも、はっきりとそのことが強調をされていました。

A. J. Beekman, L. Rademaker, J. van Wezel, SciPost Phys. Lect. Notes 11 (2019) P20

対象の運動を記述する作用という量や方程式に、そもそも最初からゲージ自由度のダイナミクスが含まれていないので、ゲージ自由度は最初から要らない見かけの自由度であるという主張です。なので、ゲージ自由度だけを変化させるゲージ変換のもとで、作用量や運動方程式が変化しないからと言って、それは物理的な対称性ではないという話です。

しかし、素粒子物理分野や一般相対論分野の周辺では、ゲージ対称性もきちんとした対称性として扱われています。その違いはどこにあるのでしょうか?それを今回は解説したいと思います。

まずゲージ理論の一種である電磁気学のマクスウェル方程式を思い出しましょう。

(1)式:マクスウェル方程式

以下では、光速度cを1とする自然単位系を採用することにします。それに伴い、慣性系における時空座標の第0成分を、その時間tとします。

(2)式:時空座標の第0成分としての時間

さて、マクスウェル方程式を電磁ポテンシャル、つまりこの場合のゲージ場Aで書いてみます。電場と磁場はAによって

(3)式:Aから計算される電場と磁場

と書かれます。次にゲージ変換を考えてみます。時空の滑らかな任意実数関数の

を使って、ゲージ場Aは

(4)式:ゲージ変換

と変換されます。(3)式から電場と磁場はこの変換で不変だと、直接計算でわかります。同様に、マクスウェル方程式自体や、マクスウェル方程式を最小作用の原理から導く、次の電磁場の作用量Sもゲージ変換で不変です。

(5)式:電磁場の作用量

ここで相対論的な記述に移ります。つまり電場と磁場を、ゲージ場から計算される

(6)式:電磁場の反対称テンソル

という反対称テンソル場に置き換えます。

(7)式:反対称テンソル場の成分としての電場と磁場

このテンソルを使うと、(5)式の作用量Sは、相対論の変換性が見やすい

(8)式:相対論的な作用量の表記

という形で書くことができます。ここで上付き添え字のついた反対称テンソルは、元の下付き添え字のテンソルに(-1,+1,+1,+1)を対角成分にもつ対称テンソルηをかけ算したものです。また(4)式のゲージ変換は、相対論的に書くと

(9)式:ゲージ変換の相対論的表示

となります。すると(8)式のSはこのゲージ変換で不変であることも改めて確認できます。

(10)式:作用量Sのゲージ対称性

これを、素粒子分野や一般相対論分野では、ゲージ対称性と呼んでいます。ゲージ場Aが含む自由度のうち、(9)式で変換されてしまう自由度がゲージ自由度なのですが、Sがそのゲージ変換で不変であるということは、Sにはゲージ自由度の運動の情報が全く入っていないことを意味しています。

それは考えてみれば、当たり前です。マクスウェル方程式や(5)式の作用量は、元々ゲージ変換で不変であった電場と磁場だけで書けていたのですから。電場や磁場が電磁気学のもっとも基礎的な自由度であるという物性物理での立場ならば、ゲージ自由度は(3)式で電場と磁場を書いたときに人為的に導入された空っぽの自由度です。その無意味なゲージ自由度だけを変換するゲージ変換も、物理的には最初から意味がないように見えます。したがって、このような見方からは、最近の物性分野で強調されるように、「ゲージ対称性は対称性ではない」と言いたくなる気持ちも、良くわかります。

しかし、超弦理論を含む素粒子物理学分野や、曲がった時空を記述する一般相対論の分野からの或る観点を踏まえると、マクスウェル方程式のゲージ対称性も「対称性」とみなしたほうが都合が良い場合があるのです。その観点とは、電磁場と重力場の統一を目指したカルツァ=クライン(Kaluza–Klein、KK)理論です。KK理論は高次元時空の一般相対論に過ぎないのですが、その4次元時空部分には高次元計量テンソルの成分から作れられる電磁気学のゲージ場が出てくるのです。

