【エッセイ】あたためますか? #232食欲は正直者
私は藤堂みのり。内科医である。
毎日、毎日暑い日が続いている。
一体この夏、「暑い」という言葉を何回口にしたのか分からない。
もしかすると、クーラーのおかげで少しは減っているのかもしれない。
そのクーラーと言えば、故障中のため我が家に居候している妹と、食料の買い出しへ出かけることになった。
スーパーへ着いても、献立は決めていない。
私はいつも売り場を歩きながら、その日に食べたいものを直感で決める。
振り返ると似たような料理が続いていることもあるが、その時の身体が求めているものなのだろう。
理由までは、自分でもよく分かっていない。
今回は、一応妹にも聞いてみた。
「何が食べたい?」
返ってきた答えは、とても夏らしいものだった。
「暑いから、何でもいい。」
夏になると食欲が落ちる人がいる。
それが我が妹である。
同じ血筋なのに、私の食欲は年中無休の二十四時間営業である。
暑くても食べる。
寒くても食べる。
季節に関係なく、お腹はしっかり空く。
だから夏でも太ってしまう。
困ったものだ。
スーパーを歩いていると、ふと豚肉が目に入った。
その瞬間、頭の中に冷しゃぶが浮かぶ。
「今日はこれだ。」
そんな確信にも似た直感が働いた。
家に帰り、豚肉をさっと茹でる。
氷水で冷やし、たっぷりの千切りキャベツの上へ盛り付ける。
見た目にも涼しく、食欲をそそる一皿になった。

「いただきます。」
妹は「少しだけ」と言いながら箸を伸ばした。
一口食べる。
もう一口。
気が付けば、さっきまで食欲がないと言っていた人とは思えない勢いで食べている。
「これなら食べられる。」
その一言を聞いて、私は少しうれしくなった。
食欲がない時は、無理をして食べなくてもいい。
でも、「これなら食べたい」と思える料理に出会えたなら、それは身体からの優しい合図なのだと思う。
もっとも、私の場合は、その合図が一年中鳴りっぱなしなのだけれど。
「おいしい」と思って食べられること。
それは、暑い夏を元気に乗り切るための、一番のごちそうなのかもしれない。
