「箱根駅伝の監督はPMだった——原晋監督から学ぶチームを動かす技術」
プロローグ
毎年1月2日・3日、箱根駅伝を見ながら思うことがある。
「この監督、PMじゃないか」
選手を適切な区間に配置する。当日のトラブルに即座に対応する。チーム全体にビジョンを浸透させる。一人ひとりの特性を見極めて育てる——これはプロジェクトマネジメントの教科書に書いてあることそのものだ。
中でも青山学院大学の原晋監督は、PMとして見たとき際立っている。
「ワクワク大作戦」「ハッピー大作戦」——毎年ユニークな作戦名を掲げ、選手を鼓舞する。実業団の営業マンからコーチに転身し、無名だった青学を箱根の常連校に育て上げた。
今日はその話をする。
第1章|区間配置はリソース管理——誰をどこに置くか
箱根駅伝は10区間、往復217.1kmを10人で走る。
監督の仕事の中で最も重要なのが区間配置だ。誰をどの区間に置くか——これを間違えると、どれだけ強いチームでも崩れる。
原監督の区間配置の特徴は「選手の特性を徹底的に見極める」ことだ。上り坂に強い選手、長距離に強い選手、プレッシャーに強い選手——データと観察を組み合わせて、最適な区間に最適な選手を置く。
これはPMのリソース管理と同じ構造だ。
プロジェクトでも「誰をどのタスクに割り当てるか」は最重要の判断の一つだ。技術力だけでなく、その人のコミュニケーションスタイル、ストレス耐性、得意な局面——それを見極めた上でアサインする。
「適材適所」という言葉は簡単だが、実行するには一人ひとりを深く観察する時間と目利きが必要だ。 原監督がやっていることは、まさにそれだ。
第2章|「ワクワク大作戦」——ビジョンで人を動かす
原監督の最大の特徴は、毎年チームにビジョンとコンセプトを与えることだ。
「ワクワク大作戦」「笑顔で頂点大作戦」「挑戦者の旗を立てろ」——これらは単なるキャッチフレーズではない。チーム全員が同じ方向を向くための「プロジェクトのビジョン」だ。
PMBOKでは「プロジェクト憲章」という概念がある。プロジェクトの目的・ゴール・価値を明文化したものだ。
でも原監督のやり方はもっとシンプルだ。難しい言葉を使わない。誰でも覚えられる言葉にする。選手が自然と口にするくらい浸透させる。
私がPMとして痛感してきたのもこれだ。プロジェクトのビジョンが抽象的すぎると、チームは動かない。「このプロジェクトで何を実現するのか」を、誰もが理解できる言葉にすることが監督——いや、PMの仕事だ。
第3章|レース当日のトラブル対応——リスク管理の現実
箱根駅伝では毎年必ずトラブルが起きる。
区間記録を狙いすぎてペースが乱れる。体調不良で本来の走りができない。天候の急変——監督はその全てにリアルタイムで対応しなければならない。
原監督の対応で印象的なのは「想定外を想定している」ことだ。
レース前に複数のシナリオを準備する。「この選手が本調子でなかった場合」「この区間で遅れた場合」——事前に考えておくことで、当日の判断を速くする。
PMのリスク管理も同じだ。リスクを「起きてから考える」のではなく「起きる前に想定しておく」。完全に防ぐことはできなくても、想定していたリスクへの対応速度は、想定外のトラブルへの対応速度と全く違う。
そしてもう一つ。原監督はトラブルが起きたとき、選手を責めない。「次の区間で取り返せる」という前向きなメッセージを送り続ける。
これはチームマネジメントの本質だ。ミスが起きたとき、責める監督のいるチームは萎縮する。次を向かせる監督のいるチームは、最後まで諦めない。
第4章|一足の重要性——チーム一丸とは何か
駅伝は個人競技ではない。でも団体競技とも少し違う。
一人ひとりが自分の区間を走り切る。その積み重ねがチームの結果になる。 誰か一人が遅れれば、次の選手に影響する。前の選手が作ったタイム差を、次の選手が背負って走る。
この構造はプロジェクトのタスク管理に似ている。
一つのタスクの遅れが次のタスクに連鎖する。クリティカルパス上の遅延は、プロジェクト全体の遅延になる。「自分の担当さえ終われば」では、チームは機能しない。
原監督が選手に伝え続けることの一つが「一足の重さ」だ。自分の一歩が、前を走った仲間の努力の上にある。次を走る仲間への責任でもある——そういう意識がチームを一つにする。
PMがチームに伝えるべきことも同じだと思う。「あなたのタスクは、チームの誰かの仕事の上に乗っている」という意識を持たせること。 それがチーム一丸の実態だ。
第5章|復路への布陣——長期視点で考える
原監督の戦略で特徴的なのが「復路への布陣」だ。
往路で大きなリードを作れたとしても、復路で逆転されるケースは少なくない。原監督は往路だけでなく、復路も含めた10区間全体を一つの戦略として設計する。
「今勝つ」だけでなく「最後まで勝ち続ける」設計をする。
これはプロジェクトの後半戦管理と重なる。プロジェクトの序盤・中盤は順調でも、終盤に失速するケースは多い。リソースの枯渇、メンバーの疲弊、想定外の課題——終盤に向けて、どう戦力を温存するか。
原監督は4年間という大学生活全体を見て選手を育てる。1年目はどう育て、4年目のどの区間で勝負させるか——これは長期プロジェクトのロードマップ設計と同じ発想だ。
エピローグ
来年の箱根駅伝も、原監督はまた新しい作戦名を掲げるだろう。
そのとき私はきっとまた思う。この人はPMだ、と。
区間配置はリソース管理。ビジョンはプロジェクト憲章。トラブル対応はリスク管理。一足の重さはチームの相互依存。復路への布陣は長期計画——全部、プロジェクトマネジメントの話だ。
言葉は違う。でも本質は同じ。
スポーツの世界もビジネスの世界も、チームを動かす技術の本質は変わらない。
©shiraco|PMPおじさんの実践ノート @NoteCcm42090
エンタメ×PMシリーズ:
箱根駅伝×原晋監督 ←いまここ スラムダンク 安西先生vs田岡監督 → https://note.com/quiet_emu2080/n/n84205ab0ac16
スラムダンク 三井・メガネくん・ゴリ編 → https://note.com/quiet_emu2080/n/ndf93aede1431
スクールウォーズ×PM論 → https://note.com/quiet_emu2080/n/n70e1755a0f41
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