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「属人化=悪」の呪縛を解く。正解のないビジネスを勝ち抜く武器として磨くべし。

はじめに

「これ、属人化を排除して誰が担当しても同じクオリティが出せるようマニュアル化しておいて」
「標準化したメニューを使えばコストは下がるだろう」

会議室で飛び交う、もはや呪文のような正論。

どこへ行っても、「俗人化」は悪、「標準化」は正義。
組織設計においても、インプット、プロセス、アウトプットの標準化はセオリーだ。
インターネットを検索すれば、属人化を排除し、標準化を目指すサービスがたくさん出てくる。

わかります。正しいと思います。
でも、ちゃんと考えないと、落とし穴があると思うのです。

標準化されたチラシのような提案書を見て、魅力を感じますか?
並外れた人間的魅力で顧客を引き付け続けた営業担当者の能力をマニュアル化できますか?


1.「標準化」と「属人化」

まず、「標準化」と「属人化」を整理してみます。

1.1. 「標準化」

標準化:業務のプロセスとアウトプットから「ばらつき(変数)」を排除し、誰がやっても同じ結果が出るようにすること、またはその状態。

その本質は「再現性の最大化」と「スケール(規模の拡大)」、そして「コスト削減」です。いずれも企業のビジネス拡大、利益最大化に寄与する、経営にとって重要な要素です。標準化が「正義」とされる所以です。

1.2. 「属人化」

属人化:業務のプロセスやアウトプットが、特定の個人のスキル、経験、感性、人間力に強く依存している状態。

一方、「属人化」の本質は、「個別最適化」と「付加価値の最大化」です。短期的・局所的には効率的であるものの、人材の代替可能性がないことから業務継続性が低く、高コスト化しやすく、スケールできないという大きなデメリットがあります。これが多くの職場において「悪」とされる理由です。

2. 「標準化」したらつまらなくなる理由

第1章で示したように、「標準化」はいいことづくめのように見えますが、限界があります。

一言で言うと、「そこそこいいもの」を安く大量に作れるようになりますが、「めちゃくちゃいいもの」は作れません。

2.1. 誰にでもできるものしかできない

原則として、「標準化」で目指すクオリティは「入手可能なリソース(人材など)の最低レベル」に合わせることになります。入手可能なリソースで実現できないと標準化自体が実現できないからです。

そのクオリティはインプットリソースの底上げによって引き上げることは可能ですが、熟練人材のレベルには及びません。

2.2. 大量生産品の凡庸さ

同質なアウトプットを大量に作ることになります。優れた工業製品であれば価値もありますが、唯一無二の魅力は持ちえないでしょう。

これは第二次産業革命のころに人類は経験済みであるはずです。ウィリアム・モリスらがアーツ・アンド・クラフツ運動を立ち上げ、のちのアール・ヌーヴォー、モダニズムに大きな影響を与え、現在のアートやデザインの礎となっているのは周知の事実です。

アーツ・アンド・クラフツ運動(Arts and Crafts Movement):19世紀後半にイギリスでウィリアム・モリスが主導した、産業革命による大量生産・粗悪品に反発し、手仕事の美しさや職人の技術を復興させようとしたデザイン・社会運動です。植物や自然をモチーフにした生活用品を制作し、日用品の質の向上と、生活と芸術の融合を目指した。

2.3. 科学的管理法(テイラー・システム)の限界

「科学的管理法(テイラー・システム)」は、ちょうど前述の「アーツ・アンド・クラフツ運動」と同じ時代に提唱された、労働の標準化・マニュアル化の元祖です。工場労働においては革命的でしたが、「考える労働」と「実行する労働」を分離したため、労働者からモチベーションと創造性を奪いました。

これと同じく、「標準化」は、人のモチベーションと創造性を奪う懸念があります。

科学的管理法(テイラー・システム):20世紀初頭にフレデリック・テイラーが提唱した、時間研究と動作研究に基づいて作業を標準化・効率化するマネジメント手法。作業の「唯一最善の方法(One Best Way)」を確立し、課業(ノルマ)設定と成功報酬で生産性を飛躍的に向上させた。

2.4. パーソナライゼーション時代への逆行

ビッグデータやAIなどの技術進歩によって、顧客の行動履歴、属性、好みをデータ分析し、個々人に最適化された商品、コンテンツ、体験を個別に提供するマーケティングに切り替わりつつあります。「標準化」はこのニーズに逆行したアプローチです(プロセスの一部分を標準化するのであれば有効です)。

2.5. 【極論】すべてのアーティストが手順書通りの作品を作ったら…?

