技術士第二次試験・必須科目Ⅰ 直前確認問題人口減少・気候変動・老朽化時代のインフラマネジメントーーーDXによる可視化とリスクベース管理による重点的な機能確保
はじめに
技術士第二次試験の必須科目Ⅰでは、個別の知識だけでなく、建設部門全体を俯瞰して課題を整理する力が問われます。
特に近年は、社会資本を取り巻く前提条件が大きく変化しています。
人口減少により、建設分野の担い手は減っています。
気候変動により、豪雨、洪水、土砂災害、高潮などの外力は増えています。
高度経済成長期以降に整備されたインフラは、確実に老朽化しています。
つまり、今後の社会資本管理は、次の一文に集約できます。
人が減る、外力は増える、施設は老いる。
だから、データで見て、リスクで選び、重点的に守る。
そして、広域で支える。
これは単なる語呂合わせではありません。
必須科目Ⅰの答案構成そのものです。
「人が減る」とは、建設分野の担い手不足です。ICT施工、遠隔施工、AI、BIM/CIMなどを活用し、省人化・省力化を進める必要があります。
「外力は増える」とは、気候変動による災害の激甚化・頻発化です。流域治水、計画外力の見直し、洪水・土砂・流木などを含む複合災害への対応が求められます。
「施設は老いる」とは、社会資本の老朽化です。橋梁、河川施設、港湾施設、上下水道などについて、事後保全から予防保全へ転換し、点検・診断・更新を計画的に進める必要があります。
そのためには、まず「データで見る」ことが重要です。センサー、ドローン、三次元点群、AI診断、台帳のデジタル化などにより、施設状態や災害リスクを可視化します。
次に、「リスクで選ぶ」ことが必要です。健全度だけでなく、機能喪失時の社会的影響、災害時の重要度、代替ルート・代替機能の有無を踏まえて、対策の優先順位を決めます。
そして、「重点的に守る」ことです。限られた人員と財源の下では、すべてを一律に守ることはできません。重要河川施設、緊急輸送道路上の橋梁、主要港湾施設、上下水道の基幹施設など、機能喪失時の影響が大きい施設を重点的に補修・更新します。
さらに、「広域で支える」ことも欠かせません。小規模自治体が単独で高度な点検・診断・更新を担うことには限界があります。そこで、広域管理、共同発注、包括的民間委託、官民連携などにより、自治体単独では不足する技術力・人員・財源を補完する必要があります。
この流れを押さえると、インフラ老朽化、建設DX、防災DX、担い手不足、地域インフラ群マネジメントといった個別テーマが、ばらばらの知識ではなく、一つの答案の骨格としてつながってきます。
予想問題
我が国の社会資本は、気候変動による災害の激甚化・頻発化、インフラの老朽化、建設分野の担い手不足という複合的な課題に直面している。
このような状況の下で、社会資本の機能を将来にわたり維持・向上させるため、建設部門の技術者として、以下の問いに答えよ。
多面的な観点から課題を3つ抽出し、それぞれの内容を説明せよ。
抽出した課題のうち、最も重要と考える課題を1つ挙げ、その理由を述べよ。
最重要課題に対する複数の解決策を示せ。
解決策を実行した場合に生じ得るリスクと、その対応策を述べよ。
技術者倫理および社会の持続可能性の観点から必要な要件を述べよ。
出題意図
これは、必須科目Ⅰで出題されやすい総合問題です。
背景にあるのは、人口減少、気候変動、老朽化という3つの大きな構造変化です。
人口減少により、建設分野では施工、点検、維持管理を担う技術者・技能者が不足しています。一方で、気候変動により、豪雨、洪水、土砂災害、高潮などの外力は増大しています。さらに、高度経済成長期以降に整備された社会資本は、今後さらに老朽化が進みます。
つまり、今後は、守るべきインフラは増える一方で、それを守る人員や財源は限られるという状況になります。
したがって、答案では、従来型の一律的・事後対応型の管理から、DXを活用した予防保全型・リスクベース型のインフラマネジメントへ転換する必要性を述べることが重要です。
解答のヒント
1. 課題の抽出
課題は、次の3つで整理すると書きやすいです。
課題1:担い手不足下での建設生産性の確保
人口減少や高齢化により、施工、点検、維持管理を担う技術者・技能者が不足しています。一方で、災害対応や老朽化対策の需要は増加しています。
このため、従来のように人手に依存した建設生産や維持管理を続けるだけでは限界があります。
答案では、ICT施工、遠隔施工、BIM/CIM、AI、ドローン、センサーなどを活用し、少ない人員でも品質と安全を確保できる体制への転換が必要である、と整理します。
