マーミンの魔法陣と量子力学での実在性の否定
物理量に対して古典力学では、測定によらない真の値の存在と、その値の正確な測定の存在を無根拠に仮定をしていました。ところが量子力学は、その物理量の真の値は実在しておらず、また不可避な測定誤差や物理量への擾乱が出てくるという性質を持ちます。この物理量の中には、光子などの素粒子の数も入っており、その真の値が存在しないということは、その素粒子自体が実在として存在していないことを意味します。
2022年には「そこにモノがある」という局所実在性を否定をした、ベル不等式の破れの実験に対してノーベル物理学賞が与えられました。
量子力学が古典力学のような普通の感覚での実在を持たないことを確認することは、別の方法でもできます。
古典力学では異なる複数の物理量にそれぞれの真の値があり、その物理量の真の値の積も物理的な実在だと考えられてきました。ところが量子力学ではその性質が成り立たないことが、コッヘン=シュペッカーの定理などを通じて現在ではよく知られています。ここでは、その最も簡単な例となる、ディヴィット・マーミンが見つけた「魔法陣」というものを紹介してみようと思います。
まず2つの二準位スピンから成る量子系を用意します。そしてマーミンの魔法陣と呼ばれる、図1の9つの物理量のリストを考えます。例えばリストの1行1列目の物理量の測定では第1スピンのスピンx成分を測ります。1行2列目の物理量の値は第1スピンのスピンx成分と第2スピンのスピンx成分をそれぞれ測り、その結果を掛け算して得られます。リストの9つの物理量の値は+1かー1かになっています。そしてこのそれぞれの値が隠れた変数としての「実在」になっていないことが示せるのです。この物理量の各値が測定前から実在しているのならば、矛盾が起きることが証明できるのです。

魔法陣の各行の3つの物理量を右から左の順に理想測定をして、得られたそれぞれの結果の積を作ると、パウリ行列の性質から必ず+1になることが示せます。また各列の3つの物理量を下から上の順に理想測定をして得られたそれぞれの結果の積を作ると、今度は必ずー1になります。
ところがこの性質を満たすように、測定前の9つの物理量に+1かー1の値を割り振ることは、どうやってもできないのです。例えば図2のようにすると、各行の3つの値の積はちゃんと+1になりますし、また第1列と第2列の積はー1になりますが、ー1となるべき最後の第3列の積だけは+1になってしまっています。他の+1とー1の割り振りでも、同様にどこかで間違った積の値が出て来ます。つまり測定前に各物理量が+1かー1のかの値をはっきりと持っていて、かつそれが擾乱なく測定できると仮定をすると矛盾が生じるのです。つまり古典力学のような素朴な実在としての物理量の値は、量子力学にはないのです。

例えば2行1列目のスピンx成分とz成分の積で定義された物理量の測定は、スピンy成分が入っている2行2列目の物理量に不可避な擾乱を与えます。量子力学ではどの物理量をどの順番で測定をするかで、結果は変わるのです。
何を測定するのかという選択と、その測定をする順番を決めることを、一般に量子力学では「文脈」と呼んだりします。マーミンの魔法陣は、そのような文脈によらない測定前の物理量の値は実在していないことをはっきりと示しているのです。
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