知るメモ|【奴隷貿易】|数百年の時を超え、国連が認めた人類最大の犯罪!~「ごめんなさい」を世界は言えるのか?
2026年3月25日、国連総会の会議室に拍手が響いた。
この日採択された決議は、大西洋を横断した奴隷貿易を「人類に対する最大の犯罪」と宣言するものだった。
123カ国が賛成票を投じ、決議が成立した瞬間、会場のあちこちから歓声が上がったという。
日本ではほとんど報じられていないこのニュース。
でも実は、現代の世界秩序や「正義」の意味を問い直す非常に重要な出来事です。
◆まず、何が起きたのか
正式名称は「決議A/80/L.48——アフリカ人の人身売買および人種化された動産奴隷制の、人類に対する最大の犯罪としての宣言」。
長い名前ですが、要するに大西洋を渡った奴隷貿易を、人類史上もっとも重大な犯罪として国際的に認定したということです。
https://press.un.org/en/2026/ga12755.doc.htm
決議を主導したのはアフリカの国ガーナ。
ガーナのジョン・マハマ大統領(アフリカ連合の賠償問題担当代表でもある)がアフリカ54カ国を代表してスピーチに立ち、
「今日、私たちは厳粛な連帯のもとに集まり、真実を確認し、癒しと修復的正義への道を歩み始める」
と述べました。
投票結果:
賛成:123カ国(アフリカ全54カ国、カリブ海諸国、多くのアジア・南米諸国など)
反対:3カ国(アメリカ、イスラエル、アルゼンチン)
棄権:52カ国(イギリス、EU全27カ国など)
この票割れが、この決議のどこが難しいのかをそのまま物語っています。
決議の内容は主に4点:
奴隷貿易をその規模・期間・残虐性・現在に至る影響の深刻さから、人類最大の犯罪と宣言する
正式な謝罪、返還、補償、制度改革を含む「賠償的正義」についての対話を加盟国に求める
奴隷貿易に関する教育・記念・研究の推進を促す
略奪された文化財の返還も求める
なお、この決議には法的拘束力はありません。
あくまで国際社会の政治的意思表明です。
◆400年間に何が起きたのか?奴隷貿易の実態
決議の重みを理解するためには、何が起きたかを知る必要があります。
大西洋を横断した奴隷貿易は、16世紀から19世紀にかけて約400年もの間続けられていました。
その間に約1250万人のアフリカ人が船に積み込まれていた。
「積み込まれた」という言葉で表すように、彼らは「貨物」として扱われていた。
そしてそのうち「中間航路(ミドル・パッセージ)」と呼ばれる大西洋横断の航海で、約180万人が死亡したとされます。
貿易の構造はいわゆる「三角貿易」と呼ばれる仕組みになっていました。
①ヨーロッパから武器・繊維製品・酒などをアフリカに持ち込み
②その対価として人間を「購入」し、大西洋を渡ってアメリカ大陸・カリブ海諸国に運び奴隷として売り渡す。
③その植民地で作られた砂糖・コーヒー・綿・タバコを積み込んで、ヨーロッパに持ち帰る。
主にヨーロッパが送り先に選んだのはブラジル(480万人)、カリブ海諸島(470万人)、北米(約38万8000人)。
北米への到着者が他に比べ少ないのは、カリブ海での死亡率が非常に高かったためです。
奴隷船の中の状況は、想像を絶するものでした。
甲板下に数百人が鎖でつながれた状態で押し込まれ、まともに立てないほど狭いスペースで何週間も過ごした。
食料も水も不足し、赤痢などの感染症も蔓延した。
抵抗すれば暴力が待っていて、命を絶つことを選ぶ人もいた。
アフリカ側でも甚大な被害が出た。
若い男女が大量に連れ去られたことで社会の担い手が失われた。
奴隷を売ることで栄えた一部の王国がある一方、多くの国民が暴力に覆われ、農業や経済の発展が阻まれた。
◆なぜ「今」宣言が必要だったのか
19世紀という「200年前のことを、なぜ今さら?」と思う人もいるかもしれません。でも、そのなぜ今こそが重要です。
①格差が現在進行形だということ
決議を主導したガーナのマハマ大統領は「奴隷貿易の結果は今日も続いている。人種的格差として」と言っています。
アメリカを例にとると、黒人家庭の平均資産は白人家庭の約8分の1という調査がある。
