掌編小説「はじまる前は誰も知らない」
夜来(やらい) ぼくは
東雲(しののめ)色に染まる空
君に口づけする夢をみた
あの空の色 夢の香り
どこまでもシンクロして
小鳥たちの幸福なさえずり
朝一番の教会の鐘の音
ぼくは ここから動けずにいる
従来あたしは、そんな性質(たち)じゃないんだけど。
西本冬は自分で作った詩を眺めながら、それでも、と思い直す。
恋をしているときは、心が動いているときだから、残しておいた方がいい。
恋をしている?
口に出して思ってみると。。。(変な日本語です、これは。)
ふつう思ってからしか、口に出ないでしょう?
彼がそこにドアマンとして立っているのは、土曜日の11時から17時まで。
〇〇通りに面したブランドショップのドアマンで、彼は慇懃にお辞儀をしながらドアを開ける。あたしは開けてもらったことはない。そもそも、入ろうとしたこともないし、あんな高級ブランドでブレスレットを買えるだけの財力なんて持ち合わせていないのだから。
でも、財力なんてあたしには関係なくて、恐らく彼もそんな財力は欲しくないのだと思う。
まあ、それはあたしの意見で彼の勝手だけど。
二宮徹也は夢を見た。
世界は閉じて
球体になり
またはじまる
汗だくで目が覚めた。
何のことか意味はわからないが、言葉だけが脳裏に焼き付いている。
ディストピアを望む執着すら煩わしい。
起き抜けに一本吸う。
ガタイがいいから随分年上に見られた。
「タッパもあるしツラもいいから、君、営業向いてるよ、やってみる?」
「まだ学生なんで」
俺は断った。体のいい嘘。
金は要らない。
要らないが、仕事は要る。
いや、どっちも要らないかもしれない。
〇〇通りに面した店のドアマン。
中の世界は俺とは関係のない世界。
ぎりぎりの狭間で、俺は黒服を着て立っている。
とりあえず、11時に間に合うようにここを出る。
向こうで一本吸えればいい。
あたしは何故、彼がドアマンなんてしているのか、聞いてみたいだけ。どう生きていたら、ドアマンの仕事が回ってくるのかわからないから。
黒服が似合っているけれど、そのこと自体を嫌っているみたい。
長い睫毛も、彫の深い三白眼も、きっと彼はニセモノみたいに扱うはずだ。自分のものなのに。
まあ、それはあたしの意見で彼の勝手だけど。
でも、あたしのこころは動いたんだよ?黒服さん。
生まれて初めて詩なんて創りました。
聞かせてくれないかな?君の夢を。
多分こう言うはず。
「夢なんてないし、意味もない」
死に至る病は絶望のことである。
誰かが言ってた言葉だけど、あたしは違うと思ってる。
そういうことを、君と話したら素敵だなと思う。
