努力は量か質か?——この議論がズレている理由
正直に言う。
「努力は量か、質か」——この議論を20年間、現場で聞き続けてきた。
若手に「量をこなせ」と言うベテランがいる。一方で「質を上げろ、無駄な時間は捨てろ」と言うコンサルもいる。書店に並ぶビジネス書も、量派と質派に二分されている。
でも、20年プロジェクトマネジャーをやってきて確信していることがある。
この議論は、最初からズレている。
量でも質でもない。本当の分岐点は別にある。
「頑張っているのに結果が出ない」の正体
私のところに相談に来る若手PMで、最も多い悩みがこれだ。
「毎日12時間働いています。週末も勉強しています。でも評価が上がりません」
「資格を3つ取りました。研修も受けています。でもプロジェクトを任されません」
「同期より明らかに努力しているのに、なぜか同期の方が伸びています」
彼らの努力は、嘘ではない。サボっているわけでもない。本当に頑張っている。
それでも結果が出ない。
このとき多くの人が「量が足りないのか」「質が低いのか」と自問する。そしてさらに量を増やすか、質を上げる方法を探し始める。
ここが最初の罠だ。
努力は、3つの要素で決まる
20年の現場で見えてきた構造はシンプルだ。
努力の成果は、次の3つの掛け算で決まる。
第一に、方向。正しい方向に向いているか。
第二に、量。十分な時間と労力を投じているか。
第三に、質。一回あたりの密度が高いか。
問題は、この3つの順番だ。
ほとんどの人は「量」と「質」を最初に議論する。でも本当の分岐点は「方向」だ。方向が間違っていれば、量を増やしても質を上げても、結果は出ない。むしろ間違った方向に高速で進むことになる。
間違った方向で100時間走った人と、正しい方向で10時間歩いた人。
伸びるのは後者だ。
なぜ「方向」が議論されないのか
理由はシンプルだ。
方向を決めるのは、頭が痛い作業だからだ。
量を増やすのは簡単だ。早く起きて、遅くまで働けばいい。
質を上げるのも、まだ分かりやすい。本を読み、研修に行き、フィードバックをもらえばいい。
でも「方向が正しいか」を問うことは、これまでの努力を否定するリスクを伴う。
「自分はもしかして、間違った方向に何年も走ってきたのではないか」
「これまでの3年間は、無駄だったのではないか」
この問いに正面から向き合うのは、痛い。だから多くの人は無意識に避ける。そして「もっと頑張れば」「もっと工夫すれば」という、量と質の議論に逃げる。
これが、努力がズレる構造の正体だ。
PMの現場で見てきた「方向ズレ」の典型
20年の現場で、方向がズレている人の典型パターンを3つ挙げる。
第一のパターンは、「上司に評価される努力」に全振りしている人だ。
資料を綺麗に作る。報告を丁寧にする。会議で発言する。これらは上司の評価には繋がる。でも、クライアントから信頼されるPMになるという目的には、半分しか繋がらない。上司が転勤すれば、その努力の価値は一気に目減りする。
第二のパターンは、「資格コレクター」になっている人だ。
PMP、ITストラテジスト、中小企業診断士——資格を取り続けている。本人は「キャリアアップのため」と言う。でも実際の現場で、資格の知識が活きる場面は限定的だ。資格学習の時間を、現場の課題解決に向けていれば、3倍の成果が出ていたケースを何度も見た。
第三のパターンは、「便利屋」として全方位に応えている人だ。
頼まれた仕事を断らない。誰からも好かれる。一見、優秀に見える。でも、専門性が育たない。5年経っても「何ができる人なのか」が他人に説明できない。便利さと専門性は、両立しない。
この3つに共通するのは、努力の量も質も十分だということだ。
ズレているのは方向だけだ。
では、方向はどう決めるのか
ここが本当に難しい。
「正しい方向」を一発で見つける方法は、存在しない。
ただし、方向がズレているサインは存在する。3つある。
サイン1:3年やっても、自分の専門性を一行で説明できない
専門性とは「他の人と差別化できる、自分だけの強み」のことだ。3年同じ努力を続けて、それを一行で説明できないなら、方向がズレている可能性が高い。
サイン2:努力した結果が、別の場所で通用しない
今の会社、今の上司、今のプロジェクトでしか評価されない努力は、方向がズレている。市場価値という観点で見たとき、転用できない努力は、ローカルな最適化に過ぎない。
サイン3:努力の先に、自分が「なりたい姿」がない
「これを5年続けたら、どうなるか」を想像してワクワクしないなら、方向がズレている。義務感だけで続けている努力は、量も質も伸びない。
このサインに一つでも当てはまるなら、立ち止まって方向を問い直す価値がある。
「努力は裏切らない」の本当の意味
よく「努力は裏切らない」と言われる。
私はこの言葉が嫌いだった。20代の頃、毎日深夜まで働いていたのに評価されなかった経験があるからだ。「努力は裏切る」と本気で思っていた。
でも今は分かる。
努力は裏切らない。ただし、方向が合っていれば。
方向が正しければ、量も質も後からついてくる。方向さえ合っていれば、最初は遅くても、3年後には別人になっている。
逆に、方向がズレていれば、どれだけ量を増やしても、どれだけ質を磨いても、結果は出ない。
努力の議論はずっとズレてきた。問題は量でも質でもない。
どこに向けているか、だ。
次回予告
このシリーズでは、「努力がズレる構造」を全3回で解き明かす。
第2回:努力しても伸びない人は「効率化」に逃げている
第3回:役職で仕事をすると失敗する——役割で働く法
「自分の努力はズレているかもしれない」と感じた人は、第2回も読んでほしい。効率化の罠と、ハマる領域の見つけ方を書く。
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▼マガジン
努力がズレる構造
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©shiraco|PMPおじさんの実践ノート @NoteCcm42090
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