知るメモ|【ウィルヘルムの叫び】|70年以上使いまわされる悲鳴!~ディズニー作品やゲームでも使われる全く同じ効果音の正体は?
映画ファンであればご存じの効果音の一つ「ウィルヘルムの叫び」。
知らない人にとっては気にしたこともないであろう、登場人物が崖から落ちたり、爆風に吹き飛ばされたりした瞬間に、「アァーーーウッ!」という、ちょっと特徴的な高い悲鳴の正体がそれです。
「スター・ウォーズ」で、ストームトルーパーが足場から撃ち落とされる瞬間。
「インディ・ジョーンズ」で、敵兵が崖から転落する瞬間。
「ロード・オブ・ザ・リング」で、オークが矢に倒れる瞬間。
そのどれもで、まったく同じ「悲鳴」が使われています。
過去70年以上にわたって400本以上の映画・ドラマ・ゲームに使い回されてきた、ハリウッドで最も有名な効果音。
なぜ一つの悲鳴が、これほど長く、これほど広く、使われ続けているのか。その始まりは、誰も覚えていないような一本のB級西部劇にあったのです。
正体は、1951年の「ワニに襲われるシーン」で生まれた、たった一つの悲鳴だった
物語は1951年、ワーナー・ブラザース製作の西部劇「Distant Drums(邦題:遠い太鼓)」にさかのぼります。
ゲイリー・クーパー主演のこの作品には、兵士の一団が沼地を渡っている最中、一人がワニに噛みつかれて沈んでいくという場面があります。
当然、その兵士は悲鳴を上げる。
このとき録音された音声は、後の調査によって発見された記録によれば、「Man getting bit by an alligator, and he screams(男がワニに噛まれて悲鳴を上げる)」という、なんともそっけないタイトルがつけられていました。
では、その悲鳴を上げたのは誰だったのか。
長年、これははっきりしない謎とされてきましたが、後の調査でスター・ウォーズの音響デザイナー、ベン・バート氏がワーナー・ブラザースの資料を掘り起こしたところ、「シェブ・ウーリー」という人物の名前が見つかった。
ウーリーは後に「ザ・パープル・ピープル・イーター」というコミックソングのヒットで知られることになる俳優兼歌手で、テレビ西部劇「ローハイド」にも出演していた人物です。
彼の妻は後のインタビューで、夫が生前「映画の中で叫んだり死んだりするのが得意だった」とよく冗談を言っていたと証言している。
決定的な証拠は今も存在しないようですが、業界内では「おそらくシェブ・ウーリーの声」というのが定説になっている。
70年越しに見つかった幻のテープ
「ウィルヘルムの叫び」のオリジナル録音テープは、長い間行方不明とされていました。
しかし、「Distant Drums」の制作から70年以上が経った2023年、USC映画芸術学校の卒業生で音響保存に携わるクレイグ・スミス氏が、思いがけない発見をする。
彼が長年保存活動を続けてきた音響効果スタジオ「サンセット・エディトリアル」の資料の中から、6回分のテイクをすべて収めた約39秒のオリジナル音声テープが見つかったのである。
録音された音源
https://freesound.org/people/craigsmith/sounds/675810/
録音技師の指示のもと、出演者が6回にわたって悲鳴のテイクを重ねています。
最初のテイク(エンジニアの指示段階)
最初にエンジニアから「ワニに噛まれた男が叫ぶ声だ」とお題を出され、声優が演技を始めます。
テイク1:「おぉーっ!」という、ややマイルドな叫び。
テイク2:「痛い!痛い(Owww! Owwww!)」と、言葉を発してしまう。 ここでエンジニアから「いや、言葉(痛い)じゃなくて、もっとリアルな苦痛の悲鳴を頼む!」とダメ出しが入ります。
覚醒したテイク(ここからが本番)
軌道修正した声優は、ここから純粋な「叫び(セリフなし)」に切り替えます。
テイク3:かなり激しい叫び。
テイク4:これこそが、世界に知られる「ウィルヘルムの叫び」そのものです。 エンジニアの注文通り、言葉を排除し、純粋な悲鳴からうめき声へと消えていく完璧なテイクでした。
テイク5:少し短めの叫び。実は、映画「Distant Drums」でワニに襲われるシーンに実際に使われたのは、このテイク5の方でした(テイク4は別の戦闘シーンなどで先に消費されていました)。
テイク6:最後の力を振り絞ったような、短く鋭い叫び。
