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BLドラマ「あなたを殺す旅」感想 -エンタメの裏に織られた緻密で繊細な演技

「あなたを殺す旅」が、ちょうど本日(1/13 24:30~)フジテレビ(関東ローカル)で地上波放映される。この作品、ドラマとしてコンパクトながらとても魅力の詰まった作品で、個人的には「BLドラマを初めて見る人にお勧めしてもいいかもしれない」と思っていたので、かなり嬉しい。せっかくなのでネタバレなしの感想を書きたいと思う。

以下、公式のあらすじを引用する。

情に厚く侠気もあり、多くの組員から愛される若頭の片岡(和田雅成)。しかし、とある騒動をきっかけに、組長の実子・桐井(遊屋慎太郎)の命令で、ほとぼりが冷めるまで行方をくらます旅に出ることに。そんな片岡の世話役を任されたのは、かつて組長の付き人をしていた組員・小田島(髙橋大翔)だった。運転手兼付き人、時には性欲処理までする便利な世話係として淡々と役目をこなしていく小田島。だが、その胸中には“裏の使命”があった――。小田島は、桐井から跡目争いに邪魔な片岡を「殺せ」と厳命されていたのだ。7年前の抗争で起きたある事件を境に、片岡に対して強い憎しみを抱く小田島は、使命と復讐心を胸に、片岡と旅に出る。
2人きりの旅の道中、義理人情に厚く出会った誰もが好きになる片岡の人間的な魅力に惹かれていく小田島。一方片岡も、普段は寡黙で淡々としている小田島が見せる意外な一面に興味をもち、だんだんと二人の距離は近づいてゆく。
過去、使命、そして愛情。不器用に揺れる感情に苦しむ小田島が出した答えとは―――。
旅の果てに、待ち受けるのは――死か、それとも愛か。憎しみと愛情が交錯する、危うく切ない任侠ラブストーリー。

https://www.fujitv.co.jp/drama_anakoro/

任侠物BLは一定層のファンがいるジャンルで、私もそのうちの一人だ。しかしこのジャンルは組織の攻防や内部対立、裏切りや駆け引きなど、複雑な人間模様と感情の交差を描く必要があるため、作り手のハードルが高い。中途半端な描写では大人の小競り合いで終わってしまうし、派手に描こうとすると大河ドラマ並みのボリュームになる。素人が趣味で書けるジャンルではない。
この「あなたを殺す旅」は、任侠物として必要最低限の要素を要所要所に置き、あとは見る者の想像に任せるという脚本でとてもすっきりとした構成になっている。25分×6エピソードという限られた枠のなかで、任侠の世界をベースとしながら愛憎劇を描いた、非常にコンパクトでスマートな作品だと思う。私が「人に勧められるドラマ」と感じたのは、その点が理由だ。

BL好きで視聴しようとしている方へ、一つだけ注意点がある。
「合意のない・愛のない性行為が無理な人はやめておいた方がいい」。
任侠物に慣れている人はわかると思うが、そういう描写が何度かある。ただ、痛い・苦しいシーンはないので安心してほしい。しかもそうした描写に耐えられるかどうかが、1話の開始1分で判断できる。どうか1分だけ、このドラマを見てみてほしい。大丈夫そうだったら、あとはご褒美しかない。

まずこの作品で最も素晴らしいのは、なによりキャスティングだ。公式サイトのビジュアルを見ればわかると思うが、主人公二人のキャストがとんでもなくハマっている。私は原作は未履修なのだが、少なくともこのドラマ版の脚本からは、これ以上ないレベルにフィットしたキャスティングだと思う。

若頭の片岡を演じる和田雅成さんは、そのお顔の作りをフルに活かして片岡のぶっ飛んだ性格を演じきっている。獲物を捕らえようとするような視線を張り巡らせる色素の薄い瞳、舌なめずりをするようにニヤニヤと笑う大きな口。この表情で、ちゃらんぽらんな態度、立場を利用するときの狡猾で獰猛な動作、腹を括ったときの静かで凛とした佇まい、楽観的な屈託のない笑顔、そして真剣でやさしさを湛えた聞き手の視線、すべてのシーンであらゆる感情を表現している。片岡という役を表情でコントロールしていると言ってもいいくらいの見事な演技だった。
あと、本作のために体作りもされていたようで、絶妙に程よくついた筋肉がエロくてよかった。役者さんてすごい。がっつり悪役の和田さんとか、狂った和田さんとか見たい。

