3 セル氏の朝食 (2)
駐車場では運転手―ネルがセル氏所有の車に念入りにワックスを掛けているところだった。
「やあネル、おはよう、今日のエンジンの調子はどうだい?」
「あぁ、おはよう、ご機嫌麗しゅうございますとも!君もだろ、ロダン」
ロダンは舌打ちしそうになるのをようやく抑えながら、
「そう上手くはいかないらしい、ここでようやくいつもの調子が戻ってきたようだが、今朝の目覚めの時は、久々に焦ったよ。」
ネルは軽快に動かしていた手を止めると、ロダンを見て言った。
「君が?驚いた!!そんな事があるんだな。
少なくとも僕がここでお世話になり始めてからは一度も見たことがない。
何ならそのお顔とやらを見てみたかったもんだな。」
ロダンは笑いながら頷き、
「あぁ、見せられるもんだったら見せたかったよ。
それよりも、今日はやはりデスクワークは全く無く、ドライブになりそうだから頼むよ。
行き先は『美しヶ丘』だろうが、まぁ2時間もあれば充分といったところだろう。
まだ少し冷えるからブランケットを後でミズリに頼んでおくよ」
「了解、あぁその調子なら大丈夫そうだ、今日も一日頼むよ。」
ネルはそう言いながら、ワックス掛けのスポンジからクロスに持ち替え、仕上げ作業へと移った。
ロダンはその足で1階裏口へと向かい、邸内に入ると玄関に向かった。
すると後ろから
「ロダンおはよう、今日は大変らしいわね、ポルカに今聞いたところよ、ふふっ」
歩を緩める事もなく、振り向きながらロダンは
「おぉミズリ、おはよう。今日も宜しく頼むよ。まったく皆して面白がってもらえて光栄だよ。
今日はセル氏はドライブのはずなんだ、あとでネルにブランケットを届けておいてくれないかい?」
言い終えると丁度、小走りしてきたミズリが隣に並んだ。
「わかったわ、玄関を整えたら届けておくわ。」
ロダンは
「助かるよ。」
と言いながら、昨日出して乾燥させておいた陶器の傘立てを移動させ、ミズリが玄関の三和土(たたき)の掃除がスムーズに進むような状態にして、その場を立ち去った。
次に向かったのは、このバーンズ邸の主人ーセル氏の寝室だった。
扉の前に立ち、息を整え、右手でベストの右ポケットの中の懐中時計にそっと触れると、扉を4回ノックした。
扉の向こうで声がした。
(3 セル氏の朝食 (3)へ続く)
※連載小説【インスピレーション ~ロダンのしつらえ~】は週3回(月・水・金)の投稿とさせていただいております。お付き合い頂けると幸いです。
