魔法少女エターナルリンク第26話 総力戦 前編
🩸第百九十五章《ヴァルティア》
戦場へ、亀裂の音が響く。
ヴァルティアの笑みが消えた。
「……本当に、壊したんだ」
サクラが問いかける。
「ヴァルティア。
あなたは、何者?」
彼は、静かに目を閉じた。
闇が像を映す。
研究室。
焼けた都市。
血の海。
震える少年の声。
――誰かを救いたい。
――普通の未来を、戻したい。
ヴァルティアの声が、
淡く震えた。
「私は、ただの“魔術師の失敗作”。
天才と呼ばれた師がね――
世界を救うために、
感情を捨てた人間を作った」
サクラは、息を呑む。
「……だから、心が無い……?」
彼は苦笑する。
「感情は残ったよ。
ただ、“痛みが増えただけ”」
世界を守るため。
人類を最適化するため。
けれど結果は。
実験死。
戦争。
破滅。
「ならせめて、作り直そうと思った。
“感情のない世界”を」
カレンは、低く言う。
「だから、人を捨て駒に」
「違うよ。
人は、痛まないほうがいい」
彼の笑顔は――
子供のように歪んでいた。
🔥第百九十六章《総力戦、開幕》
結界が崩れはじめる。
闇が暴走。
空間が裂け――
巨大な魔核が姿を現した。
サクラが叫ぶ。
「これが本体!」
ヴァルティアが指を鳴らす。
「なら、全力で守るだけだ」
黒い軍勢が現れる。
何百。
何千。
ユノカとセナが戻る。
「間に合った!」
ユノカの鈴が鳴る。
結界を鎮め、
闇の暴走を押し返す。
エリナが魔導書を展開。
「援護します!」
リズの光が重なる。
「前へ――行って!!」
サクラは剣を構え。
カレンは刃を交差。
ユノカは鈴を掲げる。
セナは震えながら前を見た。
「終わらせよう」
ヴァルティアは、静かに呟く。
「さあ――選んでみせて。
“誰が、最後まで立っているか”」
光と闇が――衝突した。
🌸第百九十七章《私は――逃げない》
爆音と光の奔流が戦場を覆う。
結界は崩れ、
闇の魔獣が各地で暴れ回る。
その中心。
サクラは、ただまっすぐ――
ヴァルティアへ歩いていった。
カレンが呼び止める。
「サクラ! 前に出すぎだ!」
でも、サクラは振り返らない。
「ここは、私が行く」
ヴァルティアは静かに微笑んだ。
「勇気、というのかな。
それとも――無謀?」
サクラは剣を構え、深く息を吸う。
胸の奥にある、無数の傷。
大切な人たちの叫び。
守れなかった夜。
でも。
(もう――誰も奪わせない)
「私は、人を救いたいだけ。
あなたみたいに“世界”なんて背負えない」
ヴァルティアの瞳が揺れた。
「それでは、間に合わない。
“部分”を救っても、必ず別の場所が壊れる」
闇が渦巻く。
サクラは笑う。
「それでいいよ」
ヴァルティアは、きょとんとする。
「……いい?」
サクラは剣先を下げた。
「全部救えないなら――
今、目の前の人を救う」
風が止まる。
魔獣の咆哮さえ遠のいた。
ヴァルティアは、ゆっくりと首を振る。
「優しいね。
でも、優しさは刃物だ。
君は必ず、誰かを見殺しにする」
「それでも」
サクラは剣を構え直し、
瞳をまっすぐ向けた。
「私は、逃げない」
その瞬間――
ヴァルティアの手が、静かに上がる。
黒い陣が展開し、
大地が裂け、闇の柱が噴き上がる。
「なら、証明してみせて。
“優しさ”で、私を止められるのか」
サクラは踏み込む。
足場が砕け、
空中へ投げ出される。
しかし――
「《光の踏み石》!」
彼女は空に足場を作り、
落ちる勢いをそのまま――跳ぶ。
ヴァルティアの目の前へ。
「速い」
ヴァルティアの腕が、
刃のように変形し振り下ろされる。
金属音が響く。
サクラの剣が受け止めていた。
衝撃が腕に走る。
肺が焼け、骨が軋む。
それでも――押し返す。
「ッ……!」
火花が散り、
二人の力が拮抗する。
ヴァルティアは呟く。
「どうして、そんなに折れない」
サクラも言い返す。
「どうして、そんなに諦めるの?」
言葉が、剣より鋭くぶつかる。
ヴァルティアの目が、
わずかに揺れた。
「諦めたわけじゃない。
ただ、“痛みがない方がいい”と――」
サクラは叫ぶ。
「痛いから生きてるんだよ!」
振動が走る。
サクラの剣が、闇の刃を弾き飛ばした。
ヴァルティアが後退する。
サクラは追う。
「傷つくのは怖い!