これはややズルい比喩ですが、アートが「標準化」されたら、こんなにつまらないものはないでしょう。すべてのアーティストが手順書通りの作品を制作し、公開する。すべての人が「そんなのアートじゃない!」と叫ぶはずです。

3. 「標準化」すべき業務と、「属人化」すべき業務

先ほどのアートの例は極論でしたが、ビジネスにおいてはどうでしょうか?こちらは「標準化」が有効に作用する部分がたくさんあります。

3.1. 標準化すべきは「正解がある」業務

ズバリ、「標準化」すべき業務と、「属人化」すべき業務を切り分ける基準は「正解がある」か「正解がない」かではないかだと思います。

正解があれば、プロセスを定義してマニュアル化できるから「標準化」可能です。そしてその「正解」の通りのアウトプットを出力できればいいわけです。この領域は、どんどん「標準化」すべきです。逆に、正解がなければ、プロセスの定義やマニュアル化はできません。

  • 標準化すべき業務 =「正解がある(または、ルールで正解を定義できる)業務」

    • 特徴: 効率、正確性、コンプライアンスが問われるもの。

    • 例示: 経費精算プロセス、システムの定常保守・監視、セキュリティ要件のチェック、契約書の基本リーガルチェック、仕様が完全に固まった後のコーディング。

  • 属人化(職人化)すべき業務 =「正解がない(顧客や状況によって正解が変わる)業務」

    • 特徴: 創造性、共感、高度な文脈理解、信頼構築が問われるもの。

    • 例示: 新規事業のビジョン策定、顧客の潜在課題を引き出すヒアリング、心を動かす提案書のストーリー構築、プロジェクト炎上時のステークホルダー間の火消し・調停、デザインのコンセプトメイク。

「クネビン・フレームワーク」という意思決定モデルで言えば、因果関係が解明可能な「単純(Clear)」「煩雑(Complicated)」の領域だけです。

クネビンフレームワーク(Cynefin Framework):デイビッド・スノーデンが開発した、状況(問題)の複雑性に応じて意思決定やリーダーシップのスタイルを変えるための5つの領域(単純、煩雑、複雑、混沌、無秩序)を持つフレームワーク。状況を「因果関係」で見極め、アプローチを決定する。

3.2. SECIモデルに乗らないポランニーの「暗黙知」

野中郁次郎氏のSECIモデルは、暗黙知と形式知を変換・共有することで、組織的に知識を創造していくプロセスを示します。しかし、マイケル・ポランニー氏は、暗黙知には「自転車の乗り方」や「天才的な営業の間の取り方」のように、原理的に言語化不可能な領域が存在すると主張しました。ここを無理に「標準化」しようとすると、そのスキルの本質は死にます。

そのような領域は、仮に何らかの言語化をしたとしても、それを読むだけで他者が容易に真似できるものではありません。

4. 「正解のない」業務は恐れず「属人化」せよ

第3章で書いたように、「正解のある」業務は「属人化」を排除し、「標準化」すべきです。一方、「正解のない」業務は、堂々と「属人化」すべきです。

4.1. 「属人化」のポテンシャルを活かせ

正解のない「属人化」領域には、「標準化」では到達不可能な「感動」や「心を動かす」領域に到達できるポテンシャルがあります。

この領域は「職人技」の世界です。JTCで定着した「属人化=悪」という定説を振り払って、本人も、周囲も、この価値を認めるべきです。

「標準化」可能な領域は、いずれコモディティ化します。スペックでも価格でも差別化できなくなります。AI時代にそのスピードは加速度的に上がるでしょう。コモディティ化しない「属人性」の存在を認め、強化していくことがより一層重要性を帯びてきています。

4.2. 「標準化」はできずとも、伝えることはできる

先ほど、マイケル・ポランニー氏の言葉を借りて、「原理的に言語化不可能な領域が存在する」と言いました。しかし、伝えることはできます。厳密には、伝えようとすることはできます。

ひとつは職人技のように、ものを見せ、やってみせ、やらせてみるのです。部分的に言語化されている知識を引用することも補足になります。聞いている側も最初はちんぷんかんぷんかもしれませんが、少しずつ学んでいくことはできます。なんとも地道ですが、一子相伝形式です。

それから、もう少しビジネスの現場で気軽にできることとして、最近考えているのは「エッセイ」です。エッセイには正解はありません。主観的、情緒的でもよいものです。その中にこそ、正解のない属人的なエッセンスが入っているはずです。

正直、伝達の確実性・正確性は期待できませんが、各人が熟練者のエッセンスを読み取ることで、部分的な学びを得ることくらいはできるはずです。また、異なる専門性や特徴を有する他者がその要素を取り入れることで新しい価値が生まれる可能性もあります。

職場で作るよう指示されるのは、マニュアルや手順書が多いですが、今年度はこのような「エッセイ」にチャレンジしようと思っています。

おわりに

標準化によって、ビジネスをスケールし、利益最大化することはもちろんすばらしいことです。

しかし、「自分らしさ(=属人性)」でしか到達できない高みがあります。ここを無視してビジネスの現場で勝てるとは思えません。ましてや、近年のビジネス環境は正解がわからないと言われています。排除すべき「悪」としてではなく、勝利の手段としてこの「属人性」を活かしていくことを考えていきたいと思っています。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!


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