超弦理論では、10次元などの高次元時空を考えますが、それが我々の4次元時空を記述するためには、余分な6次元の内部空間が小さく丸まって、我々から見えないようにする必要があります。その基本的なアイデアがKK理論です。実際の10次元時空を丸める方法は複雑な内部空間の形を仮定しなくてはいけないのですが、ここでは簡単のために図1のように時空を5次元とし、その空間部分の余分な次元は、細いホースのような、半径aの円周状であると考えてみましょう。

図1:5次元時空の余剰次元をホース状に小さくまるめた時空構造

その5次元時空を表す計量テンソルを

と書きます。そして、特に

(11)式:電磁場を出す5次元時空計量テンソル

という形の場合を考えてみます。ここでAは、KK理論において4次元時空でのゲージ場になる自由度です。それには余分な空間座標に依らないという

という条件を課して、4次元時空の関数であるとします。

(12)式:4次元時空のゲージ場

KK理論の元の5次元時空のアインシュタイン方程式は、

(13)式:5次元アインシュタイン方程式

で与えられています。この方程式を出すアインシュタイン=ヒルベルト作用量は、5次元のスカラー曲率を5次元時空の共変的体積で積分した下記の(14)式の左辺の項に比例しますが、これに(11)式の計量テンソルを代入すると、うまい具合に(8)式の4次元時空での電磁気学の作用量Sが出てきます。

(14)式:5次元一般相対論の作用量から導かれる4次元電磁気学の作用量

つまりKK理論では、ゲージ場Aは重力場の計量テンソルの1つの成分なのです。そして4次元時空でのAのゲージ変換は、5次元空間での次の一般座標変換になっています。

(15)式:Aのゲージ変換を出す、5次元時空での座標変換

この座標変換は、丸められた余剰空間次元部分の内部の円周上を4次元時空点ごとに違った角度を回す変換になっています。

図2:5次元時空での座標変換が生み出す4次元ゲージ変換

(11)式と(15)式を使うことで、この座標変換が確かに(9)式のゲージ変換になっていることも確認できます。

ここまではある種の5次元時空が4次元のゲージ場とそのゲージ変換を出すという数学的な事実を説明してきました。

しかし数学を超えて、ゲージ対称性の物理の観方が大きく変わっていることにも気づきます。元のマクスウェル方程式の説明では、人工的で不要な自由度だったゲージ自由度は、今となっては、5次元時空の物理を表す計量テンソルの1つの自由度です。そしてゲージ変換は時空を張る一般座標系の変換です。

ここで、アインシュタインが最初に一般相対論を考え出したときの思想を、思い出しておきましょう。特殊相対論では、あらゆる慣性系で物理法則が同じ形になっていました。ところがその特殊相対論のままで、物理法則を一般座標系で書き換えると、その物理法則の形は違ってしまいます。これを欠点だと考えたアインシュタインが、あらゆる座標系においても物理法則、特に運動方程式は同じ形になるような高い対称性を求めて作りだしたのが、まさに一般相対論のアインシュタイン方程式だったのです。

一般相対論における一般座標系は、物理的な物差しと時計を空間にばら撒くことで実際に構成することが可能です。その意味で、座標系は物理的な概念であると言えます。その一般相対論を高次元化して、電磁場まで統一的に扱うKK理論では、物性分野での立場とは異なり、Aのゲージ自由度は、5次元時空の内部観測者が物差しや時計を触りながら制御できる、物理的な対象となるのです。

そしてどのような一般座標系を物理的に構築しても、その座標系を基準にして調べた物理法則は常に同じ形であり、その意味では、確かに対称性は存在しているのです。つまりこの「一般座標変換不変性」は、アインシュタインが最初に求めた意味での対称性なのです。その一つである4次元ゲージ場Aに対するゲージ変換も、座標系を構成している物理的な物差しや時計の交換として、物理的であると解釈されるのです。したがって、このような観方では、電磁気学のゲージ対称性は「対称性」と言えます。

このように、物性物理分野と素粒子物理や一般相対論の分野とでは、同じ数学に現れるゲージ場Aとその対称性についての捉え方が違っています。ですので、その両方の理解の仕方を、物理学徒は知っておいたほうが良いと思っています。



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