ドラマの感想 - 冬のなんかさ、春のなんかね 第五話
第一話で現在を、第二話で高校時代を・・・と、実に巧みに段階的に、文菜 (杉咲花) とその周囲の人物像を紹介してきた本作。第五話にして、ようやく欠けていたパズルのピースが埋まりつつある。
冒頭、文菜は大学の同級生である真樹 (志田彩良) とのドロドロの恋愛事情を聞いて、感情を露わにしながら席を立つ。同席していたエンちゃん (野内まる) は、少し離れて話を聞いていた佃 (細田佳央太) に尋ねるが、佃は「土田さんの意見の方が分かる」と、無難に返すのが精一杯だった。
この時点で、佃はすでに文菜に惹かれていた。
佃は誰もいない講堂で、愚直にもほどがある、前置きの長い、聞かずとも言いたいことが丸わかりの態度で文菜に告白する。
「なんで好きになったの」
そう問いかける文菜に、すぐに言語化できず狼狽しながらも思いを伝える佃。きっかけは、文菜が小説を読みながら涙を流し、服の袖でそれを吹いている姿を偶然見かけたからだった。
「涙じゃなくて、目薬と鼻水だよ」
そう弁解し、また少し照れる文菜。
「じゃあ、俺の人生の中でいちばんキレイな目薬でした」
そう返す佃の、意外性に驚く文菜。
第一話で登場した、「ロマンティックアセクシャル」という、この国ではまだよく知られていない概念。それと沿うかのように、文菜の純粋なようでよく分からない、複数の男と関係があるような、ないような不可解な側面が毎回必ず、どこかぼかしたように描写されてきた。
それとはまるで対照的に、実に誠実に純粋に文菜と接し、デートを重ねる佃。そんな佃の直向きさに、文菜もいつの間にか惹かれ始めていた。
第五話を通じて感じたのは、佃との出会いが、文菜を構成する恋愛観の、ある主要な部分を成すきっかけとなっていること。
これまでの登場人物、というか男は、文菜が小説家になったり大成するきっかけではあったが、職業ではなく、もっと人物像の根幹に近いなにかに影響した、という描写はなかった。
本話で登場した佃こそが、その人だったのだ。
そして、佃はこれまでの男と違い回想のみで、現在の場面ではついぞ現れなかった。それが、このドラマにおける佃の存在感が特別であることを決定づけている。
物語の終盤、場面はようやく現在に戻る。
その傍らには、今の彼氏であるゆきお (成田凌) が笑っている。
それ以降の場面では、回想シーンとはあまりにもいろいろなことが違いすぎて、佃が完全に記憶の向こうに仕舞われてしまった。おそらくだが、佃はこの先、回想シーン以外では登場しないだろう。
実はこの五話で、このドラマで初めて泣いた。すごく好きで素敵な物語だけれど、泣く要素のある作品ではないな、と油断していた。
文菜への献身的な愛を最後まで見せてくれた佃へ、過剰に感情移入してしまったせいだった。
