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重力とは何か?

物理学において重力は、現在アインシュタインの一般相対論で記述されています。時間と空間を1つにした「時空」という概念で考えられており、その時空が、物質によって曲げられて生じるのが重力であると、簡単に説明されることも多いです。この時空の曲がり方を決めるアインシュタイン方程式は、空間を2次元(時空を3次元)にしてやることで、簡単に解けることが知られています。空間が2次元であるので、それは下記記事のように、1枚の紙でもシミュレーションできるのです。

ところで、「時空の曲がりが重力を作る」のは、結論として確かに正しいのですが、「重力があれば、時空は曲がっている」というのは間違いです。

アインシュタインが一般相対論を自分で構築するときには、「等価原理」というものを指導原理にして理論を作っていきました。その等価原理とは、たとえば自由落下するリンゴは無重力空間にいるのと同じであると考えることです。

また、将来作られるかもしれない巨大な宇宙ステーションでは、建造物を自転させることで重力を内部に生成するアイデアも考えられています。回転によるこの人工重力は、物理的には本物の重力と区別がない、つまり等価であるというが、この等価原理の主張です。

つまり、時空が曲がっておらず、平坦であろうとも、重力は存在できるのです。

平坦な時空では、観測者は慣性系という直線的な座標系を、時空全体に張れます。この平坦な時空で、敢えて曲がった座標系を使う観測者を考えることも可能です。この座標系は「非慣性系」と呼ばれ、回転する宇宙ステーションの例では、ステーションの床が止まって見える回転座標系がそれに当たります。つまり、時空が平坦でも観測者が曲がった座標系を使えば、等価原理の意味で本物の重力が生まれるのです。したがって、一般相対論での「重力」の定義は、時空の曲率で定義をされるのではありません。

これをもうすこし詳しく説明します。まず測地線上を運動する点粒子は、下記の方程式を満たします。

$$
\Large{
\frac{d^2 x^\mu}{d\tau^2}=-\Gamma^\mu_{\nu\lambda}\frac{d x^\nu}{d\tau}\frac{d x^\lambda}{d\tau}
}
$$

これは、重力ポテンシャル中の粒子のニュートン方程式を一般相対論的に拡張したものです。この方程式の左辺は、固有時間τに対する粒子の相対論的な加速度ベクトルです。ですからその右辺が、その粒子にかかる重力の効果を示しています。

重要な点は、曲率テンソルではなく、クリストフェル接続と呼ばれるΓが右辺に現れていることです。このΓは一般座標変換においてのテンソルではありません。また局所慣性系をある時空点周りにとれば、その座標系において、このΓは常に零です。このようにΓを零にできることが、等価原理における重力の消去を意味しています。

電磁気学では、ゲージポテンシャルAが一般相対論の計量テンソルgに対応します。このAの一階微分が電場や磁場を与えますが、一般相対論でもgの一階微分が、重力であるΓを与えます。しかし、このΓは等価原理を満たすため、テンソルにはなれません。テンソル量として振る舞うのは、gの二階微分である曲率テンソルRです。

電磁学ではAに対するゲージ変換において、その一階微分の電磁場は不変でした。つまり電磁場はゲージ変換に対する「スカラー量」であるとも言えます。一方で一般相対論のゲージ変換は、一般座標変換です。しかしその変換の下では、重力であるΓはテンソルにもなれませんし、そのΓの掛け算と足し算だけからは、座標変換不変なスカラー量を作ることもできません。曲率テンソルRを使って、初めて座標変換不変な量を作ることができます。

この電磁場と重力場の間の大きな違いは、案外認識されていない場合を見受けます。そのため、重力は時空曲率テンソルRであると、誤解をしている人も居ます。しかし上の測地線方程式や、平坦時空で自転する宇宙ステーションの重力の考察からも、それは間違っていることがわかります。重力は曲率テンソルのRではなく、飽くまでクリストフェエル接続のΓなのです。

では「時空の曲がりが重力を生む」という主張は正しいのでしょうか?曲がり自体は曲率テンソルRで記述されます。そのRが重力そのものではないのに、なぜ時空の曲がりが重力を生むのでしょうか?

それは時空が曲がっていると、その時空全体で同時に重力を消せる座標系を観測者は導入できないためです。平坦な時空であれば、かならず時空全体に張れる直線的な慣性系を観測者は作れます。するとその座標系でのΓは零となるため、重力は全時空で消せるのです。ところが、時空が曲がっていると、その時空全部を覆う直線的な座標系が存在しないのです。どこかの領域で曲線的な座標系にならざるを得ません。その曲線座標系が張られる領域のΓは零にはなれず、そこには重力が生じているのです。ですから、曲がった時空では、時空のどこかに、消えないで残る重力が必ず生まれているという話なのです。それが「時空の曲がりが重力を生む」の正確な意味となります。ただどの場所に局所的な重力が生まれるのかは、観測者による座標系の選択次第です。

なお、複数の粒子の間の距離の差の時間発展については、Γではなく、曲率テンソルRが決めています。点粒子はその場所の局所的な重力に反応するので、Γが重力なのですが、異なる場所の点粒子の間の重力の差がその点粒子の間の距離を大きくするか小さくするかを決めるため、Γの一階微分である曲率テンソルRが重要になります。非局所的な重力の効果が、Rから見えてくるのです。

つぎに具体例を考えてみましょう。たとえば空間2次元でのアインシュタイン方程式を考えてみます。1つの重い粒子が空間内にあると、その粒子の位置を頂点とする図1のような円錐形に、空間全体が曲がります。

図1

描かれている赤い線は、この円錐における測地線の1つです。この円錐にハサミを入れて展開したのが図2です。今の場合は簡単のため、平面上での欠損角は90度にしてあります。

図2

この空間に真っ直ぐな直線座標系(x,y)を入れようとすると、図3のように変なことが起きます。図3では右斜め上方向にx軸、左斜め下方向にy軸を設定しています。左上領域から右下方向に延びる紫色の線は、x=-1を満たすyの座標線です。そして左下領域から右上方向に延びる黄色の線は、y=1を満たすxの座標線です。展開図での欠損部分をその黄色の線が通過すると、今度は右下方向と進むyの座標線と重なってしまいます。図ではx=1で指定される座標線がy=1で指定される座標線と重なってしまってます。この展開図左側の各点はきちんと(x,y)座標で一意に指定できていましたが、右側領域にその座標系を延長すると、x座標線とy座標線が重なるため、その各点を(x,y)で指定できなくなっています。つまり座標系が破綻しているのです。

図3

左右の領域全体をカバーする座標系を入れたければ、どこかに曲がった線を使って、座標系を構築するしかありません。その曲がった座標系の領域において、非零となるΓこそが、中心の重い粒子が空間を曲げて作った重力だということになります。この円錐空間では、全ての点の重力を同時に消滅させる座標系は存在しないのです。これが「時空の曲がりが重力を生む」の具体例になっています。


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