ここでは、
「人が減る」=担い手不足、建設生産性向上、省人化
と覚えるとよいです。
課題2:気候変動による災害リスクの増大への対応
近年、豪雨の激甚化により、洪水、土砂災害、高潮などの災害リスクが高まっています。従来の過去実績に基づく計画だけでは、将来の外力増大に十分対応できないおそれがあります。
答案では、気候変動を踏まえた計画外力の見直し、流域治水、土砂・流木を含む複合災害への対応、ハザードマップの高度化などを挙げるとよいです。
ここでは、
「外力は増える」=気候変動、災害激甚化、流域治水、複合災害対応
と整理します。
課題3:老朽化インフラの機能喪失リスクへの対応
橋梁、トンネル、河川管理施設、港湾施設、上下水道などは、今後さらに老朽化が進みます。
すべての施設を同じ水準で補修・更新することは、財源や人員の面から困難です。そのため、施設の健全度だけでなく、機能喪失時の社会的影響や代替性を踏まえて、優先順位を付ける必要があります。
答案では、事後保全から予防保全への転換、計画的更新、点検診断の高度化、リスクベース管理などを挙げるとよいです。
ここでは、
「施設は老いる」=老朽化、予防保全、計画的更新、点検診断高度化
と整理します。
2. 最重要課題の選び方
最重要課題は、次のように置くと展開しやすいです。
担い手不足下で、DXとリスクベース管理により社会資本の機能を持続的に確保する仕組みへ転換すること。
ここで大切なのは、「担い手不足」だけを最重要課題にしないことです。
もちろん、人が足りないことは大きな問題です。しかし、答案ではもう一段踏み込んで、
人が足りない時代でも、社会資本を守れる仕組みに変えること
を最重要課題として位置づけるとよいです。
気候変動対策や老朽化対策を計画しても、それを実施する人材、施工能力、維持管理体制が不足していれば、施策は実効性を持ちません。
したがって、DXによる可視化、リスクベースの優先順位付け、重要インフラへの重点投資、広域管理・官民連携による実行体制の強化を一体として考える必要があります。
3. 解決策の組み立て方
解決策は、次の4本柱で整理するとよいです。
解決策1:DXによりデータで見える化する
まず、施設の状態や災害リスクをデータで把握することが必要です。
具体的には、ドローン、センサー、三次元点群、BIM/CIM、AI画像診断、点検データベースなどを活用します。これにより、施設の劣化状況、変状の進行、災害リスクを客観的に把握できます。
ここで大切なのは、DXを単なる効率化として書かないことです。
DXは、少ない人員で社会資本を守るための「判断材料を整える技術」として位置づけると、答案に深みが出ます。
キーワードは、
可視化、データ連携、点検診断の高度化、省人化、予防保全
です。
解決策2:リスクで選び、優先順位を付ける
次に、得られたデータを用いて、対策の優先順位を定めます。
このときの評価軸は、健全度、社会的影響、重要度、代替性です。
健全度とは、施設がどの程度劣化しているかです。
社会的影響とは、機能喪失時に、人命、交通、物流、地域経済、防災活動へどの程度影響するかです。
重要度とは、災害時や平常時に、その施設がどれほど重要な機能を担っているかです。
代替性とは、その施設が使えなくなった場合に、代替ルートや代替機能があるかです。
このように、単に古い施設から順番に直すのではなく、社会的リスクの大きい施設から重点的に対策を行うことが重要です。
答案では、
健全度・社会的影響・重要度・代替性に基づくリスクベースの優先順位付け
という表現が使いやすいです。
解決策3:重要インフラを重点的に守る
優先順位に基づいて、重要施設へ重点的に投資します。
対象としては、緊急輸送道路上の橋梁、重要河川施設、主要港湾施設、上下水道の基幹施設、防災拠点に関係するインフラなどが挙げられます。
対策としては、補修、更新、耐震化、耐水化、冗長化、バックアップ機能の確保などが考えられます。
ここでは、すべてを一律に守るのではなく、
機能喪失時の影響が大きいものを重点的に守る
という考え方を明確に示すことが重要です。
解決策4:広域管理・官民連携により実行体制を強化する
DXで状態を把握し、リスクで優先順位を付けても、それを実行する体制がなければ対策は進みません。
特に小規模自治体では、土木技術職員の不足、予算不足、発注経験の不足により、点検、診断、補修、更新を単独で進めることが困難な場合があります。
このため、国、都道府県、市町村、民間企業、大学、研究機関が連携し、広域的に維持管理を支える体制が必要です。
