【所得なき資産家】|巨額の資産も株式利益もあるのに「非課税世帯」?~マイナンバー制度がやろうとしている本当のところ!
「資産が数億円あるのに、国から給付金をもらっている人がいる」
そんな話を聞くと、多くの人は「まさか」と思うか、「不公平だ」と感じるでしょう。
しかし、現在の日本の税制・社会福祉制度には、合法的にそのような状態が成立してしまうエアポケットが存在します。
なぜそんなことが可能なのか?
そして、マイナンバー制度によって国は何を変えようとしているのか?
今回はその裏側に迫ります。
◆「所得なき資産家」とは何か?
まず「資産家」と「所得者」は、まったく別の概念です。
資産とは、株式・不動産・預貯金など現在手元に持っているものの総量です。
所得とは、1月1日から12月31日の1年間に新たに得た利益のことです。
つまり「所得なき資産家」とは、数億円の資産を持ちながら、その年の「所得」がほとんどゼロ、あるいは非常に少ない状態の人のことです。
具体的にどういう人かというと、たとえば・・
株式を数億円保有しているが、その年は売却せず、配当も特定口座(源泉徴収あり)で受け取っている
働いておらず、給与・事業所得もない
不動産収入もない
このような人は、住民税の判定に使われる「合計所得金額」がゼロになりえます。
2や3の場合は理解もできますが、1のようにどう考えても資産があるのに、所得ゼロとして貧しい人と同じ扱いでカウントされてしまうわけです。
「それはおかしいのでは?」と感じる方も多いでしょう。
しかしこれは所得隠しや意図的な隠ぺいではなく、制度の設計上、合法的に成立する状態なのです。
◆「特定口座(源泉徴収あり)」という制度の穴
日本では、証券口座の種類によって、株式売買の利益(譲渡益)や配当金の「所得としての扱い」がまったく異なります。
特定口座(源泉徴収あり)の仕組み
特定口座(源泉徴収あり)に上場株式を保有している場合、売買益や配当金に対して証券会社が自動的に税金を天引きします。
税率は所得税15.315%+住民税5%=合計20.315%です。
そして、この口座で発生した利益は「申告不要制度」が適用されます。
つまり、確定申告をしなければ、その利益は自治体が支援策などの判断にも使う「合計所得金額」に一切カウントされないのです。
これは違法ではなく自治体が公式に認めていることです。
多くの自治体の公式ホームページには、次のような明記があります。
「上場株式等の配当等や源泉徴収される特定口座において生じた上場株式等の譲渡益は、所得税と住民税が源泉徴収されているので、確定申告する必要はありません(申告不要制度)」
さらに、マネーフォワードなどの税務解説においても、
「源泉徴収ありの特定口座を選択し、確定申告をしなければ、配偶者控除や扶養控除における合計所得の判定から譲渡益を除外できる」
と解説されています。これは合法的な制度の特性です。
これはおかしいと思うかもしれませんが、銀行の預金利息と基本的には同じ扱いです。
例えば、1憶円を銀行に1年間預けた場合も利子に税金が掛かります。
20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%)
この税金が自動的に差し引かれた額が入金されます。
預金利率1%なら1年間100万円の利子が付き、税引後約80万円が口座に入ります。
利子所得も「源泉分離課税」となるため、金額の多少に関わらず確定申告の必要はありません。
これが国税庁が明確に示しているルールに沿った為の結果であることだと知る必要があります。
「合計所得金額」とは何か
住民税の非課税判定や、各種給付金・補助の受給資格を判断する際に使われる基準が「合計所得金額」です。
これは、給与所得・事業所得・不動産所得・年金所得などを合算した金額です。
特定口座(源泉徴収あり)で確定申告をしない場合、証券会社が自動的に税金自体は支払っていますが、株式の売買益や配当金はこの合計所得金額に含まれません。
つまり、株で年間数千万円の利益を出していても、それが特定口座(源泉徴収あり)内の話であれば、住民税の非課税判定において「所得ゼロ」扱いになりえるのです。
税金としてはもう払っているのですから確定申告を二重にする必要がないという制度の為に、自治体では個別に全てを把握できないという状態です。
2024年以降の制度変更
2022年の税制改正により、2024年(令和6年)分の所得申告から、所得税と住民税で異なる課税方式を選択することは廃止されました。
これはどういうことかというと、以前は「所得税だけ他の損失と合算で確定申告し、住民税は申告不要を選ぶ」という技が使えました。
所得税法と地方税法(住民税)において、「それぞれの税金で、納税者が有利な課税方式をバラバラに選んで良い」というルールがあったのです。
具体的には、以下のような手続きが正式に認められていたのです。
所得税の確定申告をする: 株の配当や売却益を「総合課税」や「申告分離課税」で申告。これにより、源泉徴収されていた税金の還付(返金)を受ける。
住民税の「申告不要」を届け出る: 市区町村役場に対し、「所得税では申告したけれど、住民税では申告不要制度を使います」という専用の書類(住民税申告書)を提出する。
この手続きを行うと、自治体側のデータ上は「株の利益はゼロ」として扱われました。
その結果、「国からは税金を返してもらいつつ、自治体からは所得ゼロの低所得者(非課税世帯)として手厚い支援を受ける」という、まさに「いいとこ取り」が完璧に成立していたのです。
2024年以降はそれができなくなりました。
ただし、確定申告そのものをしない(申告不要制度を丸ごと使う)場合は従来通り、合計所得金額に含まれません。
制度の「穴」は完全には塞がれていないのです。
◆「貧乏人ではないのに」もらえる支援とは?
