魔法少女エターナルリンクre:Link第7話 『戦う理由を、身体だけが覚えている』
朝焼けの空気を裂きながら、魔力の光が山道を駆け抜ける。
黒い封印術式。
蒼白い氷結魔法陣。
二つの力が重なり合い、空間そのものへ“楔”を打ち込んでいた。
「——止まった……!」
セナが小さく息を呑む。
魔獣の身体が、空中で固定されている。
いや。
正確には、“世界側から拒絶されている”。
黒い紋様が魔獣の全身へ絡みつき、その存在そのものを縛り上げていた。
「……何、この術式……」
セナの青い瞳がわずかに揺れる。
初めて見る魔法だった。
少なくとも、今のユノカが使えるはずのない術。
なのに。
ユノカ本人が、一番驚いていた。
(……なんで)
封印陣を展開したまま、自分の手を見る。
自然に出た。
まるで、長年使い慣れていた技みたいに。
詠唱もない。
術式構築の感覚すら曖昧。
なのに、身体だけが知っている。
「……っ」
胸がざわつく。
脳の奥で、“知らない記憶”が軋んでいた。
白い空間。
崩壊する世界。
誰かを守るために、何度も鈴を鳴らした感覚。
『ユノカ!!』
誰かの泣き声。
知らないはずなのに。
忘れたくないと思ってしまう声。
「姉さん!」
セナの声で、意識が現実へ戻る。
魔獣が、封印の内側で暴れ始めていた。
「……っ、力が強い……!」
黒い狼型の魔獣。
普通の低級種より、明らかに魔力密度が高い。
その赤い瞳には、“何か”を探しているような執念が宿っていた。
まるで。
“誰かの命令”を受けているみたいに。
「グルルルルル……!!」
咆哮。
瞬間。
封印術式へ亀裂が走る。
「……!」
ユノカの瞳が見開かれる。
(破られる——)
だが次の瞬間。
セナが前へ出た。
「姉さん、下がって」
その声は静かだった。
けれど。
氷みたいに研ぎ澄まされている。
セナの周囲へ、蒼白い結晶が浮かび上がった。
空気が冷える。
朝露が、一瞬で凍りつく。
「——月氷結界」
足元へ広がる巨大な魔法陣。
次の瞬間。
無数の氷槍が空中へ展開された。
陽光を受け、青白く輝く氷。
その美しさは、一瞬だけ現実感を失わせるほど幻想的だった。
だが。
込められているのは、明確な“殺傷力”。
「穿って」
セナが小さく呟く。
——ズドォォン!!
氷槍が一斉に射出された。
空気を裂く音。
次々に魔獣へ突き刺さる氷。
だが。
「……っ!?」
セナの表情が変わる。
魔獣が、止まらない。
身体を貫かれてもなお、赤い瞳だけが執念深く光っている。
「……再生してる……?」
あり得ない。
低級魔獣にそんな能力はない。
その時だった。
ユノカの胸元の鈴が、強く鳴った。
――チリンッ!!
同時に。
頭の奥で、“誰かの声”が響く。
『核を壊して』
「……っ」
ユノカの瞳が揺れる。
今の声。
間違いなく——ミルカだった。
『胸の奥。そこが本体』
「……胸」
視線を向ける。
魔獣の身体の奥。
黒い霧の中心。
そこに、微かに赤い光が見えた。
「セナ!」
ユノカが叫ぶ。
「中心、赤い核!」
セナは一瞬で理解した。
「……合わせる!」
次の瞬間。
二人の魔力が同時に高まる。
ユノカの黒い封印術。
セナの蒼い氷結魔法。
混ざり合う二つの力。
その瞬間。
空気が“共鳴”した。
「……え」
セナの瞳が見開かれる。
魔力の波長が、完璧に噛み合っている。
初めての共闘のはずなのに。
まるで。
何度も繰り返してきたみたいに。
「——夜氷封界」
ユノカの口から、自然に言葉が零れた。
知らない術。
知らないはずの名前。
だが。
身体が知っている。
巨大な黒蒼色の魔法陣が展開される。
その中心で。
魔獣の動きが、完全に止まった。
「今!」
セナが氷槍を放つ。
一直線。
蒼白い光が、赤い核を貫いた。
——バキン。
乾いた音。
次の瞬間。
魔獣の身体が、黒い粒子となって崩れ落ちた。
静寂。
風が吹く。
桜の花びらが舞い落ちる。
そして。
魔獣が消えた場所に、一枚だけ——
“白い羽根”が残っていた。
「……っ」
ユノカの胸がざわつく。
セナもまた、その羽根を見て表情を曇らせた。
「……天使側」
小さな呟き。
その言葉を聞いた瞬間。
ユノカの胸の奥に、説明できない嫌悪感が走る。
怖い。
違う。
“憎い”。
理由なんてわからない。
なのに。
その白い羽根を見るだけで、心が激しく軋む。
「姉さん……?」
セナが心配そうに覗き込む。
ユノカは、自分でも気づかないうちに拳を強く握っていた。
そして。
頭の奥で。
ミルカが静かに呟く。
『……やっぱり始まってる』
『向こうも、もう気づいてる』
朝日は、変わらず穏やかだった。
けれど。
その光の届かない場所で。
運命は、再び静かに動き始めていた。
🌸
つづく
