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彩りと心のしわあわせ【第7話】思いがけないお誘い

*この物語のはじめから読む*

第6話を読む*


【第7話】思いがけないお誘い



私は、このお店の常連客。ここでは、るいと名乗っている。誰よりも早くに、この店を訪れる。
よりさんの真似をして、庭の花々に水をやるのが日常なのだ。

このお店の職員さんには、内緒でやっていた。あくまでも、ボランティアでの朝活のつもりだった。

お水をあげているのは、知られているのか、知られていないのかもわからない。
でも、不法侵入で怒られていないから、知られていないのだろうと思う。


ここが、私にとって、唯一の居場所であってほしい。恩人に感謝を伝えたい。
その一心で続けていることなので、知られているかどうかということは、この際どちらでもよかった。


この喫茶と出会ってから、早15年が経過している。

当時は、まだご夫婦で経営されていたが、数年前に旦那さまが亡くなられてからは、奥さまお一人でやってこられた。

この頃から、わたしは、奥さまのことを「よりさん」と呼ぶようになり、親しく話すことができるようになった。

そんな恩人よりさんが、第一線を退かれて、1か月が経とうとしている。


よりさんがお店をやってくれた頃から、朝早くにお店に来て、お花と会話をしながら、よりさんと共に過ごす時間が好きだった。

その流れのままお店にいさせてもらったので、相当長い時間を過ごしてきたことになる。

よりさんが、お店に来られなくなってからも、この朝のルーティーンだけは続けていた。

週に2回ほど、朝から顔を出してくれるよりさんとお話する時間は、私にとって安らぎの時間だった。

お孫さんに引き継がれたこのお店は、私のいられる場所でなくなるかもしれないと思っていたが、変わらずに受け止めてくれた。
よりさんが何か言ってくれたのかもしれないが、本当に自然に関わってくれて、とても感謝している。

よりさんが出勤されない日の朝は、水やりを終えた後で一旦家に帰り、開店時間に合わせてもう一度来るようにしているのだが、今日に限っては、その予定が崩れてしまった。


「あ、おばちゃん!おはようございまーす!朝早いんだねぇ!水やりしてるの、エラーい!」


「こら、そうた!おばちゃんじゃないでしょ〜。」

「おはようございます。うちの子が、朝から失礼なことを言って、すみません。」


このお店によく顔を出している親子がやってきた。まだまだ開店しない時間だが、早く来てしまったみたい。

「いえ、そんな。そうたくんから見ると、わたしはだいぶおばちゃんですよ。おばあちゃんじゃないだけ、うれしいです。そうたくんも、朝早いねぇ!」

人見知りで、他人との会話が苦手だった私が、これだけ自然にお話できるようになったことには、自分でも驚いている。



この子が、この時期に朝早く来たいと思う理由については、なんとなく察しがつく。そして、もうそろそろ、会いたい方がいらっしゃる時間だ。


「一緒に水やりしよう」と声をかけ、水が少なくなり軽くなったじょうろをそうたくんに手渡した。
水やりをしながら、その時を待つ。


「あ、きたきた~!」


「おはようございます。ぼっちゃん、今日は、早いねえ」
芳賀の奥さんの方から、声をかけてくれている。

芳賀ご夫妻は、そうたくんのことを、ぼっちゃんと呼んでいた。

「おはようございまーす。ぼく、はがのおじいちゃんたちのお野菜が来るのを待ってたんだよぉ」


芳賀の旦那さんは、にこやかにこう返した。

「ぼっちゃんは、嬉しいことを言ってくれるねぇ。そうだ。明日、野菜をとりにに来るかい?きゅうりとトマトがたくさんできたし、トウモロコシも収穫できそうなんだよ」


「わ、行きたい!ねえママ、行ってもいい?」

「朝早いけど、起きられる?起きられるなら、行くことにしてもいいよ。」

「うん、起きる!楽しみだなあ!」


母子の会話から、明日は朝から収穫祭が行われるようだ。
芳賀夫妻とママが、早速明日の打ち合わせを始めている。


「ねぇねぇ。おばちゃんも一緒に行こうよ」

突然服を引っ張られて、驚いた。
声をかけられたのは、他でもない私だったらしい。

会話を聞くことに夢中で、近くに来ていたことにも気づかなかった。

とっさに、言葉を返した。

「え、私も行ってもいいのかな?」

「うん。だって、ぼく、おばちゃんと一緒に野菜とりたいな。ちょっとお願いしてくるね~!」

そう言って、走っていった。

次に私のもとに戻ってきた時には、満面の笑顔だったため、内容を聞かなくても、いい返事だったことがわかる。

「おばちゃんも一緒に行っていいって!明日、7時にここで集合ね~!」


庭の手入れを一通り終えた私は、話をしている三人のところに行き、持ち物を確認して、「よろしくお願いします」とだけ、ようやっと伝えられた。


誰かに、一緒に同じ場所へ行こうと誘ってもらえたのは、いつぶりだろうか・・・。
純粋なこどもから、誘ってもらえる日が来るなど、予想さえしていなかった。

私のことを、いつも来ているおばちゃんだな〜とを認識してもらえていただけでも、うれしい。



思いにふけていると、【喫茶 カラフル】のオーナー夫婦がやってきた。


「えぇっ、みんなもうお揃いで!?暑かったですよね。急いでお店開けるので、ちょっと待っててくださいね〜!」


みんな揃って、「大丈夫ですよ〜」と返事をするが、ふたりには、まるで聞こえていないようだ。

こうして焦らせてしまうから、この時間に、いつものメンバーが勢揃いをしていたくない、というのが私の本音である。

店の鍵を開けてすぐに、私たちを入れてくれた。

「お水しか出せないのですが…。もう少しお待ちになっててくださいね」

すでに、それぞれの定位置には、氷水が置かれていた。

まるで、我が家よりも、我が家だよなあ…。

この日は、よりさんも、いつも話しかけてくれる心和さんもいなかった。
にも関わらず、不思議と、気持ちが軽やかに感じられた。自分の思っている以上に、明日の朝が楽しみらしい。


昨日よりも念入りに掃除をして、自宅に帰った。




第8話へつづく

#創作大賞2024
#お仕事小説部門



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