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魔法少女エターナルリンクre:Link第4話 『夜の底に残るもの』

満月は、静かだった。

空に浮かぶ白い月は、どこか現実感がない。

まるで。

“空に描かれた記憶”みたいだった。

湖面に映る月光が揺れるたび、世界そのものが呼吸しているように見える。

ユノカは、水面の上に立ったままミルカを見つめていた。

黒髪ショート。

赤い瞳。

夜そのものを切り取ったみたいな少女。

初めて会ったはずなのに。

その姿を見ているだけで、胸の奥が熱くなる。

「……ミルカ」

名前を呼ぶ。

それだけで、なぜか懐かしい。

ミルカは少しだけ目を細めた。

「ん」

返事は短い。

でも。

その声には、“やっと辿り着いた”みたいな安心感が滲んでいた。

風が吹く。

黒髪が揺れる。

湖面が、静かに波紋を広げた。

「……ねえ」

ユノカが、おそるおそる口を開く。

「私たち……前に会ったことある?」

その問いに。

ミルカは、ほんの少しだけ困ったように笑った。

「あるよ」

即答だった。

「……っ」

胸が、大きく脈打つ。

「でも」

ミルカは続ける。

「今のユノカは、まだ覚えてない」

「……どういう意味?」

「そのままの意味」

ミルカはゆっくり歩き出す。

裸足の足先が、水面を撫でるたび銀色の波紋が広がっていく。

「ユノカはね」

「一回、“全部”失くしてる」

その言葉に。

空気が少しだけ冷たくなった気がした。

「……全部?」

「うん」

振り返らないまま、ミルカは言う。

「世界ごと」

その瞬間。

ユノカの視界に、ノイズが走った。

白い光。

崩れていく空。

誰かの泣き声。

血。

翼。

そして——

『また、見つけて』

「……っ!」

頭痛。

ユノカは思わず胸を押さえた。

「……ぅ……」

「無理に思い出さなくていい」

ミルカが、静かに言う。

その声だけで、不思議と痛みが少し引いた。

「今はまだ、壊れるから」

「……壊れる?」

「記憶ってね」

ミルカは湖を見つめながら呟く。

「全部戻ればいいってもんじゃないんだよ」

「特に、“終わった世界”の記憶は」

その横顔は、少しだけ大人びて見えた。

ユノカは、そんなミルカを見つめながら思う。

(……この子)

(ずっと、一人だったのかな)

理由はわからない。

でも。

そう思った。

月明かりの中に立つミルカは、どこか寂しそうだった。

「……ミルカは」

ユノカが、小さく言う。

「覚えてるの?」

その質問に。

ミルカは少しだけ黙った。

夜風が吹く。

湖面に映る月が揺れる。

「……全部じゃない」

やがて、ぽつりと答える。

「私も、結構欠けてる」

「ただ」

赤い瞳が、真っ直ぐユノカを見る。

「ユノカが、ずっと頑張ってたのは覚えてる」

その言葉だけで。

胸が、締め付けられる。

なぜかわからない。

でも。

泣きそうになる。

「……私」

ユノカは呟く。

「何してたの」

ミルカは少しだけ目を伏せた。

そして。

「戦ってた」

静かな声。

「何回も」

「何回も負けて」

「何回も立ち上がって」

「それでも最後まで、誰かを助けようとしてた」

ユノカの胸が痛む。

まるで。

その言葉が、“本当にあったこと”みたいに響く。

「……誰を?」

問いかける。

すると。

ミルカは、ほんの少しだけ笑った。

「それ、今いちばん大事なところ」

「……教えてよ」

「まだ駄目」

「なんで」

「ユノカ、たぶん思い出したら飛び出していくから」

「……は?」

意味がわからない。

だが。

ミルカは真面目だった。

「今はまだ、“始まったばっかり”だから」

「……始まった?」

「うん」

ミルカは空を見上げる。

満月。

その光を見つめながら、静かに呟く。

「今回の世界、少し違う」

「……違う?」

「前より、“繋がり”が残ってる」

その瞬間。

ユノカの脳裏に、サクラの顔が浮かんだ。

教室。

涙。

震える瞳。

『やっと会えた』

胸が、また痛む。

「……サクラ」

名前を口にした瞬間。

ミルカの瞳が少しだけ揺れた。

「……やっぱり」

「反応するんだ」

「……どういう意味?」

ミルカは少し考えてから、小さく息を吐いた。

「ユノカ」

「その子のこと、どう思った?」

どう、と聞かれても困る。

今日初めて会った。

なのに。

「……放っておけない」

即答だった。

自分でも驚くくらい自然に言葉が出た。

「泣いてると、苦しくなる」

「守らなきゃって思う」

「……初対面なのに」

ミルカは、それを聞いて静かに笑った。

安心したみたいに。

「……そっか」

「じゃあ、まだ終わってない」

「……え?」

その瞬間。

湖面に、波紋が走った。

一つ。

二つ。

三つ。

そして。

水面の奥に、“白い羽根”が落ちる。

ミルカの表情が変わった。

「……来た」

空気が、冷える。

満月の光が、わずかに歪む。

「ユノカ」

ミルカが、真剣な声で言った。

「次から、“向こう”も動き始める」

「……向こう?」

「天使」

その単語を聞いた瞬間。

ユノカの胸の奥で、何かがざわついた。

嫌悪感。

恐怖。

怒り。

説明できない感情が、一気に溢れる。

「……っ」

ミルカは、そんなユノカを見て静かに呟く。

「……身体は覚えてる」

「何回殺されても、何回失っても」

「魂だけは、忘れてない」

風が吹く。

満月の夜。

世界が、ゆっくり動き始める。

そして。

遠く、空の向こうで。

誰かが、ユノカを見つめていた。

🌙

つづく

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