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🌇短編小説「夕暮れの中の待ち人」


金木犀の香りが風に漂う。
高く澄んだ青空を鳥が横切っていく。
心地いい声が遠くで響いていた。


風が頬を撫で
女子高生は、高揚している様子でベンチに腰かけ
髪を耳にかけながら小さくため息をついた。


――今日こそは。
今日こそは、あの人に。


公園の入口に男子高生の姿が見える。


胸が跳ねる。
周りに聞こえているのではないか?


鼓動が身体中に響く。
足の上で拳を握りしめ、立ち上がろうとしたその時。


幼馴染に気づいた彼は、
にこやかな笑顔で彼女に手を振り、そして何事もないようにそのまま隣へ腰を下ろす。

「何してたの?」


彼女は慌てて首を振る。


「な、なんでもない」


「寒くなってきたし、もうそろそろ帰ろうか?」


そう言って彼は立ち上がった。


「近所だから送っていくよ」


彼の笑顔に、彼女は顔を赤らめてうつむいた。


「……うん」


彼は照れ隠しのように、
彼女の頭を軽くポンポンと叩いた。


二人は並んで歩き出す。
夕暮れの中へ溶け込むように。

空は茜色に染まり、
風は少し冷たくなっていた。


「……さむっ…」


ベンチに座るひとりの彼女。公園の入口を見つめて呟いた。


――今日こそは。
今日こそは、あの人に。


やがて、公園の入口から
初老の男性が姿を見せる。


その姿を見て、彼女は小さく首を振った。


「……違ったわ」


肩を落とし、
視線を伏せる。


男性は少し離れた場所からその様子を見つめ、
静かに近づいてきた。


どこか懐かしい眼差しだった。
男性は隣に腰かけ、穏やかな声で話しかけてきた。


「毎日ここで、
どうされましたか?」


穏やかな声。


彼女は戸惑いながらも、
胸の奥にしまい込んでいた想いを言葉にする。


「……好きな人がいて……」


男性は黙って耳を傾ける。


「今日こそは告白しようって
思っているのに……声が詰まってしまって……」


しばらく沈黙が流れた。


やがて男性は、
優しく微笑んだ。


「……そうですか」


「あなたのように可愛らしい方に告白されたら」


彼女が顔を上げる。


「きっと誰でも喜びますよ」


「……そうでしょうか?」


「そうですよ」


その声は、
どこか懐かしかった。


男性はそっと手を伸ばし、
彼女の頭を軽くポンポンと叩いた。


その瞬間。


胸の奥で、
何かが静かにほどけた。


遠い記憶。

若かった日々。

夕暮れの帰り道。


恥ずかしそうな笑顔。

あの日、
伝えられなかった言葉。


「……私……」

涙が頬を伝う。


「私……また……」


溢れるゆく涙ーー
言葉にならない。


男性は何も聞かなかった。


ただ目尻を下げ、
優しく見守っていた。


やがてゆっくり立ち上がる。


そして女性へ手を差し出した。


「冷えてきましたね」


穏やかな笑顔。


「さ、帰りましょう」



男性は一層目尻を下げながら女性を優しい瞳で温かく見守っている。


女性は涙を拭いながら、
その手を握り返した。


「……はい」


二人は並んで歩き出す。

夕暮れの公園をゆっくりと。

寄り添う背中。

重なる歩幅。

長い年月を重ねても、
二人の歩く速さは不思議と同じだった。

夕陽に照らされた二人の指には、

何十年も共に歩いた証が、
静かに光っていた。

その影は、
まるで若き日の二人が並んで歩いているようだった。


夕暮れの空の下――


記憶よりも深い場所に、
変わらない愛が静かに息づいていた。



二人は並んで立ち上がり、
夕暮れの公園を歩き出す。

あとがき

愛は記憶を超える。

忘れてしまうことがあっても、
伝えられなかった言葉があっても、

心の奥で育った想いは、
きっと消えないのだと思います。

この二人の明日が、
優しい光に包まれていますように。


🌙読んでくださりありがとうございます。
あなた様の心にも、
小さな灯りがともりますように🕊️✨

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