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yamada_tourist
わがダンスをご覧あれ!
俺は舞っている奴を描く。
薄衣の水干を纏って、空を漂うごとく、水中を泳ぐごとくに身をくねらせて、袖をはためかせて舞う奴を描き写す。
俺は親から勧められるまま娶った妻を、これまで慈しみ睦ましく暮らしていた。よい縁であったと満ち足りた日々を過ごしていたのだ。
奴とまた出くわすまでは。
奴は竹馬の友であった。
常に肩を組んで転げ回りじゃれ合って、時には掴み合い、噛みつき合って争った。道場では木剣を交えては時に血を流し、皿に盛られた握り飯を共に頬張った。
そして江戸から明治へと、世は大きく変わっていった。
武士、藩士という身分から放り出されて、俺は食うためにあらゆる生業を試して転々とした。
手習いの師匠として落ち着いてから、妻と慎ましい暮らしをしている。
神社の夏祭りで久方振りに顔を合わせた奴は、芝居小屋で働いていると告げた。役者をやったり舞台の造作の手入れをしたりで、暢気に暮らしているという。
神社の境内で懐かしい顔を眺めていて、俺は身が奮えた。
こんなにも愛しい者と、何年も離れていたなんて。
熱く魂が通い合った幼い日々が、手に取るようによみがえった。
奴とは、毎夜神社で遭うようになった。
手習い塾では絵も教えているが、奴の姿を境内の石灯篭の傍らで絵に描くのが至福の時である。
イギリスの言葉で舞を『ダンス』というらしい。
「わがダンスをご覧あれ!」
そう言って舞う奴を、俺は描く。
今の俺には、それだけが生きがいなのである。
《了》
