48+2 ②
好きなアルバムの話の続きをします。とは言え前の記事の画像とは全然違う顔ぶれが並びます。今の方が趣味は固まっている気がしますが、また変わる可能性も否めません。とにかく今書きたいアルバムを選びました。
11. Nirvana - In Utero
代表作、"Nevermind"に次ぐスタジオアルバム。衆目に晒される中で、カートの承認欲求と大衆への辟易が交錯する。その音像を、スティーブ・アルビニの退廃的なミックスが縁取る。
"Rape Me"は衝撃的なタイトルと"Smells-"的リフ、破滅的な詞が特徴であり、メジャー化の象徴を自ら再構成する、ある種の自壊行為だ。
また、"Radio Friendly Unit Shifters" では、ラジオで軽薄に消費される音楽を嘆く。誰にも自分の声は届いていないかのように。
少なくとも、カートが見ている世界はそうだった。これが最後のスタジオ・アルバムになったのも偶然ではないのだろう。Nirvanaのソングライティングは、しばしば“ポップ”だと評される。彼は、自らが紡ぐメロディーの美しさと、心の重く沈む部分とのギャップに苦しんだのだろうか。それとも、その繊細さゆえに、美麗なメロディーと心の闇を併せ持ったのか。
12. Stevie Wonder - Innervisions
ソウルミュージックの巨匠、Stevie Wonderによる16枚目のスタジオ・アルバム。Motownによる支配的なプロデュースから脱し、自分の音を鳴らし出した頃の作品だ。
始まりは"Too High"。再生した瞬間、うねるベースラインが僕らを巻き込み、ソウルの世界にトリップさせてくれる。あとはハイになり、身を任せるだけだ。M4 "Golden Lady"のアウトロでは、愛を探し求める心と共鳴するように転調の階段をどこまでも昇っていく。
流転する世界を偶像的に描いたM5 "Higher Ground" 、博愛・普遍的に人々の背中を押すM8 "Don't You Worry 'Bout a Thing" 。レッチリやインコグのカバーでも知られるこれらの曲もこのアルバムに収録されている。豊作すぎる。
そして何より、この作品は、ポップに記号化されることなく発露した、彼自身の"Innervisions"=「心象風景」だと思う。愛、信仰から黒人差別まで、様々なテーマがソウルフルで粘り気のあるリフレインに乗り、ドラッグのような中毒性とともに聴き手の目前に展開される。23歳という若さで、彼はどんな世界を見ていたのだろうか。
13. さよならポエジー - 前線に告ぐ
疾走するギターロック。サウンドは切れ味鋭く、Gt./Vo.オサキアユの繊細な言葉を内抱する。彼の言葉は断片的でありながら、本質の輪郭をやわらかく照らす。
『邦楽のススメ』では、時代からこぼれ落ちた「邦楽」の遺骨を拾い集める。卑屈も理屈も抱え続けた音楽が、いずれ夜明けを迎える瞬間を僕らは諦めきれずにいる。
また一方で、『二束三文』で自らの「それなりの才能」を受け入れる。そして『生活について』では、若さを失った凡人に残るものを自問し、時の流れで多くを喪った自分の姿を受け入れていく。
「昨日はどうあれ 歩いて行こう。」言葉はどこか乾いているが、その乾きは必ずしも悪いものではない。その感覚がわかるようになるのが、「歳を取って行く」ということなのかも。
14. SUPER BEAVER - 歓声前夜
あえてちょっと音楽の話をするなら、ラスト3曲の疾走感が好きです。『美しい日』を初めてライブで聴いた日の感動を忘れることはありません。
このアルバムがなかったら今の僕はいなかったと確実に言えます。聴けば蘇ってくる景色があります。あの頃、彼らの言葉にどれほど励まされたか。年齢を重ね、人との関わり方が変わり、音楽の好みが変わった今でも、それだけは揺らぎません。
「ああ 楽ではない日々の 隙間にそれが一筋でも 嬉しい涙がこぼれるように」
15. My Chemical Romance - The Black Parade
Gノートが聞こえた瞬間の高揚感は、何物にも変え難い。"Because the world would never take my heart" という言葉が、力強く聴き手の背中を押す。アルバム全体に散りばめられる死の表象に対して、強烈な生のイメージが差し込まれる。このリード曲こそが、アルバム全体に漂う死の気配を逆説的に強化しているのかもしれない。 "Welcome to the Black Parade"。
このアルバムは、ひとりの癌患者をペルソナとして描いている。"The End."は心電図の音から始まり、助けを求める声とともに心停止の音が鳴り響く。"Dead!"。走馬灯が始まりを告げる。死者の行進"The Black Parade"に加わる中で、自らの人生に思いを巡らす。その果てに行き着くのが、 "I am not afraid of keep on living." という答えなのだ。
彼が生き延びたのか、死んでしまったのかはわからない。それでも進むんだ。どんなに世の中がクソでも。
16. DYGL - A Daze In A Haze
1stでガレージ、2ndでサイケ・プログレを通過した彼らは、コロナ禍の閉塞感の中でこの3rdアルバムを打ち出した。
サイバー感漂うサウンドは、どこか突き抜けていて、どこか懐かしい。「霞の中に佇んでいた」あの頃、緊急事態宣言の中で見つめた5月の空を思い出す。そしてアルバムジャケットを見れば、親が持っていたCDプレーヤーを恐る恐る触っていた幼少期の記憶が蘇る。
「青天の霹靂」という言葉があるように、生きていれば、思いもよらないことが起きる。そういう時、時間は脆く崩れ落ちていき、世界は彩りを失う。2024年の僕がそうだった。でももういいんだ。
彼らの言う「青空と芝生」の景色を見たい時、また聴きに戻ってくる。
Feeling close, but we can't relate, no
Cut the sky in two, there are sad reflections
See the time falls into pieces
Sicking and tired, am I losing control?
