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第4話 区分マンションを買った日

会社員収入だけに生活を預けないために、初めて区分マンションを買った日の記録。利回りより先に見たのは、毎月の現金収支だった。

買った日は、思っていたより静かだった。

人生が変わる音はしなかった。
銀行のアプリに花火も上がらなかった。
スマホも震えなかった。

ただ、口座の残高が減った。

かなり減った。

数字は正直だった。
こちらの気持ちなど、まったく見ていない。

財布だけが、先に退場している。

でも、その日から少しだけ、生活の見え方が変わった。

投資家になった感じはなかった

区分マンションを買う前、私は不動産を持つ人に少し違う空気を感じていた。

余裕がある人。
判断が早い人。
数字に強い人。
どこか別の世界にいる人。

でも、自分が買う側になっても、急に何かが変わるわけではなかった。

買う前の日も会社員だった。
買った日も会社員だった。
買った翌日も会社員だった。

朝は起きる。
仕事に行く。
メールを見る。
会議に出る。
帰ってくる。
食費を気にする。

生活はそのままだった。

変わったのは、生活の中に「家賃収入」という別の線が入ったことだった。

太い線ではない。
細い線だった。

でも、給与とは違う場所から入ってくる線だった。

利回りより先に、毎月の現金収支を見た

不動産の話になると、利回りという言葉が出てくる。

表面利回り。
実質利回り。
年間収入。
購入価格。
管理費。
修繕積立金。
固定資産税。

言葉だけ見ると、急に大人のテストが始まる。

しかも問題文が長い。
読み終わる前に、心が先に席を立つ。

でも、最初に見たかったのは、もっと単純なことだった。

毎月、いくら入るのか。
毎月、いくら出ていくのか。
毎月、いくら残るのか。

月次CF。
つまり、毎月の現金収支。

ここを見た。

家賃が入る。
管理費が出る。
修繕積立金が出る。
管理会社への費用が出る。
固定資産税は年に一度出る。
空室になれば、家賃は止まる。
修理があれば、現金は出る。

買う前から、夢の話ではなかった。

むしろ、かなり地味だった。

現金で買う怖さ

現金で買うと、借金は残らない。

その安心感はある。

でも、現金は減る。

これが怖い。

借金がないから安心。
でも、手元現金が減るから怖い。

この2つは、同時に起きる。

人間の感情は、こういう同時処理にあまり向いていない。
脳はすぐに「どっちなの」と聞いてくる。

安心なのか。
不安なのか。

答えは、両方だった。

無借金で持てる安心。
現金が減る不安。
家賃が入る期待。
空室になる怖さ。
資産を持つ実感。
売れないかもしれない不安。

全部あった。

だから、気持ちではなく順番で見た。

1つ目。
手元現金が残るか。

2つ目。
空室でも生活が止まらないか。

3つ目。
管理費と修繕積立金を払っても、毎月の現金収支が残るか。

4つ目。
売る時に困りすぎない物件か。

5つ目。
自分が理解できる範囲の物件か。

ここで見るのは、気合いではなく金額。

気合いは、管理費を払ってくれない。

買ったのは部屋ではなく、入金の仕組みだった

最初は、部屋を買う感覚だった。

場所。
築年数。
駅からの距離。
広さ。
階数。
管理状態。

もちろん、それは見る。

でも、途中から見方が変わった。

私は部屋を買っているのではなく、毎月の入金の仕組みを買っている。

そう思うようになった。

見た目がきれいでも、毎月の現金収支が弱ければ続かない。
利回りが高くても、管理状態が悪ければ怖い。
価格が安くても、出口が見えなければ持ち続けるしかない。
家賃が高くても、空室が長ければ意味がない。

