彩りと心のしわあわせ【第3話】祖母が守ってきたもの
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【第3話】祖母が守ってきたもの
次の日。
珍しく、アラームが鳴るよりも早くに目が覚めた。
時間がある日は、ゆっくり朝食を食べるようにしている。
食後に、コーヒーを淹れる。お気に入りのカップに注いだコーヒーの香りが、6畳の作業部屋に満ち溢れた。
そんな些細なことで、幸せに感じられる。
今日のわたしは、調子がいいみたいだ。
「さて、そろそろ出かけようかな。」
手帳をカバンに入れて、家を出た。
梅雨入り直前の晴れ間。
天気が良く、歩いていると、汗ばむくらいだ。
彩芽と約束していた時間の5分前に、祖母の店に到着した。
「いらっしゃいませ〜。って、心和じゃないか!彩芽に続いて心和も来るなんて。言ってくれたらよかったのに。」
どうやら、おばあちゃんは何も聞いていないようだ。ここは適当に話を合わせておこう。
「あーちゃんとお休み合ったからさ、久しぶりに来たよ〜!おばあちゃん、いつものちょうだい。」
「まったく、あんたたちは。はいはい、アイスココアね。ちょっと待ってて。」
おばあちゃんのお店に来ると頼むお決まりのアイスココア。
しっかり覚えてくれていて、顔がほころぶ。
既に、彩芽は到着していて、手招きされた。
「あーちゃん。おばあちゃんになんにも話してないの?」
席につくなり、声をかける。
「まだ黙っておこうかな〜、と思って。だって、孫が来るって思うと、お店クローズにしちゃうもん。それじゃあ、意味がないから。」
その返答を聞き、今日は、目的があって呼び出されたことを知る。
そして、彩芽は、小声でこう続けた。
「今日来ているお客さん、長くおばあちゃんが付き合っている、常連さんばかりだから。少し様子見ておいてくれない?詳しくは、あとで話すから。」
「???とりあえず、わかった。」
おばあちゃんが、おしぼりと飲み物を持って、こちらに向かってくる。
「さっきから、何コソコソ話してるんだい?はい、アイスココアね。お昼食べていくかい?お客さんの分出し終わった後なら、準備できるよ。」
姉妹で目を合わせた後に、彩芽が答えた。
「うん、お願いします!ゆっくりでいいよ〜。」
「はいよ〜」
おばあちゃんは、嬉しそうに厨房に戻っていった。
今日のランチは、なんだろうなあ〜。
いつも来る時は、だいたいどこかに行くついでに寄るから、飲み物だけになることが多かった。
おばあちゃんの作るランチを食べるのは、久しぶりだ。
わたしは、ランチが楽しみで仕方なかったが、彩芽は、少しでもおばあちゃんから怪しまれずにお店に長く居るための手段として頼んだのは、明白だった。
両親とおばあちゃんが一緒に住んでいる実家からほど近く。
庭付きのコテージのような物件で、カフェを営んでいるおばあちゃん。
もともと、おじいちゃんと一緒にやっていた喫茶店だったのだが、おじいちゃんは、今から5年前に亡くなってしまった。
そこから、おばあちゃんがひとりで、お店を切り盛りしている。
おばあちゃんの趣味は、ガーデニング。
朝早く起きて、お店に来て、庭の手入れから仕事は始まっている。今は、バラが見頃だ。もう少しで紫陽花もきれいに咲く頃だろう。
花がきれいな道に誘導されるがまま歩いていくと、お店の入口が見えてくる。
お店に入ると、ドアについているベルが、カランコロンと鳴る。わたしは、この音がやわらかくて、好きだった。
席数は、カウンター席が5席、テーブル席が6つあり、合計すると、20人ほどが座れる。
満席になることは、ほとんどないが、かといって人がまったく入らないというわけではなく、営業時間内は誰かしらお客さんがいる。
奥には、ついたてで仕切られている席がある。
おばあちゃんと過ごせる特典メニューご注文の方のための席だ。
この日、来ていたお客さんは、わたしたち姉妹の他に、3組いた。
おひとり様、親子、老夫婦の合計5人。
彩芽の話では、みんな常連さんらしい。
話は、後から聞くとして、怪しまれない程度に観察していく。
1番入口から近いテーブル席に座っているのは、老夫婦である。おばあちゃんの同年代くらいに見える。どこかで見たことのある方たちだけど、会ったことがあるのだろうか?夫婦仲睦まじく会話していて、羨ましい。
一番奥のテーブル席に座っている親子。
読書しているママと、お絵描きしているのは、小学校低学年くらいの男の子かな。
わたしが到着する、少し前に来店されたみたい。
ママはコーヒーとランチプレート、男の子は、オレンジジュースとお子様用のランチプレートを注文していた。
メニュー表には、お子様用のプレートは載っていないようだ。この親子に特別提供しているのか、もともとあるのかは、わからない。
提供するなら、メニューに書けばいいのになあ…と、思ったりする。
そして、カウンター席の奥に座っているのが、独特な雰囲気をもつ、40代くらいの女性。
何を話すわけではなく、ぼーっとしながらコーヒーを飲んでいる。
服装は、きれいとは言い難いが、そこまで汚いわけでもない。どことなく、気力のなさを感じる。
わたしの仕事柄なのか、この方の持つ雰囲気がそうさせるのか。この店の中では、一番気になる存在であることは、間違いなかった。
人間観察をしていると、あっという間にお昼時。
近くの事務所で働いている事務員さんらしき人がお弁当を複数個買っていった。
「おばあちゃん、弁当も販売してるんだ」
それにしても、いつの間に作っていたんだろう?
長年やってきているから、手慣れているんだなあ。
厨房から、いい香りが漂ってきた。
つい、お腹が鳴ってしまう。
どうやら、この日は、特別メニューを頼んだお客さんはいなかったらしい。
ランチの提供が落ち着いた時間は、もうすぐ13時を回ろうとしていた。
わたしたちのテーブルにも、ようやく食事が運ばれてきた。
この日は、おにぎり(鮭と五目おこわ)、新鮮なサラダに鶏の竜田揚げ、卵焼きにお味噌汁だった。
「うわあ~、美味しそうっ!」
姉妹揃って、思わず声が出た。
「いただきます。」
やっぱり、おばあちゃんの作るご飯は、美味しい。
以前レシピを教えてもらい、材料を揃えて作ってみたのだが、同じ味には到底思えなかった。何が違ったのだろう?と、今でも不思議に思う。
サラダのドレッシングも、毎回手づくりというこだわりようだ。
そう簡単に真似はできなさそうなお店のメニューである。
おばあちゃんのご飯に舌鼓を打っているうちに、店内のお客さんは、おひとり様だけになっていた。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか。」
彩芽の声を合図として、お支払いを済ませる。
「おばあちゃん、また来るね〜!」
カウンターに座っているの女性には、軽く会釈をしておいた。
花々が咲く道を通りながら、お店を後にする。
「心和、この後時間ある?相談したくてさ。家おいでよ」
「うん、いいよ〜。なにかお菓子買おうよ。律輝さん、家にいるんでしょ?」
「よくわかったね。今日は、お店休みだから、家にいるのよ。じゃあ、いつものケーキ屋さん寄って帰ろう。」
お気に入りのパティスリーに寄って、選りすぐりのケーキを3つ購入して、彩芽の家に向かった。
第4話へつづく
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