知るメモ|【国家資本主義】|自由貿易の終焉、世界で進む政府主体の市場経済!~中国・ロシアが行っていたことは正しかったのか?
欧州が、中国製の電気自動車(EV)だけでなく、風力発電、太陽光、そして半導体に対しても強力な輸入規制を検討し始めているようです。
これは西側諸国が東側の勢力を警戒して行っているという事でしょう、と思うかもしれませんがそう単純な事でもないかもしれません。
日本は「中国依存からの脱却」という言葉は使いますが、欧米などでは中国だけではなくこれまでのような「自由貿易」は事実上終焉を迎え、各国が政府主導で市場を保護する「ステート・キャピタリズム(国家資本主義)」へと完全に舵を切ったと話題になっています
現在、世界のルールを決めているのは市場ではなく、国家(政府)です。
EUと中国の間で起きている決定的な衝突、アメリカのなりふり構わぬ自国産業の保護、そしてロシアの戦争経済の耐久力。
「良いものを安く作れば、世界中で売れる」という、私たちが長年信じてきた資本主義の常識は、今や過去のものとなりつつある。
世界の貿易ルール激変のスピード感に、日本は追いつけていけるのか?
今回は、世界のビジネス環境を根底から覆すこの巨大なうねりの正体と、「結局、中国やロシアがやっていたことは正しかったのか?」という、少し刺激的ですが避けては通れない問いについて、徹底的に解説していきます。
◆EUと中国の「決定的衝突」自由貿易ユートピアの終焉
事の発端であり、今の世界経済の最大の火薬庫となっているのが、EU(欧州連合)と中国の貿易戦争です。
これまでEUは、世界で最も自由な市場と環境意識の高さを誇る優等生でした。
しかしここ数年、EUはその理想をかなぐり捨て中国に対して凄まじいまでの「保護主義(自国産業を守るための壁)」を発動しています。
その象徴が、中国製EV(電気自動車)に対する最大38.1%もの追加関税です。
なぜ、気候変動対策を進めたいはずのEUが、安価で高性能な中国製エコカーを締め出すのでしょうか?
それは、中国のEV覇権が「純粋な企業努力」ではなく「国家の莫大な補助金」によって作られたものだからです。
中国政府は、バッテリーの原材料採掘から土地の無償提供、国有銀行からの超低利融資、輸出補助に至るまで、国家ぐるみで自国のEV産業をドーピングしてきました。
EUは過去に苦い経験を持っています。
2010年代、欧州の太陽光パネル産業は中国の国家主導の低価格攻勢によって文字通り「壊滅」させられました。
現在、EVだけでなく、風力発電タービン、太陽光発電の公共調達、さらには家電や自動車に不可欠な汎用性のある半導体に至るまで、中国企業が圧倒的なシェアを握りつつあります。
「このままでは、欧州の基幹産業がすべて中国政府のコントロール下に置かれてしまう」
この強烈な危機感が、EUをして自由貿易の旗手から「ガチガチの保護主義」へと変節させた最大の理由です。
◆そもそも「国家資本主義」とは何か?
かつてのソ連のような「計画経済」とは違います。
計画経済は、国がパンの値段から靴の生産量まで全てを決めるため、非効率極まりなく崩壊しました。
一方の「国家資本主義」は、市場経済の競争による成長を利用しながらも、国家の戦略的目標のために政府が経済の主導権を握るシステムです。
国有企業が主な中国のモデルは「党国資本主義」とも呼ばれます。
中国のシステムは非常に巧妙です。
エネルギー、通信、金融、重要資源といった経済の「上流(インフラ)」は巨大な国有企業(SOE)が独占し、利益を吸い上げます。
一方で、「下流(消費者向けサービスや製造業)」は民間企業に激しい自由競争をさせ、イノベーションを生み出させます。
そして、いざ民間企業が世界に進出する際には、上流で蓄えた国家の莫大な資本(補助金やインフラ支援)を注ぎ込み、外国の競合を価格競争で焼き尽くすのです。
通信機器メーカーであるファーウェイも、EV大手のBYDも、SNSのTikTokも、この巨大な国家エコシステムを背景に世界を席巻しました。
単なる一民間企業と戦っているつもりだった欧米企業は、実は中国という「国家」と戦わされていたことに気づき、愕然としたわけです。
◆欧米の「国家資本主義化」
中国のやり方をルール違反だ、アンフェアだと批判していた欧米ですが、彼らは今、驚くべき行動に出ています。
「中国というモンスターを倒すために、自分たちもモンスターになる」
という選択です。
アメリカの「あからさまな産業政策」
アメリカは自由貿易の総本山でありながら、WTO(世界貿易機関)のルールを事実上無視し始めました。
その象徴がバイデン政権下で成立した「インフレ抑制法(IRA)」と「CHIPSプラス法」です。
これは、アメリカ国内でEVや半導体を製造する企業に対して、巨額の政府補助金をばらまくという、まさにアメリカ版・国家資本主義です。
「中国の補助金はずるい」と言っていたアメリカが、国家主導で自国産業を優遇する強硬手段に出たのです。
これにより、同盟国である日本や欧州の企業までもが、補助金目当てにアメリカに工場を移転せざるを得ない状況に追い込まれました。
EUの「防衛的ブロック経済」
EUも負けてはいません。
「ネットゼロ産業法」や「重要原材料法」といった新しいルールを作り、域内での生産割合を強制的に引き上げようとしています。
「環境」や「人権」といった美しい言葉を使いながら、実態は中国製品をブロックし、欧州内の産業を国家主導で育成するための巨大な非関税障壁を築いているのです。
もはや、世界に純粋な自由市場など存在しません。
今は、アメリカ、中国、EUという巨大な経済圏が、それぞれ政府の資金を投入して囲い込みを行う「新重商主義」の時代なのです。
◆中国やロシアが行っていたことは「正しかった」のか?
