花澤薫『すべて失われる者たち』の感想〈noteで出会った作家たち〉
『すべて失われる者たち』には三十二編の短編小説が収められている。なかでも印象に残ったのは「抜け殻の音楽」だ。
人生のやるせなさ、のようなものを感じて身につまされる。理由もなく突然身近な人がいなくなったり、人と人との関係がブツッと切れてしまったり。
「抜け殻の音楽」は東日本大震災の直後の物語だ。主人公は、震災によって卒業式が中止になり、大学受験も失敗して浪人生になった四人の少年。彼らは、予備校に通いながらバンド活動をしていた。だが、メンバーの一人である敦司の父親の行方が分からなくなる。父親は、福島で震災に巻き込まれてしまったらしい。
その事件をきっかけに、四人の心はバラバラになってしまう。父親の見つからない敦司は、進学を諦めて就職するという。彼の脱退をきっかけにバンド活動はやがて自然消滅してしまう。
こういった現実の残酷さを感じる作品が多い。
同じようなテーマを扱った話として、「キラキラのそのあとで」や「金木犀の香りは悲しみ」も印象に残っている。どちらも身近な人の自死というテーマを扱っている。
ところで、この本にはある「仕掛け」がある。
本書の三十二編の短編小説は、当然、そのすべてが著者によって書かれた作品だと思うだろう。だが、その思い込みは裏切られる。途中まで読み進めた読者は、そこから先が「ブルック・キーツ」なる性別不詳の海外作家の作品だと明かされるのだ。
これはとても驚いた。
『すべて失われる者たち』に収録されている作品の三分の一は「ブルック・キーツ」の作品の日本語訳ということになっているのだ。個人的に、村上春樹の『風の歌を聴け』に登場する架空の作家「デレク・ハートフィールド」を思い出した。
ネタバレになってしまうので詳しくは言えないが、最後にさらなる「仕掛け」「どんでん返し」が待っている。そこはぜひ読んで確認してほしい。
ただ、日本を舞台にした前半の作品のほうがリアリティを感じた。仕掛けやギミックに頼らない直球の作品集も読んでみたいと思った。

