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【日本防衛の原点に立ち返る:第1回】ーー『自分の国は自分で守る』

はじめに

今日から毎週月曜日、このnoteで「日本防衛の原点」を問い続けます。

論文ではありません。政策提言でもありません。

四十年近く空自の制服を着て、F-15のコックピットに座り、部隊を率い、退官後もこの国の安全保障を考え続けてきた一人の元軍人が、今という時代に正直に向き合おうとする思考の記録です。

答えを持っているわけではありません。しかし問いを立てることならできます。皆さんとともに考えたい。ただそれだけです。

初回となる今日は、なぜ今このシリーズを始めるのか、私が何を問おうとしているのか、その全体像をお話しします。


シャングリラ会合が突きつけたもの

本題に入る前に、先週末に閉幕した第二十三回シャングリラ会合(IISS主催・シンガポール)について、どうしても触れておかなければなりません。

この会合で示されたことが、本日これから始める思索の出発点を、より鮮明なものにしたからです。

五月三十日、ヘグセス国防長官は基調演説の中で、同盟国を「被保護国」扱いすることを明確に否定し、富裕国の防衛を米国が肩代わりする時代は終わったと言い切りました。そしてGDPの三・五パーセントを防衛費に充てることを同盟国に公然と要求しました。

「長い間、この地域の安全はアメリカの軍事力に不均衡に依存してきた」——長官がそう述べたとき、会場の空気が変わったのを多くの参加者が感じたはずです。(2026年5月30日、シャングリラ会合基調演説)

質疑の場で、小泉防衛大臣は米国のコミットメントが揺るぎないと感じている一方、一部の国々がそれを過小評価しているかもしれないと述べ、同盟国への明確な保証を求めました。

しかしヘグセス長官の回答は、保証ではなく優先軸の列挙でした。国家防衛戦略の四本柱——本土・西半球防衛、インド太平洋における中国の抑止、負担分担、防衛産業基盤の強化——を示すことで、米国の優先軸が変わったことを数字と順序で提示した形です。求めた問いに正面から答えない。その構造自体が、一つのメッセージでした。

長官はさらにこう述べました。利益が一致するとき米国は決意をもって行動するが、利益が乖離するときは実際的に調整する、と。

これは外交辞令ではありません。同盟の本質が「共通の価値」から「利益の一致」へと、公式に軸足を移したという宣言です。

作戦的視点から言えば、意味は単純です。日本自身が戦える実力を持ち、相応の負担を担う意思を示さない限り、米国の介入判断は変数になる。そういう時代に入りました。

「平時の言葉で包まれた有事の論理」——今回の会合を包んでいた空気を、私はそう表現します。

私が信じてきたもの

現役の頃、私は日米同盟を「日本の安全保障の基軸」と捉えていました。

正確に言えば、信じていたというより、それ以外に現実的な選択肢がないと判断していた、というほうが正確かもしれません。

本来、国家の防衛は自国の力によって担われるべきものです。それが主権国家の原則であり、防衛の原点です。しかし戦後日本の出発点を振り返れば、憲法の制約、財政の制限、国民感情のあり方、そして東西冷戦という国際構造の中で、日本は独力による完全な自己防衛の道を選ばなかった。いや、選べなかった。

自ら守るべきが本則であるにもかかわらず、その道を歩めなかった。その結果として選ばれた日米同盟は、自国防衛の原則から見れば次善の枠組みです。

私はずっとそう思っていました。

しかし現実において機能する枠組みでもあった。自国だけでは補えない抑止力を、米国の核の傘と前方展開戦力によって補完する体制。それが日米安保条約に基づく同盟の本質でした。

だからこそ、その同盟を「可能な限り強固にすること」が実務上の責任であると考えていました。

条約の文字だけでは同盟は機能しません。人と人の信頼関係、運用上の相互理解、共通の訓練による連携の深化、そして互いの価値観への敬意。こうした絆を丁寧に積み重ねることが、同盟を実効性あるものにすると信じて、その仕事に誠実であろうとしました。

あの頃、米国の軍事的覇権は揺るぎないものでした。冷戦に勝利し、唯一の超大国として世界秩序を支え、同盟国に対して寛大であり続けた米国。その存在を疑う理由は、どこにもなかった。

時代が変わった

しかし今、私はこう問わざるを得ません。

「その選択は、まだ機能し続けているか」と。

世界の構造が変わっています。今回のシャングリラ会合が示す通り、圧倒的な一極覇権によって国際秩序を維持できた時代は過去のものになりました。

中国は経済的にも軍事的にも米国に拮抗する存在となり、ロシアはウクライナへの侵攻によって欧州の安全保障を根底から揺さぶりました。米国自身は深刻な政治的分断を抱え、「世界の警察官」としての役割に対する国民の支持が確実に揺らいでいます。

