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質量を固定したまま、電荷はいくらでも大きくできるか?

この世界には様々な物体が存在しています。それらは非負の質量Mをもち、それに対応する質量エネルギーを担っています。また電荷Qを持っている物体もあります。Mは重力場との相互作用の強さを決め、Qは電磁場との相互作用の強さを決めています。古典的な観方で素朴に考えると、重力場と電磁場は異なるようにも考えられます。すると、Mの値を固定しまま、その物体をどんどん帯電させて、Qの絶対値を無限に大きくできると思うかもしれません。しかし、一般相対性理論や超弦理論では、それはできないという結論が出てきます。以下では

という自然単位系を採用します。すると、Qの絶対値の上限はMになることが知られているのです。Mの値を超えることはできないのです。

たとえば5次元時空での一般相対性理論を考えます。存在するのは重力場だけで、それとは独立な電磁場は5次元では出てきません。そして余分な空間自由度yを半径Rのトーラス型にして縮めます。すると、下記の5次元時空での計量テンソルから、4次元時空での電磁ポテンシャルAが出てくるのです。

(1)式

これについては下記記事をご覧ください。

この理論では、4次元時空での粒子の電荷Qは余分なy方向の粒子の運動量に比例します。そのため、Qは4次元時空での粒子のエネルギーEより大きくなれないことが分かります。この5次元時空の中を運動する粒子では、相対論的な運動量ベクトルPが

(2)式

という関係を満たしています。ここで右辺は5次元時空での粒子質量の2乗にマイナスを付けた定数です。この(2)式に(1)式の計量テンソルを代入して変形すると、4次元時空での粒子の質量Mに対して、下記の関係式が得られます。

(3)式

この等式から、一般に成り立つ下記の不等式が出てきます。

(4)式

つまり、粒子が持てる電荷Qの絶対値は質量Mを超えられないのです。

ただこの議論は、粒子のエネルギーや電荷が時空に影響を与えないという前提で行いました。実際には粒子の影響で時空は変形します。粒子はブラックホール的な物体になってしまいます。その4次元時空の部分には、下記の荷電ブラックホール時空が現れます。

(5)式

ここで関数f(r)はブラックホールの質量Mと電荷Qを使って、

(6)式

で与えられます。このブラックホールの地平面は、内側と外側に2つ現れ、その半径はf(r)=0から

(7)式

と求まります。外側の地平面の外部に出てくるホーキング輻射の温度も、MとQから

(8)式

と計算されます。したがって、地平面の半径とホーキング輻射の温度が実数であるためには、(7)式と(8)式から、電荷の絶対値の上限がMになっていることが要求されるのです。そしてQの絶対値がもっとも大きなブラックホールでは

(9)式

となりますが、この場合の内外の2つの地平面は一体化し、そしてホーキング輻射の温度は零になります。これは上での軽い粒子の描像での解析でいうと、5次元時空での粒子の質量を零にする極限に対応します。そしてそのy方向の運動量が、4次元時空での物質の静止質量Mを与えている状況です。(9)式を満たすブラックホールには、extremal black hole、つまり極限ブラックホールという名前が付いています。極限ブラックホールは非常に特別なブラックホールで、地平面近傍は動径方向に無限に引き延ばされる空間構造を持っています。

これらの考察から、質量Mを固定して、電荷Qの絶対値を無限に大きくなる安定した物体は存在しないと考えられています。

最後にコメントとして、極限ブラックホールのもう1つの性質を紹介しておきましょう。この場合の重力と電気力は、正確に釣り合うのです。同じ質量M、電荷Qをもつ2つのブラックホールを十分離して置いてみます。するとその2つの間に働く重力の大きさは

(10)式

で与えられます。また電気力の大きさは

(11)式

となります。重力は引力で、電気力は斥力ですから、自然単位系では、2つのブラックホールにかかる力の合計は

(12)式

と評価されます。すると、2つがM=Qを満たす極限ブラックホールであれば、合計の力が消えてしまうことが確認できます。この極限ブラックホールは超対称性理論や超弦理論でも重要で、特にBPSブラックホールと呼ばれる極限ブラックホールでは、その熱的エントロピーを解析的に統計力学での状態数の足し上げで理解することも可能にしています。


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