魔法少女エターナルリンクre:Link第19話 『半分この夜』
満月の光が、湖面へ静かに降り注いでいた。
銀色の世界。
風は穏やかで。
水面は静かで。
まるで、この場所だけ時間から切り離されているみたいだった。
「……ただいま、ユノカ」
ミルカが、少し照れたように笑う。
その姿は、さっきまでよりずっと“存在感”を持っていた。
透けかけていた身体は、もうほとんど実体化している。
黒髪。
赤い瞳。
夜そのものみたいな少女。
その姿を見ているだけで、ユノカの胸の奥が妙に温かくなる。
「……ほんとに戻ってきたみたい」
ユノカが小さく呟く。
ミルカは少しだけ困ったように笑った。
「まだ完全じゃないけどね」
「でも、前よりずっとマシ」
そう言いながら、自分の手を見る。
指先。
輪郭。
確かに、“触れられる”存在へ近づいていた。
風が吹く。
湖面が揺れる。
その時。
ユノカの身体が、ふらりと揺れた。
「……っ」
急激な脱力感。
視界が少し霞む。
ミルカがすぐ支える。
「ユノカ!?」
「……だ、大丈夫」
そう言ったものの、声に力がない。
血を分けた影響だ。
身体の奥から、熱が抜けていくような感覚。
ミルカはそんなユノカを見て、小さく眉を寄せた。
「……ごめん」
「ちょっと貰いすぎたかも」
「……別に」
ユノカは苦笑する。
「そんな苦しくないし」
嘘だった。
少し苦しい。
でも。
嫌じゃない。
むしろ、不思議と安心している自分がいた。
「……変なの」
ぽつりと呟く。
ミルカが首を傾げた。
「何が?」
「ミルカに血吸われるの」
ユノカは、水面へ映る月を見る。
「なんか、“戻ってきた”感じする」
その言葉に。
ミルカの赤い瞳が、少し揺れた。
嬉しそうで。
でも。
泣きそうにも見える。
「……そっか」
小さく笑う。
その時だった。
湖面へ、大きな波紋が広がる。
ざわり。
夜の空気が揺れる。
ユノカの胸元の鈴が鳴った。
――チリン。
ミルカの表情が変わる。
「……来る」
「え?」
次の瞬間。
空の上。
満月の光の中へ、“白い羽根”が舞った。
空気が、一気に冷える。
感情のない気配。
まるで。
“世界そのもの”がこちらを見ているみたいな圧力。
ユノカの胸がざわつく。
知らない。
でも。
身体が知っている。
これは——敵だ。
「……っ」
頭の奥で、断片的な記憶が弾ける。
白い翼。
崩壊した世界。
絶望。
そして。
“奪われる感覚”。
ミルカが、ユノカの前へ立った。
赤い瞳が鋭く細められる。
その姿は、さっきまでの柔らかい雰囲気とは違った。
まるで。
“夜の王”みたいな気配。
「……まだ干渉してくるんだ」
低い声。
その瞬間。
空の向こうで、“何か”が囁いた。
『異常因子を確認』
『吸血種因子、再接続』
『対象:ユノカ=シオン』
『対象:ミルカ』
感情のない声。
世界の外側から響くみたいな音。
ユノカの身体が強張る。
だが。
ミルカは、静かに笑った。
「……ふーん」
その笑みは、どこか挑発的だった。
「じゃあ今回は、ちゃんと奪い返してみなよ」
瞬間。
黒い魔力が溢れた。
湖面が激しく揺れる。
ユノカの瞳が大きく揺れる。
ミルカの背後。
そこへ、一対の巨大な“黒い翼”が広がっていた。
月を覆うほどの、夜色の翼。
その光景を見た瞬間。
ユノカの胸の奥で、“何か”が共鳴する。
ドクン。
鼓動。
熱。
血。
そして。
“夜”。
「……っ」
次の瞬間。
ユノカの背にも、同じ黒い翼が浮かび上がった。
精神世界全体が震える。
白と黒。
光と夜。
二つの力が、ゆっくり重なっていく。
ミルカが振り返る。
赤い瞳。
その奥には、確かな覚悟が宿っていた。
「ユノカ」
静かな声。
でも。
優しかった。
「少しだけ」
「今夜だけ、半分こね」
その瞬間。
ミルカの身体が、黒い粒子となってユノカへ溶け込んでいく。
夜が混ざる。
熱が流れ込む。
鼓動が重なる。
ユノカの意識が、大きく揺れた。
そして。
湖面へ映る姿が、ゆっくり変わっていく。
白髪の中へ混ざる黒。
オッドアイが、深く赤く染まる。
背後に広がる、巨大な黒翼。
それは。
“魔法少女”でも。
“吸血鬼”でもない。
——二つが重なった存在。
満月の下。
第二の覚醒が、静かに始まっていた。
🌙
つづく