具体策としては、複数自治体による共同発注、包括的民間委託、都道府県による技術支援、国によるマニュアル・基準整備、TEC-FORCEや災害協定による応急対応体制の強化などが考えられます。
答案では、
広域管理・官民連携により、自治体単独では不足する技術力・人員・財源を補完する
と書くとよいです。
この解決策を入れることで、答案が単なるDX論にとどまらず、実装まで見据えた内容になります。
4. リスクと対応策
この問題で書きやすいリスクは、次の3つです。
リスク1:DXへの過度な依存
AIやデータに頼りすぎると、データの誤りや解析条件の不備に気づかず、誤った判断をするおそれがあります。
対応策としては、データ品質の確認、現地確認、技術者による照査、異常値の確認を行う必要があります。
特に、AI診断は判断を支援する道具であり、最終判断を代替するものではありません。技術者が専門的知見に基づき確認することが重要です。
リスク2:優先順位付けによる地域間格差
リスクベースで重点化すると、優先度が低いと判断された地域や施設の対策が後回しになる可能性があります。
対応策としては、最低限確保すべき安全水準を明確にし、住民への説明責任を果たすことが必要です。また、対策の優先順位や判断根拠を透明化することが重要です。
「重点的に守る」とは、低優先度の地域を切り捨てることではありません。限られた資源の中で、公平性と安全性を両立させるための判断です。
リスク3:広域管理・官民連携における責任分担の不明確化
広域管理や包括的民間委託を進める場合、管理者、受託者、関係自治体の役割分担が不明確になると、異常時の対応遅れや責任の所在の不明確化につながるおそれがあります。
対応策としては、管理者責任、点検・診断・補修の判断権限、緊急時の連絡体制、成果確認方法を事前に明確化する必要があります。
広域で支える場合ほど、平常時と災害時の役割分担をあらかじめ決めておくことが重要です。
5. 技術者倫理・持続可能性
技術者倫理では、住民の生命・財産を守ることを最優先に考える必要があります。短期的なコスト縮減を優先して、安全性を損なってはなりません。
また、社会の持続可能性の観点からは、将来世代へ過度な負担を先送りしないことが重要です。
老朽化した施設をすべて延命するだけでは、将来の維持管理負担が大きくなります。必要に応じて、集約、再編、機能転換も検討する必要があります。
広域管理や官民連携を進める場合でも、最終的な公共性、安全性、公平性を確保する責任は公共側にあります。民間活力を活用しつつも、住民への説明責任と透明性を確保することが重要です。
ここでは、
安全性、説明責任、公平性、将来世代への責任、公共性の確保
をキーワードとして整理するとよいでしょう。
まとめ
この問題の本質は、次の一文に集約できます。
人が減る、外力は増える、施設は老いる。
だから、データで見て、リスクで選び、重点的に守る。
そして、広域で支える。
答案では、これを次のように技術的表現へ展開します。
DXにより施設状態や災害リスクを可視化し、健全度・社会的影響・重要度・代替性に基づき対策の優先順位を定め、重要インフラの機能を重点的に確保する。さらに、広域管理・官民連携により、限られた人員と財源の下でも実効性ある維持管理・更新を進める。
今回の問題は、これまで扱ってきた個別テーマを横につなぐ総合問題として考えると理解しやすいです。
インフラ老朽化と維持管理DXでは、「データで見る」ことが重要になります。
人手不足と生産性向上では、「少ない人員で実行できる体制」が重要になります。
自然災害の激甚化と防災DXでは、「外力の増大を前提としたリスクの見える化」が重要になります。
地域インフラ群マネジメントでは、「自治体単独ではなく広域で支える仕組み」が重要になります。
つまり、これらは別々の論点ではありません。
人口減少、気候変動、老朽化という大きな前提の下で、DXにより見える化し、リスクに基づいて優先順位を付け、重要インフラを重点的に守り、広域管理・官民連携で実行する。
この流れとして整理すると、必須科目Ⅰの答案はかなり書きやすくなります。
直前期は、新しい知識を増やすことよりも、知っている論点をつなげて答案の形にすることが大切です。
人が減る、外力は増える、施設は老いる。
だから、データで見て、リスクで選び、重点的に守る。
そして、広域で支える。
この合言葉を、答案の骨格として使ってみてください。
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