カリブ海諸国の多くは、かつての植民地支配と奴隷制の遺産として、今もインフラ整備や医療アクセス、経済発展で出遅れている。
カリブ海諸国の共同体(CARICOM)の賠償委員会は、高血圧や糖尿病の発症率が世界で最も高い原因のひとつが、奴隷制時代の劣悪な栄養状態と精神的トラウマにあると指摘している。
②「謝罪」がまだないということ
奴隷貿易に主要な役割を果たした国の多くは、公式に謝罪したことがない。
イギリスのデービッド・キャメロン元首相は2015年にジャマイカを訪問した際、「過去を振り返るのをやめて未来を見よう」と述べ、カリブ海諸国から猛反発を受けています。
③国際的な機運が高まっていること。
2020年、アメリカでジョージ・フロイドが警官に殺害された事件をきっかけに「Black Lives Matter(黒人の命は大切だ)」運動が世界に広がった。
各地で奴隷商人や植民地主義者の銅像が引き倒され、歴史の見直しを求める声が高まった。
ガーナは2026年が「アフリカ連合・賠償の10年(2026〜2035年)」の初年度にあたることも見据えて、この決議を約1年かけて交渉してきた。
アフリカ連合・賠償の10年とは?
アフリカ連合(AU)は2025年を「賠償とアフリカの遺産の年」と公式に指定し、その後2025年7月の中間調整会議で1年では足りないことをすぐに認識し、2026〜2036年を「賠償とアフリカの遺産の行動の10年」へと延長することを決定しました。
この10年は「象徴的な和解」ではなく、前植民地支配国から具体的な謝罪・補償・返還を勝ち取るための、外交・法的戦略を含む組織的なキャンペーンとして位置づけられています。
AUは1963年以来、大西洋奴隷貿易・植民地支配・アパルトヘイト・ジェノサイドといった歴史的不正義への賠償に取り組んできました。
1993年にはナイジェリアで最初の「汎アフリカ賠償会議」が開かれ、賠償を求める「アブジャ宣言」が採択されています。
AUのアプローチはCARICOM(カリブ海共同体)と少し異なります。CARICOMが「奴隷制という特定の犯罪への具体的な賠償」を求めるのに対し、AUは奴隷制・植民地支配・人種的支配の長期的な経済的・政治的後遺症を修正する手段として賠償を位置づける、より広い構造改革の視点を持っています。
この「AU賠償の10年(2026〜2036)」は、国連が宣言した「アフリカ系の人々のための第2次国際の10年(2025〜2034年)」と並行して進み、相乗効果を生むよう設計されています。
今回の国連決議との関係として、国連のグテーレス事務総長は採択後のスピーチで、「AU賠償の10年と、国連の第2次アフリカ系の人々のための国際の10年は、この機会を活かして組織的人種差別の根絶と賠償的正義の実現、教育・医療・雇用・住居・環境への平等なアクセスを促進するために使われるべきだ」と述べました。
◆賛成・反対・棄権・・それぞれの言い分
投票結果の興味深いところは、「奴隷貿易が悪だったか」については全員が同意していることですが、それでも票が三つに割れたことです。
理由を整理してみると、それぞれの国の過去の行いに対する立場が見えてきます。
◆ 反対票(アメリカ)の論理
アメリカの国連代表部は投票前の声明でこう述べた。
「アメリカは大西洋奴隷貿易の過去の不正行為に反対し、それを非難してきた」。
しかし同時に、「当時の国際法上、違法とされていなかった歴史的不正行為に対する法的賠償権を認めない」と主張した。
さらに「特定の犯罪が他より深刻だという序列を設けることには強く反対する。そのような主張は、他の歴史的残虐行為の被害者の苦しみを客観的に小さく見せる」とも述べた。
要するに「悪だったことは認める。でも法的・金銭的な賠償義務は認められない」というスタンスです。
トランプ政権のもとで、こうした立場はさらに強固になっている。
◆ 棄権票(EU・イギリス)の論理
EUはキプロスの国連代表を通じてこう説明した。
「私たちは奴隷貿易が人類史上もっとも残虐な出来事のひとつであることを認める」。
そのうえで棄権の理由として「特定の犯罪を最大と表現することへの懸念」「当時の国際法に遡及して適用することの問題」「賠償に関する法的解釈への異議」を挙げた。