対する小田島役の髙橋大翔さんも、寡黙ながら強烈な色気を醸す組員としての演技を、非常に慎重に丁寧に、かつ自然に演じている。黒髪短髪で無表情、常に凛とした佇まいでいながら、なぜかものすごくエロい。武器としてのエロさでも、隙のあるエロさでもなく、ただそこにいるだけでエロスが香ってくるような、そんな雰囲気を「立っているだけで」演じている。これにはもちろんご本人の美しさも一役買っていると思うが、前述したように、非常に慎重に丁寧に、小田島というキャラクターの魅力を研究した結果であるように思う。心の内にひそむ諦念や復讐心、慈愛、恐怖、それらすべてを無表情の中に隠しながら、ある意味無表情を演じ分けている。
オフショットなどを見るとものすごく饒舌な方でびっくりした。自我ってあんなに抑えられるんだ。役者さんってすごい。

小田島の無表情の裏にある感情を暴こうとする片岡、それをひたすらに躱しながら自分の感情と戦う小田島、この二人が静かに摩擦を起こしながら、やがて互いの距離を縮めていくのが、この作品のストーリーだ。

あらすじや前述したキャラクターの特徴からわかると思うが、恋心を自覚してその思いを打ち明けて結ばれる、という普通の「恋愛」はこの物語では描かれない。彼らがどの時点から相手にそんな感情を抱き始めたのかも、はっきりとしない。ただ静かな旅の途中で起こる出来事を通して、ゆっくりと意識の変化が匂わされる。ある意味それをじっくりと観察し、想像を巡らせるのがこのドラマの醍醐味であるとも言える。片岡の狂気めいた行動と、小田島の無表情の下で渦巻いている感情を完全に読み取るのは難しい。そして彼らの感情が明確に変化し発露するシーンは、いつも銃声と流血とともにある。

主人公二人の関係の変化を楽しむのがメインの物語にはなるが、その背景には任侠物ならではの「家族」というテーマが横たわっている。組長の実の子供である桐井は、実子ではない片岡ばかりが父親の愛情を受けていると幼いころから激しく嫉妬し、実際に与えられた愛情に対しては盲目になっている。小田島は実の家族にまつわる悲惨な経験をしており、それが原因で居場所としての「家族」に執着するあまり、激しい復讐心に束縛されることになる。「家族」に縛られて盲目になっていた彼らは、物語の終盤でそれぞれ裁きを受けることになる。それが罰になるのか救いになるのか、この点も物語に厚みを出すテーマになっている。

ここまで書いたとおり、「あなたを殺す旅」は、エンターテインメント作品でありながら、繊細な感情や表情の機微を描いた作品でもあり、「人に薦めたい作品」とは言ったが、薦め方が非常に難しい。だからこそ、今回の地上波放送を機に、いろいろな方の感想や考察を伺ってみたいと思っている。

それから忘れてはいけないのが、何より主題歌の「徒然 - Tsurezure」(山本大斗さん)で始まるオープニングがとても良い。海辺の旅を思わせるさわやかなイントロと良い意味で癖のないボーカルが物語の邪魔をせずうまく溶け込んでいて、最近のドラマの中で最高レベルに良い主題歌だった。

ところで、一点だけどうしてもこのドラマに物申したいことがある。「あなたを殺す旅」、タイトルは本当にあらすじそのままなので全然かまわないのだが、「アナコロ」という略し方だけはやめたほうがよかった。絶対やめるべきだった。なんかほかにあるじゃん。「コロ旅」とか。「アナ」は入れない方がいいんだって。BLドラマなんだから。
とりあえず放映までに書き終えられてよかった。ぜひ色々な方に見ていただきたい。


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