つまり、私たちが普段耳にしているお約束の「ウィルヘルムの叫び」は、全6テイク中の「テイク4」にあたります。
映画やテレビの音響素材は、フィルムや脚本に比べて記録・保存への意識が低く、散逸しやすいという問題が以前から指摘されていました。
今回の発見は、音響アーカイブを未来へ残すことの大切さを、業界に改めて思い出させる出来事でもありました。
名前の由来は、まったく別の映画の脇役だった
奇妙なことに、この悲鳴は最初に使われた映画「Distant Drums」ではなく、まったく別の映画のキャラクター名にちなんで「ウィルヘルム」と呼ばれるようになった。
1953年の西部劇「The Charge at Feather River(邦題:肉弾鬼中隊)」に、ウィルヘルム二等兵という脇役が登場する。
彼が矢で太ももを射抜かれて叫ぶシーンに、ワーナー・ブラザースの効果音ライブラリに登録されていたあの悲鳴が使われた。
実はこの映画は、この悲鳴が使われた作品に一つに過ぎなかったのだが、配役名と結びついたことで、後年この音そのものが「ウィルヘルムの叫び」と呼ばれる名前を獲得することになるのでした。
一人の音響デザイナーが、この悲鳴を「伝説」に変えた
転機が訪れたのは1970年代後半。
「スター・ウォーズ」の音響デザイナーだったベン・バート氏が、効果音アーカイブを漁っているうちにこの悲鳴を発見する。
彼はこれを気に入り、1977年の「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」で、ルーク・スカイウォーカーに撃たれたストームトルーパーが足場から転落するシーンに採用した。
ここから、この悲鳴の運命は大きく変わる。
バート氏はその後も自身が手がける作品にこの音を意図的に挿入し続け、それを知った他の音響技師や監督たちも、敬意とユーモアを込めて自作にこっそり忍ばせるようになった。
やがてこれは映画業界内の「内輪ウケ」として、観客には気づかれなくても、業界関係者やマニアにはニヤリとされる効果音として定着していくのでした。
主な登場作品
「え、あの映画にも?」と思うような超大作に、驚くほどたくさん紛れ込んでいます。
スター・ウォーズ シリーズ:ほぼ全作(ストームトルーパーが撃たれたとき、乗り物が爆発したときなど)
インディ・ジョーンズ シリーズ:ナチスの兵士が車から突き落とされるシーンなど
ロード・オブ・ザ・リング シリーズ:エルフの兵士が城壁から落ちるときなど
ディズニー・ピクサー作品:『トイ・ストーリー』(バズが窓から落ちるシーン)、『アラジン』、『カーズ』など
その他:『タイタニック』、『アベンジャーズ』、『マトリックス』、さらには『グランド・セフト・オート』などのゲーム作品まで
ジャンルも時代も超えて、この一つの悲鳴は使われ続けてきた。
そして、
あえて「使わない」という選択も、また一つの遊びになった。
「最後のジェダイ」や、アンソロジー作品「ローグ・ワン」では、ウィルヘルムの叫びが意図的に使われなかったとされ、これに気づいたファンの間で「今回はどこにあるのか」「まさか不在なのか」という答え合わせがちょっとした話題になった。
ちなみに、その作品で代わりに使われたのは、監督「ジョージ・ルーカス」の悲鳴を録音したものだそうです。
使うことそのものが業界のお遊びであるのと同時に、「使わない」という選択もまた、ファンとのコミュニケーションの一部になっている。
◆まとめ
西部劇の中で演じた一つの叫び声。
それが録音ライブラリの片隅に眠り、別の映画の脇役の名前を借りて呼ばれるようになり、一人の音響デザイナーの好奇心によって掘り起こされ、世代を超えた映画人たちの隠れた連帯のしるしになっていく。
そして70年後、保存活動に携わる人物の手によって、その原点が再びこの世に取り戻される。
次にハリウッド映画を見るとき、誰かが撃たれたり落下したり爆発に巻き込まれたりする場面があれば、少し耳を澄ませてみてください。
もしかしたら、70年以上前にワニに噛まれた人の悲鳴が、今もそこに息づいているかもしれないですよ!
次回は「強制通用力」について少し書いていますので、お時間あれば読んでみてください。
色々な実例や無意識に行ている人の行動など、少しまとめて記事を書いています。
前回の記事も良かったら見てみてください。
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