魔法少女エターナルリンクre:Link第15話 『夕暮れの屋上、赤い瞳』
放課後。
校舎は、昼間とは別の顔を見せ始めていた。
部活動へ向かう生徒たちの声。
廊下を駆ける足音。
吹奏楽部の音が遠くから微かに聞こえる。
窓の外では、夕陽が空を赤く染めていた。
春の終わりに近づく夕暮れは、どこか切ない。
サクラ=ミラージュは、一人で廊下を歩いていた。
胸の奥が、まだざわついている。
昼休み。
ユノカへ触れた瞬間に流れ込んできた、あの光景。
崩壊した世界。
泣いている自分。
血塗れのユノカ。
『また、会おう』
あの声が、頭から離れない。
「……なんなの……」
小さく呟く。
怖かった。
でも。
それ以上に、“失う”感覚が怖かった。
初めて会ったばかりのはずなのに。
なのに。
どうしてあんなに苦しいのか。
その時。
「こっち」
不意に声がした。
振り向く。
そこには、壁へ寄りかかるカレンがいた。
黒髪。
赤い瞳。
制服を少し着崩した姿。
夕陽を背に立つその姿は、妙に影が濃い。
「……カレン」
サクラが小さく呟く。
カレンは面倒そうに髪をかき上げると、そのまま歩き出した。
「ついてきて」
「え、どこに……」
「いいから」
有無を言わせない口調。
サクラは少し迷ったあと、その背中を追いかけた。
◇
連れて来られたのは、旧校舎側の屋上だった。
普段はほとんど人が来ない場所。
フェンス越しに見える街並みが、夕焼けへ染まっている。
風が吹く。
サクラのピンク色の髪が揺れた。
カレンはフェンスへ寄りかかりながら、しばらく黙っていた。
まるで。
言葉を選んでいるみたいに。
やがて。
小さく息を吐く。
「……サクラ」
「う、うん」
「ユノカと、あんま近づきすぎない方がいい」
その言葉に、サクラの胸が跳ねた。
「……え?」
意味がわからない。
でも。
カレンの声は、冗談じゃなかった。
赤い瞳が、真っ直ぐこちらを見ている。
その奥には。
焦りみたいなものが滲んでいた。
「……どうして?」
問い返す。
すると。
カレンは一瞬だけ視線を逸らした。
「……嫌な予感がするから」
「嫌な予感?」
「そう」
短い返答。
けれど。
それだけじゃないと、サクラにも分かった。
風が吹く。
夕陽が、カレンの横顔を赤く照らしていた。
「……私」
カレンが、ぽつりと呟く。
一人称。
それが自然に零れる。
「最近、変な夢見る」
サクラの呼吸が止まる。
「……夢」
「白い世界とか」
「崩れた街とか」
「……血とか」
その瞬間。
サクラの瞳が大きく揺れた。
——同じ。
自分も見た。
同じ夢を。
「……っ」
胸が苦しくなる。
カレンは、それを見て小さく目を細めた。
「やっぱり」
「サクラも見てるんだ」
その声には、確信があった。
サクラはゆっくり頷く。
「……ユノカが」
声が震える。
「……消える夢を見た」
夕陽の中。
その言葉だけが、妙に重く響いた。
カレンの表情が、ほんの少しだけ歪む。
まるで。
“知っていた”みたいに。
「……最悪」
小さな舌打ち。
その声音には、苛立ちより恐怖が混ざっていた。
サクラは思わず問いかける。
「……カレン、何か知ってるの?」
沈黙。
風が吹く。
フェンスが小さく軋む音だけが聞こえた。
やがて。
カレンは低く呟く。
「……知らない」
「でも」
赤い瞳が、夕焼けの中で揺れる。
「ユノカが死ぬ光景だけは、嫌ってほど頭に残ってる」
その瞬間。
サクラの胸が、強く痛んだ。
「……っ」
知らないはずなのに。
聞きたくない言葉だった。
まるで。
“本当にあった未来”みたいで。
カレンは、そんなサクラを見ながら静かに拳を握る。
頭の奥で、断片的な映像が流れていた。
黒い翼。
血塗れのユノカ。
泣いているサクラ。
そして。
最後まで笑おうとしていた、あの顔。
『……またな』
「……っ」
カレンはぎり、と奥歯を噛み締めた。
どうして。
どうしてこんな感情が残っているのか。
知らない。
でも。
あの笑顔だけは。
どうしても、“失いたくない”と思ってしまう。
その時だった。
——チリン。
どこからか、鈴の音が聞こえた。
サクラの身体がびくりと震える。
カレンの赤い瞳も、大きく揺れた。
次の瞬間。
空の向こう。
夕焼けの雲間に——
“白い羽根”が舞った。
空気が変わる。
重い。
冷たい。
まるで。
“何か”がこちらを見ているみたいに。
カレンが舌打ちする。
「……もう来やがったか」
「え……?」
サクラが顔を上げる。
その瞬間。
頭の奥で、誰かの声が響いた。
『観測対象、再接触を確認』
感情のない声。
機械みたいな音。
『誤差拡大中』
『修正を開始します』
夕焼けの空で。
再び、“天使”が動き始めていた。
🌆
つづく
