見出し画像

4 使用人達の時間割り (3)

セル氏を乗せた車は運転手―ネルによって『美しヶ丘』に到着していた。

セル氏は毎日ではないが、ほぼ毎日に近い頻度であちこちに出掛けている。
屋敷から車で10分程の所に、小さな店ばかりが建ち並ぶこじんまりとした商店街がある。
セル氏が良く行くのは、本屋とCDショップ、それとカフェである。
1時間程居るくらいが、丁度好い気分転換になる為、ちょこちょこと出掛ける事となる。

そんな時は決まってネルの登場となるのであるが、いつ何時でも外出できる様にと、朝一番に洗車をしてスタンバイする事が日課となっている。

今日のような静養も兼ねたお出掛けの場合は、車の中で待機している時間が多くなるため、車のトランクの中には予め読みたい本を積んでいる。
セル氏はネルに、一度屋敷に戻っても大丈夫だといつも言うのだが、ネルはそれを好まない。
読書をしながらも、セル氏の様子を見ながら過ごす事は、その後の業務にもとても有効であることが充分判っているからである。
留守中のセル氏の様子を他の使用人達と共有する事が、仲間内でもとても重要視されていることは、言うまでもない。

セル氏の付き人であるイーリッヒは、セル氏とネルの間を行ったり来たりしながら、時間を過ごしている。
セル氏の付き人であるのだから、普通であればセル氏に張り付くようにして過ごしても良さそうなものだが、それはセル氏にとってはあまり好ましい状況とは言い難い。

基本的に一人で居る事が好きなセル氏にとっては、ストレスとなってしまうからだ。
それでは仕事に支障を来すので、なるべく控えてほしいと、担当編集者のマカトに強く言われているのだ。

この編集者―マカトこそ6人目の使用人といえる。
セル氏が作家として活動し始めた8年前から担当していて、締め切り間近になると屋根裏部屋のたった一つ空いた部屋に、泊まり込みで追い込みに入る。
追い込みというと聞こえは悪いが、あくまでも彼らしいやり方で、セル氏にストレスを掛けないようにしながら、締め切りに間に合わせてしまうのだから、その手腕足るや否や舌を巻くものがある。

そしてロダンはといえば、セル氏を送り出した後、サルーンを元通りに整え、パーラーに向かい食器を片付けると地下へと向かった。
地下では使用人ホールでバンサとポルカが何やら話していたが、そこには一切目もくれず、厨房にいたトンダに向かってそっと、

「やぁトンダ、お疲れ様、頼むね。」

と言うと、その足でサルーンへ戻りテーブルを拭き上げ、椅子の位置などを整えるのであった。

少し日が射し始めてきたようだ。


(4 使用人達の時間割り (4) へ続く)


いいなと思ったら応援しよう!