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🌸経営未来手帳・第173号「人は仕事で失敗するのではない」――阿部前監督の事件から考える「関係性の質」

🌸経営未来手帳・第173号
「人は仕事で失敗するのではない」
――阿部前監督の事件から考える「関係性の質」

(執筆:安村明史/ビジネス能力開発株式会社)
月曜は、経営の本質を問う、骨太な経営者の在り方などを、過去の偉大な先達、歴史や事象などから一緒に読み取っていきます。組織や経営者の在り方を学ぶ時間です。


■はじめに

阿部前監督の辞任から、1か月が過ぎようとしています。
阿部前監督に関する報道を見て、いまだ多くの人がもやもやした気持ちでいるのではないかと思います。
巨人という球団は、良くも悪くも“物語性”が強いチームです。 だからこそ、今回のような出来事は 感情の整理に時間がかかる。
もちろん、事件の是非や法的な判断は司法に委ねられるべきものであり、外側から見ている私たちが安易に裁くことはできません。
ただ、私が気になったのは、事件そのものとは少し別のことでした。なぜ、組織で成果を出してきた人が、最も身近な家庭の中で関係性を失ってしまうことがあるのか、ということです。
これは、経営者やリーダーにとって決して他人事ではありません。人は、仕事で失敗するのではなく、本当は関係性の中で失敗していくのかもしれないからです。
今日は、そのことを「成功循環モデル」から考えてみたいと思います。


■結果を出す人ほど、関係性を後回しにする

組織の中で成果を出す人は、強い責任感を持っています。勝たなければならない、成果を出さなければならない、周囲の期待に応えなければならないという緊張感の中で、人は知らず知らずのうちに「結果」を最優先にするようになります。
結果を出すために行動を変え、行動を変えるために思考を鍛え、思考を鍛えるために厳しさを持つ。仕事の世界では、それが評価されることも多いでしょう。
しかし、成功循環モデルでは、本来、結果の前にあるものは「関係性の質」です。関係性の質が高まることで思考の質が高まり、思考の質が高まることで行動の質が高まり、その結果として成果が生まれます。
つまり、成果とは、関係性の上に咲く花です。
ところが、リーダーは成果を追うあまり、この順番を忘れてしまうことがあります。結果を出すことを急ぎ、行動を求め、考え方を正そうとし、最後に関係性を何とかしようとするのです。
この順番になると、人は動いているように見えても、心は少しずつ離れていきます。


■家庭は、役職が通用しない場所である

職場には、役職があります。肩書があり、責任範囲があり、指揮命令系統があります。しかし、家庭にはそれがありません。
親であること、夫であること、妻であること、子であること。そこにあるのは、肩書ではなく、関係性です。
職場では通用した厳しさが、家庭では通用しないことがあります。職場では「指導」と受け取られた言葉が、家庭では「支配」と受け取られることがあります。職場では「責任感」と見られた姿勢が、家庭では「余裕のなさ」として伝わることがあります。
ここに、リーダーの難しさがあります。
外では成果を出している。周囲からは評価されている。多くの人を率いている。それでも、最も近い人との関係性が少しずつ細っていくことがあるのです。
これは、有名人だけの話ではありません。経営者にもあります。管理職にもあります。家庭を持つすべての人にあります。


■成功循環モデルは、家庭にもある

関係性の質は、職場だけの話ではありません。家庭にも、親子にも、夫婦にも、関係性の質があります。
関係性の質が下がると、相手の言葉を悪く受け取るようになります。すると、思考の質が下がります。「どうして分からないのか」「なぜ言うことを聞かないのか」「自分はこんなに頑張っているのに」という思考が強くなると、行動の質も下がります。
言葉が強くなり、表情が硬くなり、沈黙が増え、相手を変えようとする。そして結果として、関係はさらに悪くなっていきます。
これもまた、循環です。
成果を生む循環があるように、関係を壊す循環もあります。怖いのは、本人だけがその循環に気づきにくいことです。


■リーダーが最後に問われるもの

リーダーは、成果で評価されます。売上、勝敗、業績、数字、組織の成長。それは当然です。
しかし、人生の最後に問われるものは、本当に成果だけなのでしょうか。
「あの人は結果を出した」という評価も、もちろん大切です。けれど同時に、「あの人と一緒にいて安心できた」「あの人は、最後まで人を大切にした」「あの人は、近い人との関係を粗末にしなかった」と言われることも、リーダーにとって大切な成果ではないでしょうか。
仕事で勝つことは大事です。しかし、関係性を失ってまで勝つことが、本当に勝利なのか。
これは、私自身にも返ってくる問いです。


■編集後記

今回のような事件を見たとき、私たちはつい、遠くから評価したくなります。けれど本当は、自分の中にも似た構造がないかを静かに見つめる必要があるのだと思います。
忙しい時ほど、近い人への言葉が雑になる。成果を求められる時ほど、身近な人の表情を見なくなる。これは、誰にでも起こり得ることです。
関係性は、壊れる時に大きな音を立てません。小さな沈黙の積み重ねで、少しずつ遠くなっていきます。


■今日の問いかけ

あなたは、最も身近な人との関係性を後回しにしていないでしょうか。
仕事で成果を出すために、家庭や近い人との関係を無意識に犠牲にしていないでしょうか。
そして、あなたの組織では、結果の前にある「関係性の質」をどれだけ大切にしているでしょうか。


■ネコのつぶやき

「近くにいる人ほど、ちゃんと見ないと見えなくなるにゃ」


■おわりに

人は、仕事で失敗するのではない。本当は、関係性の質を見失った時に、少しずつ失敗へ向かっていくのかもしれません。
成果は大切です。責任も大切です。勝つことも、逃げずにやり切ることも大切です。しかし、その土台にあるのは、やはり関係性です。
リーダーが最後に問われるのは、どれだけ成果を上げたかだけではなく、どのような関係性を残したかです。そこに、経営者としての成熟が静かに表れるのだと思います。


■今日の結論

リーダーが最後に問われるのは、成果ではなく、関係性かもしれない。



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■次回6月30日予告

「なぜ、世界の小売り大手が日本で失敗したのか」 LinkedInでは英語版


■安村 明史

🌸経営未来手帳
組織・経営の相談役「静かに伴走する役割」

#経営者の深夜食堂


■付録

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