日本との同盟について言えば、「米国は有事に本当に動くか」という問いは、もはや杞憂ではありません。

「アメリカは尖閣を守るか」——この問いは私が現役の頃からありましたが、今やその切実さは比較になりません。日本が自ら守ろうとしない限り、米国が動く理由はない。今回の会合はそのことを、改めて公式の場で確認した場でもありました。

駐留米軍の再編議論、在日米軍経費の負担問題、同盟の取引化とも受け取れる政治的言動。これらはすべて、かつて自明視されていた同盟の「意思」の部分に、深刻な疑問符を刻んでいます。

装備や訓練によって相互運用性を高めることはできます。しかし、いざという瞬間に「戦う」という政治的意思は、条約に書かれた文字から生まれるものではありません。それは関係の深さと信頼から生まれるものですが、その信頼の土台が今、根底から問い直されています。

原点とは何か

では「原点に立ち返る」とは何を意味するのか。

反米でも、同盟破棄の主張でも、核武装論でも、ましてや扇情的なナショナリズムへの回帰でもありません。

「自国の防衛は、まず自国が担う」という当たり前の前提を、改めて真剣に考えるということです。

戦後日本は、この前提をある意味で留保してきました。憲法九条の解釈、専守防衛の概念、GDP一パーセント枠。これらは時代の産物であり、それなりの合理性を持っていました。

しかし今や、その留保が日本の防衛力の天井になっていないか。あるいは「米国がいるから大丈夫」という無意識の依存が、自国の防衛を真剣に考える営みを阻害していないか。

私が問いたいのは、そこです。

防衛の原点とは、究極において「この国は自らの力で守る」という国民の意志と、それを支える実力の問題です。同盟は、その意志と実力の上に成立するものでなければなりません。今回のシャングリラ会合で示された米国の要求は、そのことを改めて突きつけています。

同盟に頼るがゆえに自らの実力を持たない——その逆転が、いつの間にか常態化してはいないか。

次週の問い――同盟国アメリカはいつ変わったか

今後数回、私はまず「米国という同盟国」を徹底的に見直すことから始めます。

日本防衛の原点を論じるには、その前提として「なぜ同盟の基軸が今、揺らいでいるのか」を冷静に解剖しなければなりません。感情論でも親米・反米でもなく、事実として米国に何が起きたのかを直視する。それなしに「日本はどう自立するか」を語っても、議論は空回りします。

私の見立てでは、米国の変容の転換点は2001年9月11日、すなわち9.11です。

私はその時、航空幕僚監部で防衛部長を務めていましたが、あの軍事大国米国が悶え苦しむ様を間近に目の当たりにしました。

あの日以前の米国は、冷戦勝利後の自信の頂点にいました。軍事的覇権は揺るぎなく、同盟国への関与は惜しみなく、民主主義と自由の旗手として世界を主導していた。

しかしあの朝、ニューヨークの空に黒煙が立ち上った瞬間、何かが変わった。恐怖が超大国を動かし始めた。

その後のイラク戦争は、米国の戦略的失敗として歴史に刻まれます。根拠なき口実で始まった戦争、出口のない占領の泥沼、数千人の戦死者と数百兆円規模の戦費、そして何も得られなかったという現実。この失敗が米国社会の深部に残した傷は、エリートへの不信、政府への怒り、「なぜ我々の息子が遠い国で死なねばならないのか」という問いとなって堆積していきました。

「米国はトランプのせいで変わった」という見方は、あまりに表層的です。変容の根はもっと深いところにある。その一本の線を来週、丁寧に辿ります。

では、また来週月曜日にお会いしましょう。

このシリーズの地図――全体目次

最後に、このシリーズ全体の道筋を簡単にご紹介します。

まず数回かけて「同盟国アメリカ」を問い直します。米国はなぜ変わったのか。トランプという現象は何を意味するのか。日米同盟は今も機能しているのか。

その上で「日本防衛の現実」を直視します。抑止とは何か。専守防衛という概念は今も有効か。中国の脅威、南西諸島の最前線、そして自衛隊は本当に戦えるか。

最後に「日本の生き残り戦略」として、同盟・抑止・自立をどう統合するかを論じます。

詳しい目次は以下の通りです。順序や内容は情勢に応じて調整しますが、問いの核心は変わりません。

第一部 同盟国アメリカを問い直す(第二〜五回)
第二部 日本防衛の現実を直視する(第六〜十回)
第三部 日本の自立と生き残り戦略(第十一〜十三回)

毎週月曜日、このテーマで発信します。

安全保障は、自衛官だけに任せておける問題ではありません。この国に暮らし、この国の行く末を思うすべての人が、考える権利と責任を持っています。

考えることが、最初の防衛です。

Always Check Your Six O’clock.

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元空将  永岩俊道:   国家安全保障アナリスト、 Appreciate it❣️