所得ゼロで住民税非課税世帯に認定されると、受けられる優遇措置は非常に多岐にわたります。
主な優遇措置(公的資料に基づく)
各種給付金(コロナ給付金、物価高対策給付金など、住民税非課税世帯を対象としたものが多数)
国民健康保険料の大幅減額(2〜7割減)
国民年金保険料の全額または一部免除
高額療養費制度の自己負担上限が大幅に低くなる(70歳未満で月3万5,400円)
高校授業料の実質無償化
高等教育無償化(大学・専門学校の授業料減免および給付型奨学金の対象。ただし資産1,250万〜2,000万円以下の制限あり)。
介護サービスの自己負担軽減(第1段階〜第3段階といった低い保険料率が適用される。)
障害福祉サービスの利用料軽減
NHK受信料が世帯全員が非課税かつ特定の条件(障害者同居等)を満たせば全額免除。
2024年11月には、物価高対策として住民税非課税世帯に1世帯あたり3万円の給付金が閣議決定されています。
このような給付は今後も継続する可能性があります。
資産数億円の「所得なき資産家」が、これらすべての優遇を受けられるのかと問われれば、制度の判定上は「可能」なケースがあります。
これが問題視されている所以です。
◆非課税ラインの具体的な数字
住民税(均等割・所得割の両方)が非課税となる「合計所得金額」の基準は以下のとおりです。
例は東京23区(港区)の公式ホームページに基づく数字です。
令和3年度以降(現行)
世帯構成合計所得金額の上限
単身(扶養なし):45万円以下
本人+扶養1人:101万円以下(35万円×2人+31万円)
本人+扶養2人:136万円以下(35万円×3人+31万円)
本人+扶養3人:171万円以下(35万円×4人+31万円)
※計算式:35万円×(本人+同一生計配偶者+扶養親族の合計人数)+31万円
給与収入に換算した目安(令和7年度・2025年分まで)
単身:給与収入100万円以下(令和8年度からは110万円以下)
配偶者あり:給与収入約156万円以下
ただし繰り返しになりますが、特定口座(源泉徴収あり)で申告不要を選択した場合、株式売買益・配当はこの「合計所得金額」に含まれません。
そのため、実質的な収入が数百万円あっても、「合計所得金額ゼロ」として非課税世帯に該当しうるのです。
◆「所得なき資産家」になるには?
ここは多くの人が気になるところだと思いますが、制度の仕組みを正確に把握してもらうために説明します。
「所得なき資産家」状態になる要件(いずれも合法的な条件):
給与・事業所得・不動産所得がゼロである(働いていない、または事業をしていない)
公的年金の受給額が少ないか、受給していない(年齢等による)
株式の売買益・配当金は特定口座(源泉徴収あり)で管理し、確定申告をしない(申告不要制度を選択する)
資産は現金・株式・投資信託などで保有し、不動産からの家賃収入はない
このすべてが揃ったとき、実際は数億円の資産を持つ人でも「合計所得金額ゼロ」として住民税非課税世帯となりえます。
注意すべきデメリット:
確定申告をしないため、損失がある場合の繰越控除が使えない(3年間の損失繰り越しが不可)
確定申告をしないため、複数口座をまたいだ損益通算ができない
源泉徴収ありだと売買時点の価格に対して一律税金が取られるが、他に売買損失でマイナスがあってもそれを相殺できない。社会保険の扶養に関連する判定では別途注意が必要
◆その状態で普通の生活はできるのか?
