まだいない猫のはなし。|第7話🐾 14時30分のカーテンと、静かな違和感
その日は、友人と一緒に、いつもとは違うペットショップへ立ち寄った。
お店の入口には、熊本地震で被災したペットたちを心配し、チェーン店として支援活動を行っていることを伝える、手描きのイラスト入りの掲示が貼られていた。
それを見て、最初は胸が温かくなった。
(動物たちのことを大切に考えている、いいお店だな……)
そんな好印象を抱いて一歩足を踏み入れたのだが、店内を進むにつれて、私の中に少しずつ小さな違和感が芽生え始めた。
入口こそ綺麗だったものの、駐車場には雑然とゴミが散らばっている。
ショーウィンドウの前には折り畳んだ大きな段ボール箱が乱雑に置かれ、今日届いたばかりというより、ずっとそこに置かれているような空気を纏っていた。
そして、広い店内はどこか「しーん」と静まり返っている。
フード棚は歯抜けのようにスカスカ。
販売されているケージも、小さめのものがたった二つあるだけだった。
ほかのケージは段ボールに入ったまま壁に立てかけられ、商品写真もプライスカードもついていない。
(なんだか不思議なお店だな……)
目的だった犬猫の展示エリアにたどり着くと、そこは分厚いカーテンで覆われていた。
『14:00〜14:30は休憩時間です』
看板の文字を見て、私はまた、自分を納得させるように好意的に考えた。
(あ、そっか。動物たちの睡眠時間やストレスをちゃんと考えて、休ませてあげているお店なんだな)
時計を見ると、もうすぐ14時30分。
せっかくだからと、カーテンが開くのを待つことにした。
けれど、14時30分を過ぎてもカーテンは開かない。
予定の時間を15分ほど過ぎた頃、ようやく静かにカーテンが開けられた。
中にいたのは、7匹ほどの猫たち。
生後数ヶ月の小さな子猫というより、少し大きくなった子が多かった。
狭い空間で小さくうずくまっているエキゾチック。
片眼を失ったペルシャ。
どの子もほとんど動かず、私にはどこか元気がなさそうに見えた。
そして最後に目が合ったのが、オッドアイのブリティッシュ。
とても美しい子だった。
その子は、ガラス越しにこちらを向いて座っていた。
確かに、私と目が合っている。
なのに、まったく動かない。
目を見開いたまま、表情ひとつ変えないのだ。
(……え? ぬいぐるみ?)
一瞬、本気でそう思ってしまうほどだった。
じっと息を呑んで見つめていると、お腹がわずかに上下している。
「あ、生きてた」
「……ぬいぐるみなわけないやろ」
隣で友人が呆れたように笑う。
購入する予定もなかったので価格などは確認せず、私たちはそのまま静かに店を出た。
店を出たところで、友人がぼそっと呟いた。
「……ここ、よくないな」
「うん……」
私も、それ以上は何も言わなかった。
入口で見た、動物たちを思いやる手描きの掲示。
休憩時間を知らせる、分厚いカーテン。
雑然と置かれた段ボール。
そして、あの瞳のまま動かなかったブリティッシュ。
ひとつひとつには、きっと事情があるのかもしれない。
だから私は、そのたびに自分を納得させようとした。
それでも。
お店を出たあとも、胸の奥に残った小さな違和感だけは、どうしても消えなかった。
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