イギリスも「奴隷貿易の禁止は20世紀まで国際法で確立されていなかった」という点を強調。
「文言への懸念から、賛成できない」とした。
ただ、EUが「反対ではなく棄権」としたのは、この問題の重大性への「深い敬意」からだとも述べている。
棄権は拒否ではなく「留保付きの不参加」というニュアンスです。
◆ 賛成票(アフリカ・カリブ海・多くのアジア・南米諸国)の論理
ガーナの外務大臣は採択後、記者団にこう語った。
「この決議は、世代や国を超えて責任を問うものではない。古傷をえぐるものでもない。それらが忘れられず、否定されないための空間をつくり、より誠実な対話に向けて前進するためのものだ」と・・
◆「賠償」とはどういうことか
決議が求める「賠償的正義」は、単に「お金を払え」ということではないです。
決議の文言は、正式な謝罪、文化財の返還、補償、リハビリ、制度改革といった幅広い措置を含む対話を求めている。
カリブ海諸国の共同体(CARICOM)が求めるのは「10ポイント計画」という内容。
CARICOMの10ポイント計画とは
2013年にCARICOM(カリブ海共同体)が設立した「CARICOM賠償委員会(CRC)」が策定し、2014年3月にカリブ海諸国の首脳会議で全会一致で承認された計画です。
単なる遺憾の声明ではなく、人類に対する犯罪の被害者とその子孫への「和解と正義への道筋」を示すものと位置づけられています。
正式な謝罪
一部の国が出してきた「遺憾の意」程度の声明ではなく、完全かつ正式な謝罪を求めています。帰還・再定住プログラム(Repatriation)
1000万人以上のアフリカ人がカリブ海に連れてこられた歴史を踏まえ、その子孫がアフリカの祖先の地に帰還する法的権利を認め、市民権の付与・地域社会への再統合支援を含む帰還プログラムの設立を求めています。先住民族の開発プログラム
植民地支配のなかで行われたジェノサイドの生存者とその子孫を支援するための、先住民族に特化した開発プログラムを求めています。文化施設・記念機関の設立
歴史的な記憶の破壊それ自体を「補償されるべき犯罪」と位置づけ、奴隷制や植民地支配の記憶を適切に伝える文化・教育施設の設立を求めています。公衆衛生危機への支援
カリブ海地域のアフリカ系住民は世界で最も高い慢性疾患(高血圧・2型糖尿病)の発症率を抱えており、これを奴隷制時代の劣悪な栄養状態・精神的暴力・過酷なストレスの遺産として位置づけ、医療支援を求めています。識字・教育プログラム
奴隷制下では黒人・先住民コミュニティへの教育が意図的に禁じられてきた歴史を踏まえ、識字率改善・教育機会の確保への支援を求めています。アフリカの知識・文化プログラム
奴隷制による強制的な家族・共同体の分断によって失われたアフリカとの文化的なつながりを再建するための、学校交流・文化ツアー・芸術プログラム・宗教的交流などを含む「帰属の橋」を築くプログラムを求めています。技術移転
カリブ海地域は植民地支配によって欧州の産業化から排除され、原材料の供給・輸出役に閉じ込められてきたと指摘。
その結果、科学技術の発展から取り残されたとして、技術・知識の移転を求めています。債務免除
カリブ海諸国が抱える対外債務は、本来なら旧植民地支配国が対処すべき植民地支配の後遺症に起因するものだとして、国内債務の支払い支援・国際債務の帳消しを求めています。心理的リハビリテーション
奴隷制・ジェノサイド・人種差別が世代を超えて引き継がれてきたトラウマ(心理的後遺症)への対処を求めており、精神保健サービスの整備・コミュニティ単位の癒しのプログラムなどが含まれます。
「誰が誰にどれだけ払うのか」という問いには、現実的な難しさが山積しています。
当時の「加害国」の政府や企業は今も存在するが、「被害者」の子孫を特定することも、損害額を算定することも簡単ではない。
しかし、支持者たちはそうした困難を「だから何もしなくていい」という理由にはしない「何もしないことで、不平等は再生産され続ける」という立場です。
◆日本にとってこの決議は「他人事」か?
