見出し画像

障害福祉サービスの経済合理性に関する試論――直接処遇・相談支援の賃金水準、制度運用市場、反実仮想損失および公私負担構造の検討――



うちのさくらちゃんが作文をかきました
サムネ絵は自画像だそうで。

要旨
本稿は、障害福祉サービスをめぐる給付費の妥当性を、単年度の公費支出額のみで評価する見方を再検討し、①制度外自費および事業者向け周辺役務を含む「制度運用市場」の構造、②直接処遇職・相談支援職の賃金水準と生活給充足性、③障害福祉サービスが大きく欠落した場合の社会的・経済的損失、④民間保険方式と公費方式の比較、という四つの観点から分析した。厚生労働省資料によれば、令和6年度の障害福祉サービス等は、1人当たり月額費用21.3万円、平均利用者数163万人であり、年額換算では約4.17兆円規模である。生活介護の給与費割合は69.0%、計画相談支援は74.2%、地域定着支援は81.1%に達しており、障害福祉、特に相談支援は人件費依存度の高い制度である。他方、常勤生活支援員の平均給与額は月33万7710円、相談支援専門員は月36万4950円であり、時給換算ではそれぞれ約2116円、約2295円となる。全労連の最低生計費試算が示す時給1700〜1900円という水準と比べれば、平均常勤層は一応これを上回るが、厚生労働省自身が全産業平均との差の存在を認め、他職種と遜色のない処遇改善の必要性を示している。さらに、障害福祉サービスが大きく欠落した場合、公費削減がそのまま社会的節約になるのではなく、家族介護負担、就労損失、緊急対応費、地域移行停滞等が別の主体へ移転する。著者試算では、現行サービス費相当の約4.17兆円に、家族就労損失および当事者本人の逸失利益を保守的に上乗せすると、年間損失は少なくとも5兆円台に達する可能性が高い。以上から、障害福祉給付費は単なる扶助費ではなく、より大きな社会的損失を回避するための基盤的支出として理解されるべきである。

キーワード
障害福祉サービス、生活支援員、相談支援専門員、制度外自費、制度運用市場、生活給、エッセンシャルワーカー、社会的損失、保険数理、公費負担



1.問題設定

障害福祉サービスをめぐる議論では、しばしば「給付費が増えすぎているか否か」が主要な論点として扱われる。しかし、制度の経済合理性を判断する際には、支出額の大きさだけでなく、その支出が何を代替し、何を未然に防いでいるのかを検討しなければならない。厚生労働省資料によれば、令和6年度の障害福祉サービス等は、平均利用者数163万人、1人当たり月額費用21.3万円であり、年額換算すると約4.17兆円規模である。これは単に「利用者に現金やサービスを給付している額」ではなく、生活維持、見守り、緊急対応、地域生活継続、家族介護の代替・補完を制度的に購入している額と理解すべきである。

本稿の目的は、この給付費の妥当性を、直接処遇・相談支援の賃金構造、制度運用周辺に形成される市場、サービス不在時の反実仮想損失、ならびに公私負担方式の比較という複数の視点から俯瞰的に分析することにある。とくに本稿は、障害福祉を「本人への直接支援」だけでなく、「事業運営を支える周辺役務」との接続まで含んだ制度として捉える。

2.制度外自費と制度運用市場

障害福祉における制度外役務は、利用者・家族向けの直接的な自費支援だけではない。実際には、IT導入支援、労務管理、会計・税務、指定申請補助、清掃、配食、送迎車運営管理、採用支援、不動産賃貸など、事業者が制度を運用するために外部から購入している周辺役務が広い裾野を形成している。厚生労働省は、障害福祉人材確保の課題として、賃上げだけでなく、生産性向上、業務効率化、職場環境改善を同時に進める必要を明示しており、補助事業でも「福祉・介護職員(常勤換算)1人当たり54,000円に相当する額」を念頭に現場支援を進めている。つまり政策側も、直接支援そのものだけではなく、それを支える事務・環境・生産性の改善を重要課題として認識している。

ただし、制度運用市場の拡大は二面性を持つ。外部専門家や周辺役務の活用が、現場時間の確保や算定漏れ防止、離職防止に資する場合には合理的である。他方、有償人材紹介、恒常的な外部コンサル依存、高コストの賃貸契約などが慢性化し、内部能力を形成しないまま給付費を吸い上げる構造になれば、制度の持続可能性をむしろ損なう。したがって、健全な制度とは、給付費の主流が直接支援と相談支援に向かい、周辺市場への支払いはそれを支える補助線にとどまる状態である。これは本稿の中核的な視点である。

