魔法少女エターナルリンクre:Link第6話『朝焼けと、再びの変身』
朝の空気は澄んでいた。
神社の石段を下りながら、ユノカは大きく欠伸をする。
まだ少し眠い。
昨夜の夢があまりにも鮮明で、頭の奥に残り続けているせいか、現実との境界が少し曖昧だった。
満月。
湖。
ミルカ。
そして——サクラ。
「……姉さん」
前を歩いていたセナが、ふいに立ち止まる。
その声色で、ユノカの眠気は一瞬で吹き飛んだ。
「……来てる」
静かな声。
だが、その瞳は完全に戦闘時のものだった。
ユノカも足を止める。
朝の風。
木々の匂い。
土の湿った香り。
その中に、異物が混ざっている。
「……っ」
胸がざわつく。
胃の奥が重くなるような嫌な感覚。
“知っている”。
この感覚を、身体が覚えている。
「……魔獣」
口にした瞬間、胸元の鈴が鳴った。
――チリン。
ユノカの瞳がわずかに細くなる。
神社の下。
街へ続く細い山道の奥。
黒い霧のようなものが漂っていた。
朝日を浴びているはずなのに、そこだけ夜が染み付いているみたいに暗い。
セナが静かに息を吐く。
「最近、増えてる」
「……うん」
ユノカは視線を細めた。
夢の中でミルカが言っていた。
『向こうも動き始める』
その言葉が脳裏をよぎる。
「学校前に片付けるよ」
「……了解、姉さん」
その瞬間。
二人の空気が変わった。
風が吹く。
桜の花びらが舞い上がる。
ユノカは胸元の鈴へ触れ、静かに目を閉じた。
鼓動が高鳴る。
けれど不思議と恐怖はなかった。
むしろ——懐かしい。
身体が、“これ”を待っていたみたいだった。
「——リンク、起動」
鈴が強く鳴る。
――チリンッ!!
瞬間。
白と黒の魔力が、ユノカの身体を包み込んだ。
風が渦巻く。
白髪が揺れ、巫女装束が夜色の魔力へ変換されていく。
袖に刻まれる銀の紋様。
腰元へ浮かぶ鈴飾り。
黒と白が混ざる羽衣。
そして背後に、一瞬だけ浮かび上がる“黒い翼”。
朝焼けの中。
ユノカは静かに目を開いた。
その瞳は、右が紅、左が蒼。
オッドアイが淡く光っている。
「……やっぱり」
ユノカは自分の手を見つめる。
初めてのはずなのに。
“知っている”。
この力の使い方を。
一方。
セナもまた、静かに魔力を解放していた。
淡い青の光。
透き通るような氷の粒子が舞い上がる。
セナの衣装は、水と月光を思わせる白蒼色。
肩から流れる薄布が風に揺れ、その周囲には小さな結晶が浮かんでいる。
「行くよ、姉さん」
「うん」
二人は同時に駆け出した。
石段を蹴る。
風を裂く。
朝の静寂の中、魔力の軌跡だけが鮮やかに残る。
山道の先。
そこには、“それ”がいた。
黒い獣。
狼のような形。
だが、その身体は影の塊みたいに不安定で、赤い目だけが異様に光っている。
周囲の空気が歪んでいた。
普通の人間なら見えない存在。
——魔獣。
「グルルルル……」
低い唸り声。
その瞬間。
ユノカの胸の奥で、何かがざわついた。
(……弱い)
思わず、そう感じた。
魔獣を見た瞬間。
恐怖より先に、“戦える”という感覚が浮かんでくる。
身体が覚えている。
何度も。
何度も。
こうして戦ってきたことを。
「姉さん!」
セナの声。
魔獣が突進する。
速い。
普通の人間なら反応もできない。
だが。
ユノカの身体は、自然に動いていた。
地面を蹴る。
風が揺れる。
黒い爪が頬を掠める寸前——
ユノカは最小動作で回避していた。
「……っ!?」
自分でも驚く。
今の動き。
考えてない。
なのに、“知っていた”。
「……身体が勝手に」
その瞬間。
頭の奥で、ミルカの声が聞こえた気がした。
『反応速度、前よりいいかも』
「……っ」
ユノカの瞳が揺れる。
だが。
迷っている暇はなかった。
魔獣が再び跳ぶ。
ユノカは鈴を握り締めた。
「——封式・夜鈴」
鈴の音が響く。
空間に黒い紋様が広がった。
次の瞬間。
魔獣の動きが止まる。
「……え?」
ユノカ自身が驚く。
自然に術式が出た。
詠唱も、構築も。
まるで、“思い出した”みたいに。
セナが後方から魔力を展開する。
「姉さん、合わせる!」
「うん!」
青い氷結魔法陣。
黒い封印術式。
二つの魔力が交差する。
朝焼けの中。
二人の魔法少女は、再び運命へ足を踏み入れていた。
🌸
つづく