日本はこの投票でどう動いたのか?
日本はこの採決で棄権しました。EU・イギリスと同じ立場です。
「大西洋奴隷貿易は日本とは無関係では?」と思う人もいるかもしれません。
確かに日本は奴隷貿易の当事国ではない。
しかし日本が棄権を選んだことは、単なる無関係だからではないはずで、なぜならこの決議が問うている問いは、日本が長年向き合ってきた問題と構造的に同じだからです。
「条約で解決済み」vs「個人の被害は終わっていない」
1965年、日本と韓国は国交正常化条約を締結した。
日本は3億ドルの無償資金と2億ドルの低利融資を提供し「財産・請求権の問題は完全かつ最終的に解決された」とした。
しかしこの条約は、強制労働や慰安婦問題の被害者個人の声をほとんど聞かないまま締結されたものだったとされ二国間の火種になった。
日本は1995年に「アジア女性基金」を設立し、慰安婦被害者への「お詫び金」の支給と、歴代総理大臣の直筆署名による謝罪の手紙を届けた。
2015年には日韓合意のもと10億円の資金拠出とともに安倍総理が謝罪の意を表明した。
しかしこの2015年合意は、被害者の声を十分に反映していないとして後に韓国側に破棄され、多くの元慰安婦の女性たちはいまも「本当の謝罪ではない」と訴えている。
この構図「政府間の合意で法的には終わった」「でも被害者個人は納得していない」「謝罪は何度か出たが不十分だと言われ続けている」は、今回の国連決議が問うている「奴隷貿易の賠償問題」の構図とそのまま重なる。
日本政府は繰り返し、「将来世代がこの問題を永遠に謝り続けなければならない状況にしてはならない」という立場を示してきた。
アメリカが今回の反対票の理由として挙げた「当時の国際法上違法ではなかった歴史的不正行為に対する法的賠償権は認められない」という論理も、日本が植民地支配や戦時中の問題について主張してきた立場と重なる部分がある。
この決議が求める「賠償的正義」の議論・・
謝罪、補償、文化財返還、教育、世代を超えたトラウマへの対処は、日本がアジア諸国との間で現在進行形で議論していることとほぼ完全に重なる。
日本がこの問いを「アフリカとカリブ海の話」として遠ざけることは難しい。むしろ「歴史的不正義にどう向き合うか」という問いは、日本自身が世界に向けてその答えを示し続けなければならない問いでもある。
棄権という選択は、関係ないのではなく「この問いの難しさをよく知っている」からこそかもしれません。
◆まとめ
決議に法的拘束力はない。「人類最大の犯罪」と宣言されたとしても、明日から賠償金が動くわけでも政府が動くわけでもない。
国際条約も、人権規範も、最初は「宣言」から始まった。
1948年の「世界人権宣言」も法的拘束力はなかったが、その後のあらゆる人権条約の礎になった。
国際社会における「言葉の力」は、長い時間をかけて現実を変えることがある。
400年間その声は聞かれなかった。
この宣言がその声を聴く、最初の一歩になるかどうかはこれからの世界の動きにかかっているのでしょう。
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次回は「肉体労働」について少し書いていますので、お時間あれば読んでみてください。
日々の出来事から日記代わりにいろいろ書いています。
前回の記事も時間がありましたら読んでみてください。
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