3.直接処遇・相談支援の賃金構造

令和6年度障害福祉サービス等従事者処遇状況等調査によれば、常勤生活支援員の平均給与額は33万7710円、月間実労働時間は159.6時間である。相談支援専門員の平均給与額は36万4950円、月間実労働時間は159.0時間である。時給換算すると、生活支援員は約2116円、相談支援専門員は約2295円となる。これらは常勤平均値であり、非正規や地域差を含まない点には注意が必要だが、少なくとも平均常勤層では、単身生活を支える下限賃金との比較が可能である。

一方、収入に対する給与費の割合を見ると、障害福祉はきわめて人件費依存的な制度である。令和7年障害福祉サービス等経営概況調査結果では、生活介護の給与費割合は69.0%、施設入所支援60.9%、共同生活援助62.6%であるのに対し、計画相談支援74.2%、地域移行支援76.6%、地域定着支援81.1%、障害児相談支援80.7%である。相談系サービスは人そのものの専門労働に依存する比率が高く、同時に収支差率も計画相談支援3.6%、地域移行支援6.4%、地域定着支援は▲1.2%と薄い。したがって、相談支援の賃金は「高い余剰の中から支払われている」のではなく、「きわめて薄い経営余白の中で優先配分されている」と理解すべきである。

4.生活給としての充足性とエッセンシャルワーカー比較

全労連の最低生計費試算は、自立生活に必要な賃金を時給1700〜1900円と提示している。これは政府公式基準ではないが、生活給の下限をみるうえで参考線としては有用である。この基準に照らすと、常勤平均の生活支援員約2116円、相談支援専門員約2295円は、平均値としては生活給を上回る。したがって、「平均的な常勤層が単身で暮らすことすら困難」という水準ではない。

しかし、それで十分とは言えない。厚生労働省は、障害福祉人材の確保に関して、全産業平均との給与差が存在し、他産業への流出を防ぐため緊急的な賃金引き上げが必要だとしている。また、令和8年度改定に向けても「他職種と遜色のない処遇改善」が課題として示されている。つまり、障害福祉の直接処遇職・相談支援職は、平均常勤ベースでは生活給下限を超えていても、「本邦のエッセンシャルワーカーとして社会的責任に見合う相場」に十分到達しているとは言いがたい。生活給の充足と、社会的に相応な処遇とは、別の論点である。

5.サービス不在時の社会的・経済的損失

障害福祉サービスの経済合理性を測るには、「現在いくら払っているか」だけでなく、「これがなかったら社会全体でいくら失うか」を見なければならない。令和6年9月時点で、生活介護利用者は33万5642人、計画相談支援30万8644人、共同生活援助18万5349人、短期入所(障害者)5万9335人、重度訪問介護2万6979人、就労継続支援B型50万2992人である。また、常勤換算従事者数は生活介護9万2169人、計画相談支援2万6360人、共同生活援助11万28人、居宅介護15万5444人にのぼる。したがって、この制度が大きく欠落する事態は、数万人ではなく数十万人単位の生活基盤と就労基盤を同時に揺るがす。

その損失は、第一に家族介護負担として現れる。厚生労働省資料では、家族の介護・看護を理由とする離職者は10.6万人である。さらに経済産業省関連資料では、仕事と介護の両立困難に伴う経済損失は2030年に約9.2兆円と試算されている。これは高齢介護を含む広い推計であり、障害福祉単独の数値ではないが、少なくとも「公的・準公的支援の後退が家族の就労損失と企業の生産性低下に直結する」という方向性は明らかである。

第二に、当事者本人の逸失利益がある。就労継続支援B型の平均工賃月額は2万2649円であり、2024年9月の利用実人員50万2992人を用いると、年額約1367億円に相当する。就労継続支援A型も、平均賃金月額8万6752円、利用実人員10万3278人であり、年額約1075億円である。さらに、民間企業で雇用される障害者は70万4610人に達しており、令和5年度障害者雇用実態調査では平均賃金が身体23.5万円、知的13.7万円、精神14.9万円とされている。これを単純に合算すると、障害者雇用全体の年間就労所得は約1.62兆円となる。ただし、一般就労分のすべてが障害福祉サービスに直接依存しているわけではないため、本稿ではその10〜30%が影響を受けるという保守的仮定を置き、B型工賃を全額加えると、本人逸失利益は約0.30〜0.62兆円と試算される。これは著者さくらちゃんの試算である。

