魔法少女エターナルリンクre:Link第31話 『白の口づけ』
放課後。
夕暮れが、校舎を赤く染め始めていた。
窓ガラスへ反射する橙色の光。
部活動へ向かう生徒たちの声。
吹奏楽部の音が遠くから微かに聞こえてくる。
そんな、どこにでもある放課後。
けれど。
ユノカ=シオンの胸の奥は、ずっと落ち着かなかった。
“視線”を感じる。
静かで。
冷たくて。
それなのに、どこか熱を持った視線。
(……来る)
頭の奥で、ミルカが小さく呟く。
ユノカは、歩きながら小さく息を吐いた。
隣ではセナが静かに歩いている。
黒髪ショート。
変わらない無表情。
けれど。
妹はかなり鋭い。
だからこそ、余計な心配をさせたくなかった。
「……セナ」
「なに」
「先、弓道場行ってて」
その瞬間。
セナの足が止まる。
黒い瞳が、静かにこちらを見た。
「……何かある?」
短い問い。
でも。
その奥には、確かな警戒があった。
ユノカは少しだけ笑う。
「ちょっとだけ寄り道」
「嘘」
即答だった。
「姉さん、嘘下手」
「う」
反論できない。
だが。
次の瞬間。
セナの視線が、廊下の奥へ向く。
そこには——
金髪。
長い髪。
碧眼。
静かに立つ、アリア=ルクスリア。
空気が、一瞬だけ止まった。
セナの目が細くなる。
「……転校生」
アリアは、小さく頭を下げた。
「こんにちは」
柔らかな声。
完璧な礼儀。
けれど。
どこか機械的。
セナは数秒だけアリアを見つめる。
そのあと。
小さく息を吐いた。
「……五分」
「え?」
「五分だけ待つ」
ユノカが目を瞬かせる。
セナは静かに続けた。
「戻ってこなかったら探す」
その言葉だけで。
胸の奥が少し温かくなる。
「……ありがと」
「別に」
セナはそう言いながらも、最後にもう一度アリアを見た。
その視線は鋭い。
まるで。
“敵かどうか”を見極めるみたいに。
やがて。
セナは弓道場の方へ歩いていった。
夕陽が、廊下へ長い影を落とす。
静寂。
残されたのは、ユノカとアリアだけ。
「……何?」
ユノカが先に口を開く。
すると。
アリアは静かにユノカを見つめた。
碧眼。
その奥が、ほんの少しだけ揺れている。
「……確認したいことがあります」
「確認?」
「はい」
アリアは、一歩近づく。
ユノカの胸が、小さく脈打った。
近い。
甘い匂い。
冷たい空気。
人間っぽいのに、人間じゃない。
そんな違和感。
「あなたを見ていると」
アリアが、小さく呟く。
「処理エラーが発生します」
また、その言葉。
ユノカは小さく眉を寄せた。
「……それ、どういう意味」
アリアは数秒黙る。
まるで。
言葉を探しているみたいに。
やがて。
「……胸が苦しい」
静かな声。
夕陽が、金髪を赤く染める。
「思考が乱れます」
「あなたが他者と接触すると、不快感が発生します」
「特に——」
碧眼が、微かに揺れる。
「サクラ=ミラージュと接触している時」
その瞬間。
ユノカの背筋へ冷たいものが走る。
ミルカが低く呟いた。
(……嫉妬)
『え』
(完全に感情だよ、それ)
ユノカの胸がざわつく。
アリアは、本当に分からないみたいだった。
困ったように、自分の胸元へ触れている。
「理解不能です」
「私は観測個体です」
「なのに」
夕陽の中。
碧眼が真っ直ぐユノカを見る。
「あなたを見ると、正常でいられない」
その声は、どこか苦しそうだった。
その瞬間。
ユノカの胸が、少しだけ締め付けられる。
敵。
危険。
そう分かっているのに。
“苦しんでいる”のが伝わってしまった。
その時だった。
アリアが、静かに一歩近づく。
距離が近い。
ユノカの鼓動が速くなる。
「……え、ちょ」
思わず後ろへ下がりかける。
だが。
アリアの手が、そっとユノカの袖を掴んだ。
「……一つだけ」
小さな声。
碧眼が、真っ直ぐ揺れる。
「確認させてください」
次の瞬間。
アリアの顔が近づいた。
「——っ」
思考が止まる。
そして。
柔らかな感触が、唇へ触れた。
——キスだった。
夕暮れの廊下。
時間が、止まる。
アリアの唇は冷たかった。
でも。
微かに震えていた。
数秒。
本当に、短い接触。
やがて。
アリアはゆっくり離れる。
碧眼が、大きく揺れていた。
「……ぁ」
初めて。
アリアの表情へ、“動揺”が浮かぶ。
胸元を押さえる。
呼吸が乱れている。
「……なんで」
小さな声。
まるで。
“知らない感情”へ飲み込まれているみたいだった。
そして。
アリアは、呆然としたまま呟く。
「……温かい」
夕陽が、二人を赤く染める。
その瞬間。
頭の奥で、ミルカが静かに笑った。
(……完全に恋落ちしたね、あれ)
ユノカの顔が、一気に赤くなった。
「——っ!?!?」
放課後の廊下で。
“白”は、初めて感情へ触れていた。
🌸
つづく