冷戦後、欧米が推進してきた「自由とグローバリズム」は間違いで、国家が経済を統制する中国やロシアのやり方こそが正しかったのではないか?
結論から言えば、「平時の経済効率」としては間違っていたが、「有事の国家生存戦略」としては恐ろしいほど正解に近かった、と言わざるを得ません。
自由市場の脆弱性と、国家資本主義の強靭性
欧米や日本が信じてきた自由市場は「効率化(コスト削減)」を極限まで追求しました。
在庫を持たないジャスト・イン・タイム方式を採用し、一番安く作れる国に工場を移しました。
しかし、パンデミックや地政学的リスク(戦争など)が起きた瞬間、この「効率的なサプライチェーン」は脆くも崩れ去った。
マスク一つ、半導体一つ、薬一つ自国で作れないという致命的な弱点が露呈したのです。
ロシアが証明した「国家統制経済」のしぶとさ
ウクライナ侵攻後、西側諸国はロシアに対して「史上最大規模の経済制裁」を行いました。
欧米の専門家は「ロシア経済は数ヶ月で崩壊する」と予測もしていた。
しかし、現実はどうでしょう?
ロシア経済は崩壊しませんでした。
なぜなら、ロシアはプーチン政権のもとで、エネルギー(天然ガス・石油)や食糧、鉱物資源といった「国家の生存に不可欠な上流産業」を国家資本主義体制によって完全に掌握していたからです。
国家が強権を発動して素早く「戦時経済」に移行し、豊富な資源を武器にグローバルサウス(新興国)と取引を続けることで、見事に制裁を耐え抜いてみせたのです。
中国が手に入れた「戦略的自律性」
中国も同様です。
もし中国が1990年代にアメリカの言う通りに金融市場を完全開放し、国有企業をすべて民営化していれば、今の経済覇権はなかったでしょう。
国家が資本を握り、時には赤字を垂れ流してでも「世界の工場」としての地位と、EVやバッテリーのサプライチェーン全体を国内に構築しきったからこそ、現在アメリカと互角に渡り合えているのです。
彼らのシステムは、汚職、非効率、そして現在の中国が直面しているような深刻な不動産バブルや地方債務の危機といった致命的な副作用も伴いますので「完璧な経済モデル」ではありません。
しかし、「国家間の生存競争(戦争や分断)」という極限状態においては、個人の自由や株主利益を優先する西側のシステムよりも、圧倒的に図太く機能するという残酷な事実を、世界に突きつけてしまったのです。
◆日本の「失われた30年」からの脱却シナリオ
世界が「国家資本主義」の戦国時代に突入する中、日本はどう生き残るべきでしょうか?
実は日本こそが「国家資本主義(政府主導の産業政策)」の元祖です。
戦後の高度経済成長期、旧通産省(現・経産省)が主導してターゲットとなる産業に資金とリソースを集中投下する「護送船団方式」や「日本型経済システム」は、かつての欧米の脅威であり今の中国のモデルの原型とも言えます。
しかし日本は、1980年代以降のアメリカからの圧力や、バブル崩壊後の「新自由主義的改革(民営化・規制緩和)」の波に飲まれ、自らそのシステムを手放してしまいました。
その結果が、投資不足とデフレに苦しむ「失われた30年」です。
皮肉なことに、今、世界中がかつての「日本的アプローチ(国家主導の産業育成)」に回帰しています。
日本もようやくこの潮目の変化に気づき始めました。
経済安全保障推進法の制定(重要物資のサプライチェーン確保)
TSMC(台湾半導体メーカー)の熊本誘致への巨額補助金
次世代半導体「ラピダス」への国家支援
蓄電池やAIインフラへの政府投資
これらはすべて、「政府主体の市場経済(日本版・新国家資本主義)」への回帰を意味しています。
日本が今後世界で勝ち残るためのシナリオ。
全てを自国で賄うことは不可能だからこそ、半導体製造装置、特殊な素材(ケミカル)、精密部品といった「日本がないと世界の産業が止まってしまう急所」を国家主導で徹底的に保護・育成すること。
そして、その技術を「戦略的カード」として使い、アメリカやEUと対等な条件で同盟を結ぶことです。
◆おわりに
「良い製品を作れば売れる」という牧歌的な時代は終わりました。
今の世界経済は、「国家の安全保障」というルールの下で、各国の政府が補助金と関税という武器を使って陣取り合戦を行う「戦争」の舞台です。
中国やロシアの強権的な体制を手放しで称賛することはできませんが、世界に突きつけた「国家の生存と産業の自立を、市場の自己責任に委ねてはならない」という命題は、間違いなく世界のルールを変えました。
ただ、中国やロシアの経済は内部に深刻な矛盾と時限爆弾(債務危機や人口動態の悪化)を抱えてはいますがそれはまた別の機会に・・
「新・経済ナショナリズム」が支配するこの新しい世界で、企業は、そして私たち個人は、どう立ち回るべきか?
政治と経済がこれまで以上に密接に絡み合うこれからの時代、国際情勢を理解することは、社会人には必須のサバイバルスキルとなっているのでしょう。
世界で進む政府主体の市場経済へのパラダイムシフトをどう捉えますか?
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次回は「ベネズエラの大統領拉致から3か月」について少し書いていますので、お時間あれば読んでみてください。
日々の出来事から日記代わりにいろいろ書いています。
前回の記事も時間がありましたら読んでみてください。
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