でも、それでも手を伸ばす」
一歩ごとに、光が溢れる。
「誰かの涙を見て、
何も感じない世界なんて――」
剣を振り下ろす。
「生きてるって言わない!」
光が、闇を裂いた。
ヴァルティアの胸元へ――
白い傷が走る。
彼は、目を見開いた。
静かに、自分の胸へ触れる。
「……痛い」
サクラは息を切らしながら言う。
「それが――あなたが、まだ“人間”って証拠」
ヴァルティアは微笑む。
悲しく、優しく。
「君は、残酷だね」
そして――
闇が、さらに膨れ上がる。
「だから、もっと深く見せてあげる。
“私が見た地獄”を」
世界が――反転した。
🌑第百九十八章《閉ざされた夢の底で》
視界が――崩れた。
足場が消える。
空も、大地も、音も。
サクラは闇へ落ちていく。
(ここ……どこ……?)
次の瞬間。
コツ――。
足が、確かに地面を踏んだ。
見上げると――
そこは、壊れた都市だった。
空は灰。
建物は焼け、黒く歪み。
風は、血と鉄の匂い。
誰かの泣き声が、遠くで響く。
サクラは息を呑む。
(これ……)
背後から声。
「懐かしいだろう?」
振り返ると、
まだ幼いヴァルティアが立っていた。
痩せて、震え、
腕には包帯。
その目だけが――大人のように冷たい。
「ここが、私の世界の“終わり”」
景色が流れる。
研究施設。
白い壁。
冷たいベッド。
涙で濡れた子供たち。
名前を呼び合うことさえ許されず。
その中で、
ヴァルティアは笑っていた。
「大丈夫。
ぼくたちは選ばれた。
世界を救う役目だから」
しかし。
数日後――
誰かが、
静かに消えた。
さらに一人。
また一人。
サクラは胸が締め付けられた。
(これ……全部、実験……)
ヴァルティアの声が淡々と重なる。
「感情を捨てれば、
痛みは消える。
だから、正しい」
映像が変わる。
戦争。
都市の崩壊。
魔術師同士の殺し合い。
瓦礫の下で泣く少女。
助けられない。
助けようとすれば、
別の誰かが死ぬ。
(どこを救っても、他が壊れる……)
そして――
師と呼んでいた男が、微笑みながら言った。
——最後の実験だ。
——お前の心を、全部削る。
幼いヴァルティアは、
何も言わず、ベッドへ横たわった。
手術台の冷たさが、骨に染みる。
心臓の鼓動が遠のく。
大切だったはずの笑顔も、
名前も、
温もりも――
薄れていく。
サクラは、思わず叫んだ。
「やめて!!」
しかし、その声は届かない。
手術は終わった。
目を開けた少年は――
もう、泣けなかった。
何が正しいかだけを考え、
誰も恨まず、
ただ世界を最適化する機械になった。
だけど。
ある日、
死にかけた少女を抱えたとき――
胸が、痛んだ。
――救えなかった。
それでも、
別の場所で百人が助かる選択をしたから。
正しい。
間違っていない。
なのに。
痛い。
痛い。
痛い。
(感情が――消えてない……)
ヴァルティアの声が震える。
「だから、壊したかった。
“痛みを感じる世界”そのものを」
闇が世界を覆い――
サクラの足元まで迫る。
サクラは拳を握った。
「……つらかったね」
静かな声。
責めない。
否定しない。
ヴァルティアは目を見開く。
(どうして……責めない)
サクラは前へ進む。
「あなたは、間違えた。
だけど、理由は――私、分かる」
ヴァルティアの胸に
ひびのような光が走る。
サクラは、手を伸ばした。
「あなたは、“誰かを守りたかった”」
その言葉が落ちた瞬間。
闇が――揺らぐ。
ヴァルティアの声が、
かすれる。
「それでも、私は――」
サクラは首を振る。
「救えなかった痛みは、
消せないよ」
呼吸一つ。
でも。
「だからこそ、
これから救えばいい」
静かな光が、
闇の都市へ広がり始めた。
子供たちの泣き声が、
少しずつ遠ざかる。
灰色だった空に、
淡い色が戻り始める。
ヴァルティアの姿が揺れ――
視線が、サクラへ。
(本当に、それでいいのか?)
問い。
サクラは笑う。
「うん。
私は、その未来を選ぶ」
光が――溢れた。
精神世界が、砕け散る。
