深夜の電話
10月の深夜2時。駅のシャッターは閉まって人通りも無くなった。駅前のロータリーには冷たい風が吹いている。私はバス停のベンチに座る。
この前まで真夏日とか言ってたが、この時間にTシャツは寒い。出掛ける時に母が「由香里、帰りは冷えるから上に何か羽織った方が良いよ。男の子もいるの?飲み会。飲み過ぎないようにね」と心配してくれていたのだが、私は「まだ暑いから」とその助言に従わなかった。
飲み会帰りの身体が冷える。少し震える指でスマホを操作して電話をかける。右手の人差し指のネイルが剥げかけている。そろそろ秋らしい新しいものにしてもらわないと。
プルルルー、プルルルー、プルルルー。
「おかけになった電話は電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないためかかりません」
この時間だから母はもう寝ているのだろう。
ロータリーの反対側にあるコンビニに行くことにする。ホットコーヒーを飲んで寒さを和らげよう。酔いも醒めるだろう。
ホットコーヒーのカップを両手で包むように持つと手から暖かさが身体に染み渡っていく。
もう一度スマホを取り出し履歴から電話をかける。
プルルルー、プルルルー、プルルルー。
私はコーヒーカップに口をつける。
「んぁ、はい、ん?」
母が今度は電話に出た。私はホットコーヒーを飲み込んでから話し始める。
「子供の時にアニメのヒーローを見て、超能力とか、魔法とかに憧れてた」
「んー」と寝ぼけた母が相槌のような声を出す。
「でも手から火が出たり、星が出たりするのも、大人になって思うと使う場面はないね。建物とか壊して弁償することになるし」
「んー」
「でもさ、瞬間移動っていいよね。あれはいいな。乗り物が無くてもすぐに目的地に行けるもんね」
「んー」
「ごめん、終電に乗り遅れた。迎えに来てくれない?」
「んー?」
「ハーゲンダッツ」
「んーっ!?」
「買うから」
ふぅん、と母が吐息を漏らす。これは悪くない時のふぅんだ。不機嫌なら「ふーん」となるので。
アイスの魔力で目覚めたらしい母が言う。
「ストロベリー、クッキー&クリーム、マカダミア」
3つかぁ。でも来てくれるなんて有難い。
「んー、承知しました。よろしくお願いします」
ふわぁ、と母は1つあくびをすると急に元気な声で
「マイカー1台配車ですね!ノーメイクでお迎えに上がりまぁーす。少々お待ちください!」
母の元気な声がロータリーにまで響いたような気がした。
(了)