17. ANORAK! - Self-actualization and the ignorance and hesitation towards it
前作"ANORAK!"では、ミッドウエストエモ直系のバンドサウンドを鳴らしていたANORAK!。今回は電子音楽との融合に挑んできた。なんならハイパーポップみもある。踊れるエモ、楽しすぎる。インスト曲"Username"からシームレスに"Summertime"につながる流れとか本当に気持ちいい。あとアルバム全体が28分と短い。聴きやすくて助かる。
"Pure Magic"からこのアルバムは始まったらしい。確かにエモ・ポストロック的なクリーントーンのリフとエレクトロ的なオートチューン、ラップが混ざり合ってる。
歌詞はとても抽象的で、つかみどころがない。そのつかみどころのなさがいいのだと思う。Tomoho Marda(Gt./Vo.)も「コスプレ感」と言っている。
最初はブッチャーズみたいなバンドがやりたかったと読んで驚いた。やりたいことをやって、変化して行く彼らの次の行き先が楽しみだなー。
18. Coldplay - Ghost Stories
"Always in my head"の壮大なコーラスワークとシンセサイザーが、リスナーを迎え入れる。続く"Magic"ではミニマルなビートから徐々に広がり、「君以外誰もいらない」と繰り返す。グウィネス・パルトロウと離婚し、傷心のクリス・マーティンの感情がダダ漏れだ。歌詞についてはこんな調子が続く。"ずっと一緒"と綴られたタトゥーの話とか、嘘でもいいから愛していると言ってほしいだとか。確かに女々しいけど、彼らしくもある。
サウンド面では、ファルセットとシンセ、美しいリバーブが織りなす、アンビエントな世界が広がる。聴いているうちに、音に身を委ね、いつの間にか溶け込んでいく。そして夢見心地の時間は、"Oceans"から拡大していくサウンドスケープを経て、"A sky full of stars"で高揚とともに終わりを迎える。
クレジットを見てみる。EDM全盛の10年代前半、その先頭にいたAviciiの息吹は、この曲の中にも静かに息づいている。
19. Red Hot Chili Peppers - Blood Sugar Sex Magic
言わずと知れた大名盤。重心の低いサウンドとうねり狂うベースライン、ファンキーなビートが犯罪的な化学反応を起こしている。M1 "Power of equality"には、パンク・ハードコアの衝動とファンクの身体性が共存する。スケートボードに乗って走り出したくなる、まさにビースティ・ボーイズ通過後のミクスチャーロックだ。続いてジョン・フルシアンテの十八番、カッティングが印象的な"If you have to ask"。ソウルフルな女声コーラスからは彼らの音楽的バックグラウンドの幅広さを感じられる。
ハードロック的イントロが印象的なM7、アンソニーのフックが耳に残るM9が続き、"Under the Bridge"では、彼自身のヘロイン、孤独、LAという街への精神的依存が露わになる。それでも最後の"They're Red Hot"では、Robert Johnsonのブルージーな1曲を1分とすこしのショートチューンに変えて遊び倒す。これが"Red Hot"。還暦を迎えたLAキッズは、あの頃の遊び心をそのままに、今日も世界を飛び回る。
20. 折坂悠太 - 平成
折坂悠太は、自らとともに歩んだ時代の終わりに、その時代の名をタイトルに据えた。平成元年生まれの彼は、このアルバムを"平成のコラージュ"という。
彼の歌謡的な歌唱は、日本人の琴線に触れる素朴さをもつ。一方で、バンジョーが印象的な『旋毛からつま先』やフリージャズ的な『夜学』のように、各地のルーツミュージックを自在に取り込みながら曲を構成する。この二面性が、郷里にいるような安心感と、異国情緒という相反する感覚を同居させている。
彼の言葉は、あたたかさと同時に多分に憂いを含んでいる。『坂道』では、「平成」を見てきた彼が抱く次の時代への不安が、「細く暗い道」や「おれたちに何を待つの」という詞に現れる。
アルバムを締めくくる『光』は、ここまでの日々を今の視点で振り返っているとも、この先訪れる人生の終わりを想像しているとも思える。読み取れるのは儚さや無常であり、決して楽観的ではない、でも、光の気配も感じる。
幸、おれたちに 多くあれ
続きます。きっと。