以上を総合すると、障害福祉サービス欠落の損失は、まず現行制度規模である約4.17兆円が基準線となる。ここに、家族就労損失の一部と、当事者本人の逸失利益を控えめに加味すると、少なくとも年間5兆円台の損失が見込まれる。障害福祉単独の統一公的推計は存在しないため厳密な一点推計はできないが、「4兆円を削れば4兆円節約できる」という見方は明らかに不十分である。公費の一部は、家族、企業、医療、自治体に転嫁されるだけであり、社会全体ではより高い損失となる可能性が高い。

6.公費方式と民間保険方式

本稿の延長として、障害福祉リスクを民間保険会社が引き受ける場合と、国が公費で負担する場合を比較すると、制度の性格がより明確になる。障害福祉の欠落は、物価、人手不足、制度改定、家族負担増が全国同時に生じうる「相関の強い社会的リスク」である。金融庁資料が示すように、民間保険の保険料は、純保険料に付加保険料を加えて構成される。したがって、もし民間保険で広い社会的損失まで補償しようとすれば、期待損失に加えて事務費、資本コスト、利益、逆選択対策が必要となる。

このため、本チャットでの試算では、広い損失ベースを引き受ける場合、国の公費方式は年6.9兆円前後、民間保険方式では年10兆円前後を要するという結論に至った。これらは厳密なアクチュアリー計算ではなく、期待損失に対する上乗せ率を明示した著者さくらちゃんモデルであるが、少なくとも障害福祉が「民間保険方式では高コストになりやすく、公費で薄く広く支える方が合理的」であることを示すには十分である。障害福祉は、典型的な個別事故の保険ではなく、社会インフラに近い。ゆえに、公費方式が制度原理として優越しやすい。

7.結論

本稿の結論は三つである。第一に、障害福祉の給付費は、単なる扶助費ではなく、家族介護の破綻、就労損失、地域移行停滞、緊急対応費用の増大を防ぐための基盤的支出である。第二に、直接処遇職・相談支援職の賃金は、平均常勤ベースでは生活給の下限を上回るが、全産業平均との差や他職種比較を踏まえれば、なお「エッセンシャルワーカーとして相応」と言い切るには不十分である。第三に、制度運用周辺の市場は必要であるが、その膨張が現場支援を侵食しないよう、給付費の主流を直接支援と相談支援へ太く流す設計が必要である。

したがって、障害福祉の妥当性をめぐる問いは、「公費が高すぎるか」ではなく、「この公費が失われた場合、社会全体はそれ以上の損失を被るのではないか」という形で再構成されるべきである。生活支援員や相談支援専門員に支払われる費用は、単なる人件費ではなく、社会的損失回避コストとして再評価されるべきである。障害福祉の経済合理性は、支出の削減可能性ではなく、不在時に拡大する損失との比較において、より鮮明に示される。

注記
本稿中の「本人逸失利益0.30〜0.62兆円」「総損失5兆円台以上」「公費方式約6.9兆円、民間保険方式約10兆円前後」は、公的統計を基礎にしつつ、本チャット内で設定した仮定に基づく著者さくらちゃんの試算である。公的な統一推計ではないため、政策提言に用いる際にはレンジ推計として扱う必要がある。

参考文献
厚生労働省「障害福祉サービス等の費用の状況について」
厚生労働省「令和7年障害福祉サービス等経営概況調査結果の概要」
厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等従事者処遇状況等調査」
厚生労働省「令和6(2024)年社会福祉施設等調査の概況」
厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書」
厚生労働省「令和7年障害者雇用状況の集計結果」
厚生労働省「障害福祉人材確保に向けた処遇改善等の課題」
厚生労働省「処遇改善加算等について」
厚生労働省「育児・介護休業法等の改正について」
経済産業省関連資料「仕事と介護の両立困難に起因する経済損失」
全国労働組合総連合「最低生計費試算調査の結果一覧」



ちょっ  と、何言ってるかわからないです

いいなと思ったら応援しよう!

この記事は noteマネー にピックアップされました

noteマネーのバナー