Last Cross — 止まる僕と進む君 第7話 「伸ばした手は」
Last Cross — 止まる僕と進む君 第1話 「あたり前が壊れた日」|観察者AiMe
Last Cross — 止まる僕と進む君 第6話 「初めてのデート、最後のデート」|観察者AiMe
(……今日が……最後の日だ……)
隼人はゆっくりと目を開けた。
胸の奥が、昨日までとは違う静かな痛みで満たされていた。
左手を見る。
外せなかったペアリングが、朝の光を受けて淡く輝いている。
その瞬間、
昨日の観覧車のキス、
ソフトクリームの甘さ、
莉愛の笑顔──
全部が胸の奥で一気に蘇った。
(……莉愛……
和也……
今日……ちゃんと笑えるかな……)
服に袖を通し、玄関へ向かう。
「……行ってきます」
その声が、ほんの少し震えた。
母が振り返る。
「隼人……?」
父も、妹も、
隼人の“いつもと違う空気”に気づいた。
母「……いってらっしゃい。 ちゃんと帰ってくるのよ?」
隼人は小さく笑った。
「……うん」
玄関の扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。
待ち合わせ場所の公園に着くと、
和也と莉愛がすでに来ていた。
和也「おーい、隼人!遅いぞ!」
莉愛「おはよう、隼人くん!」
隼人は自然と笑った。
そのとき、
莉愛と隼人の視線がふと重なった。
お互いの左手のリングに気づく。
莉愛の頬が赤くなる。
隼人も思わず目をそらす。
和也「ん?お前らなんでそんな赤いの?」
二人「「な、なんでもない!!」」
和也はニヤッと笑った。
「へぇ〜……まぁいいけどよ。 結婚式にはちゃんと呼んでくれよ」
莉愛「なっ……!ちがっ……!」
隼人は一瞬だけ視線を落とした。
胸の奥が、ほんの少しだけ痛む。
でもすぐに顔を上げ、いつも通りの笑顔を作った。
隼人「……ああ。呼ぶよ。絶対にな」
その自分の言葉が熱を帯びているように感じた。
和也「言ったな!?録音しときゃよかったわ!」
3人の笑い声が、朝の公園に広がった。
「あ、和也にこれプレゼント」
隼人は自分の熱が冷める前にポケットにしまっておいたキーホルダーを取り出し、和也に渡す。
「これって、あの遊園地のマスコットキャラだっけ?子供の頃よく真似してたっけなぁ」
「いつも和也が変身とか言って、空中に向かって攻撃してたよね」
「そうそう。いつも私と隼人くんが囚われた友達役?だっけ。させられてたよね」
「なぜか、僕たちはいいつも囚われてた…… でもあの頃から和也は僕のヒーローだったんだ」
和也は少し照れ臭そうに下を向いてぼそぼそ言った。
「ありがとよ……」
隼人と莉愛はそんな和也をみて笑い合っていた。
ベンチに座ると、自然と昔話になった。
和也「覚えてるか?小学生の時、この公園で秘密基地作ったよな」
莉愛「うん……!隼人くんがリーダーだったんだよね」
隼人「……そうだったっけ」
和也「お前が一番真面目に地図描いてたんだよ。“ここが俺たちの国だ!”って」
隼人「僕……そんなこと言ったっけ」
和也「こいつはすごいやつだ。 って当時の俺は思ってたんだからよ」
隼人「ありがとう。 和也」
和也「なんだよいきなり! ……気持ち悪いな」
3人は笑い合った。
隼人には自分の声だけが、消えていくように感じていた。
莉愛がふと、大きな木を見つめた。
「……ねぇ……あそこ……覚えてる……?」
和也「おお……!あの木の下……!」
3人は駆け寄った。
土を掘ると、錆びた小さな缶が出てきた。
中には──
和也のヒーローカード
莉愛の折り紙の花
隼人の描いた3人の絵
和也「懐かしすぎる……!」
莉愛「こんなにボロボロになって……」
隼人「……3人で……こんなの作ってたんだな……」
3人は笑い合った。
その笑顔は、どこか涙に近かった。
(これから、描かれる絵には…… もう……)
和也「今日の分も入れようぜ」
莉愛「うん……!今日の思い出も……残したい……」
「やっぱり、大事なものはヒーローが見守ってないとな」
そう言うと、和也は隼人にもらったヒーローキーホルダーを入れた。
莉愛はペアリングの箱をそっと置いた。
隼人はその箱を見てどこか温かい気持ちになった。
「まだ、その箱……持っててくれたんだ」
莉愛は恥ずかしそうに俯きながら答える。
「だって、隼人くんとの思い出のプレゼントだから……」
「そっか……」
隼人は二人に背を向けるようにして、二枚の手紙を取り出した。
その背中が、ほんの少しだけ震えているように見えた。
和也と莉愛は、声をかけられなかった。
隼人の“何か”が、静かに遠ざかっていく気がしたからだ。
一枚は莉愛へ。
一枚は和也へ。
隼人「ここは……僕たちの約束の場所で……思い出の場所だから」
3人は静かにうなずき、
タイムカプセルを土に戻した。
時計は15:45分を指していた。
和也「じゃ、俺こっち行くわ」
莉愛「またね、隼人くん!」
隼人は二人の顔を見て、
ほんの少しだけ笑った。
「……さようなら」
隼人の声は、風の中に消えていった。
二人と別れてすぐ、隼人は公園へ戻った。
15:58──約束の場所へ
タイムカプセルを埋めた木の前に立つ。
(……ここが……僕たちの……約束の場所……)
隼人は左手のリングを見つめた。
(……ここで……僕は消えるんだ……)
15:59──心臓の異変
ドクン。
胸の奥が跳ねた。
ドクン。
ドクン。
今までの発作とは違う。
冷たさでも、視界の白さでもない。
心臓が、壊れそうなほど高鳴る。
(……来た……)
でも怖くない。
むしろ温かい。
16:00──
世界が白く染まり始めた。
そのとき──
隼人の視界に、莉愛がいた。
昨日の観覧車で見た、
あの照れた笑顔。
夕日の光を受けて、
優しく笑っている。
隼人は息を呑んだ。
(……莉愛……)
隼人はその姿に向かって手を伸ばした。
どれだけ伸ばしても届かない、
隼人は感覚がなくなっていく腕をそれでも伸ばし続けた。
(……ありがとう……)
光が強くなる。
隼人「……僕は……ちゃんと……生きたよ……」
その言葉とともに、
隼人の身体は光に溶けていった。
木の根元には、隼人の指から外れたリングだけが残った。
同時刻
莉愛の歩いていた足が止まった。
胸が突然、締めつけられる。
「……っ……」
息が震える。
理由なんて、どこにもない。
でも──
隼人がいなくなった。
そんなありもしないはずの感覚が、
胸の奥を容赦なく締めつけた。
「……隼人くん……?」
涙が一粒、頬を伝った。
次の瞬間には、駆け出していた。
和也は家の前で靴を脱ごうとした瞬間、
胸がズキッと痛んだ。
「……っ……なんだよ……これ……」
涙が落ちる。
理由もなく。
胸の奥が、
ぽっかりと穴が空いたみたいに冷たい。
大切な誰かを失った気がした。
でも──
誰なのか思い出せない。
「……誰だよ…… なんで……思い出せねぇんだよ……」
拳が震えた
和也はそれでも行かなければいけないと、次の瞬間には、駆け出していた。