不動産は、買った瞬間に終わらない。

むしろ、買った後から始まる。

家賃が入るか。
入居者が続くか。
管理費は上がらないか。
修繕積立金は足りるか。
固定資産税を忘れないか。
退去が出た時に現金が残っているか。

固定費が、知らないうちに先発メンバーに入っている。

だから、先に分ける。

収入。
支出。
手残り。
税金。
修繕。
空室。
出口。

順番に見る。

会社員収入の外に、小さな柱を置く

第3話で書いたように、私は会社員収入だけを信じることが怖くなった。

会社員収入は強い。

でも、評価、異動、賞与、昇給は自分だけでは決められない。

生活費を払うのは自分。
でも、給与を決めるのは自分だけではない。

そこにずれがある。

区分マンションを買った理由は、会社員をやめるためではなかった。

会社員収入の外に、小さな柱を置くためだった。

その柱は、太くない。
派手でもない。
人生を一発で変えるものでもない。

毎月、数万円が残るかどうか。
税金を払ったら、さらに小さくなる。
修繕があれば、すぐ減る。
空室になれば、止まる。

でも、給与とは違う。

その違いが大きかった。

給与以外の入金がある。

それだけで、生活を少し引いて見られるようになった。

資産は、持った瞬間から管理になる

買った瞬間は、達成感がある。

でも、すぐに管理が始まる。

管理会社からの連絡。
入金確認。
固定資産税。
保険。
更新。
修繕。
確定申告。
書類保管。
出口の確認。

資産を持つというより、管理するものが増えた。

ここで少し冷静になる。

資産形成という言葉は、耳ざわりがいい。
でも、実際は書類が増える。
封筒が増える。
PDFが増える。
ログインIDが増える。

資産形成は、たまに紙の山として現れる。

笑いごとではあるが、月末には数字になる。

だから、記録する。

どの物件から、いくら入ったか。
どの費用が、いつ出たか。
固定資産税はいくらか。
管理費はいくらか。
修繕積立金はいくらか。
年間でいくら残ったか。

記録しないと、気分で判断してしまう。

気分はだいたい、入金日だけ明るい。
支払日には急に黙る。

買ってよかったかは、すぐには分からない

買った日に、「買ってよかった」とは言い切れなかった。

まだ分からない。

不動産は、時間が経たないと見えない。

入居者が続くか。
修繕が出るか。
管理費が上がるか。
周辺家賃が下がるか。
売りたい時に売れるか。
税金を払った後に残るか。

買った瞬間だけで判断できない。

だから、買った日の感情は、少し横に置いた。

うれしい。
怖い。
不安。
少し誇らしい。
かなり緊張している。

全部あった。

でも、感情だけでは保有できない。

保有するには、毎月の現金収支を見るしかない。

月次CF。
毎月の現金収支。

それが残るなら、続けられる。
それが崩れるなら、見直す。

投資というより、生活の点検に近かった。

区分マンションを買った日

区分マンションを買った日。

私は投資家になったのではない。

会社員収入の外に、小さな入金の線を引いた。

それだけだった。

でも、その線は、生活の見方を変えた。

給与だけを見るのをやめた。
年収だけを見るのをやめた。
利回りだけを見るのをやめた。
毎月の現金収支を見るようになった。

資産を持つことは、自由になることではなかった。

自由に近づくために、管理するものを増やすことだった。

少し面倒。
少し怖い。
少し地味。

でも、静かに残る。

記録。

FAQ

Q. 区分マンションを買えば、会社員収入に頼らなくてよくなりますか?

いいえ。

区分マンションの家賃収入だけで生活できる人は限られます。
最初は、会社員収入を補う小さな柱として見る方が現実的です。

大切なのは、毎月いくら入って、いくら出て、いくら残るかです。

Q. 利回りだけ見れば買っていいですか?

いいえ。

利回りは入口の数字です。
管理費、修繕積立金、固定資産税、空室、修繕、出口も見ます。

利回りがよくても、現金が残らなければ続きません。

Q. 現金購入とローン購入はどちらがよいですか?

この記事では判断しません。

現金購入には、借金がない安心があります。
一方で、手元現金が減る怖さがあります。

ローン購入には、手元現金を残せる面があります。
一方で、返済が固定費になります。

どちらも、毎月の現金収支と生活防衛資金で見ます。

Q. 買った後に一番大事なことは何ですか?

記録です。

家賃。
管理費。
修繕積立金。
固定資産税。
修繕費。
空室期間。
更新料。
税引後の手残り。

これを残さないと、資産形成ではなく、なんとなく保有になります。

Q. この連載は投資判断の参考になりますか?

投資判断の推奨ではありません。

この連載は、生活設計に至るまでの記録です。
具体的な購入判断は、自分の収入、支出、手元現金、リスク許容度、専門家の確認を前提にしてください。

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前回の記録はこちら。
第3話 会社員収入だけを信じられなくなった日

この連載は、こちらにまとめている。
創作大賞2026マガジン

次回予定。
第5話 評価から外された日

この連載は、生活設計に至るまでの記録として再構成している。
投資判断の推奨ではない。

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