結論から言えばできます。
ただし、前提として「すでに十分な資産がある」ことが必要です。
貯金から引き出して使うだけなら所得ではないです。
十分な貯金があれば十分生活も出来ます。
株式・投資信託の保有資産から年間の生活費を「売却」によって捻出する場合、その売却益は特定口座(源泉徴収あり)内であれば、20.315%の税金は取られますが、合計所得金額には算入されません。
たとえば、2億円の株式資産を持つ人が年間500万円分の株を売却して生活費に充てたとしましょう。
取得価格が1億円だったとすれば、譲渡益は約250万円です。
この250万円に対して税金(約51万円)が源泉徴収されますが、住民税の判定上の「所得」はゼロのままです。
税金はきちんと払いながら、社会保障制度の判定上は「低所得者」と同じ扱いを受ける。これが「所得なき資産家」の実態です。
◆マイナンバー制度が変えようとしていること
では、国はこの「エアポケット」をどう塞ごうとしているのか。
その鍵を握るのがマイナンバー制度の拡張です。
現状:証券口座へのマイナンバー紐付け
証券会社の口座(特定口座)については、すでに法令によりマイナンバーとの紐付けが義務化されています。
これにより、国税庁は証券会社に対して税務調査を行う際に、個人の取引状況を把握できます。
ただし現状では、証券残高そのものを常時把握する仕組みにはなっていません。
現状:預貯金口座への紐付け
2024年4月より「口座管理法」が施行され、預貯金口座をマイナンバーと紐付ける制度が本格スタートしました。
ただし現在は任意制です。
デジタル庁の公式FAQには次の通り明記されています。
「マイナンバーの届出をきっかけに、金融機関が国に預貯金残高などをお知らせすることはありません。国が預貯金者の口座情報を確認できるのは、法令に基づき、必要な社会保障の資力調査や税務調査などを行う場合に限られています」
つまり現時点では、「口座を紐付けただけで残高が丸見えになる」わけではありません。
国が目指す「資産も考慮した負担の仕組み」
財政制度等審議会(財務省の諮問機関)は、2023年11月の提言において次のような方向性を示しています。
「金融資産等を考慮に入れた負担を求める仕組み」として、医療保険・介護保険における負担の在り方全般について、マイナンバーの活用により金融資産の保有状況も勘案して、負担能力を判定するための具体的な制度設計について検討すべきである
東京財団政策研究所の分析によれば、実現にはいくつかの課題があります。
現在、証券口座はマイナンバーで付番されているものの、常時の証券残高の把握はできていないこと。
また、金融負債(住宅ローン等)との扱いをどうするか、基準日(金融資産の残高を確認する特定の日付)逃れをどう防ぐか、といった技術的課題もあると指摘されています。
「社会保障と税の一体把握」という方向性
現在の制度の問題点をまとめると以下のようになります。
所得は給与・事業所得などを通じてある程度把握できる
しかし資産(株式残高・預貯金残高)は、税務調査等の特定の場面を除き、一括で把握できていない
そのため、高資産・低所得という状態の人に、低所得者向けの給付・優遇が流れている可能性がある
国が目指しているのは、「所得だけでなく、資産も含めた負担能力の把握」です。
マイナンバーを軸に、銀行・証券・税務のデータを紐付けることで、「本当に支援が必要な人に給付し、そうでない人には相応の負担を求める」制度設計を実現しようとしています。
ただし、これには強力な個人情報管理体制と、国民の合意形成が必要です。
「口座付番を義務化していない先進国はわが国だけ」と東京財団は指摘しており、制度の本格運用まではまだ時間がかかると見られています。
重要なのは、現状の制度の「穴」は意図して作られたものではなく、制度設計上の盲点だという点です。
株式投資に対する申告不要制度は、「少額投資を促進する」「源泉徴収されているから二重の申告負担を課さない」という政策的な意図で設けられたものです。
その副作用として、高資産層でも低所得者向け給付の対象になりうるという状況が生まれました。
今後マイナンバー制度の整備が進む中で、「所得」だけでなく「資産」も含めた総合的な負担能力の把握が実現されると、この制度の穴は段階的に塞がれていくことになるでしょう。
◆まとめ
「所得なき資産家」とは、大きな資産を持ちながら、申告上の「合計所得金額」がほぼゼロという状態の人
特定口座(源泉徴収あり)で申告不要を選ぶと、株式の売買益・配当金は合計所得金額に含まれない。これは合法的な制度の仕組み
住民税非課税世帯の判定基準は「合計所得金額」であり、単身の場合は45万円以下
非課税世帯には、給付金・保険料減額・教育費無償化など幅広い優遇措置がある
マイナンバー制度は「資産も含めた負担能力の把握」を目指しているが、現時点では任意付番にとどまり、資産残高の一括把握は実現していない
財政制度等審議会は金融資産を考慮した医療・介護負担の見直しを提言しており、制度は今後変わっていく可能性が高い
「知っている人だけが得をする」という状況は、制度の透明性という観点からは問題があります。
税制・社会保障制度をより深く理解するきっかけになれば幸いです。
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それでは次回は「東宝」について少し書いていますので、お時間あれば読んでみてください。
日々の中で資産を作っていくための心構えなどを日記代わりにいろいろ書いています。
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