3 セル氏の朝食 (3)
「ロダンかい?おはよう、入って来てくれ」
「かしこまりました」
ノブをひねり、ドアを開けながら
「セル様、おはようございます」
と言い、深く頭を下げ
「ロダンでございます」
と言いながら顔を上げ、主人とアイコンタクトすると一息つき
「昨晩の眠りは如何でしたか?」
と言いながら、寝室の奥まで入って行き、手際よくカーテンを開け、タッセルで左右へ纏め上げた。
セル氏はまだパジャマ姿のままで微睡んでいた。
そしてポツリポツリと
「夕べはあまり良い眠りとは言い難いものだったな。」
と言っている。
ロダンはその様子を見ながら、クローゼットの扉を開け、ラフな軽めの薄紫色の春物セーターと細身の淡いグレーのパンツを取り出し、白い靴下と水色のハンカチをチョイスして、セル氏の前に置いた。
ロダンは続けて
「セル様今日は如何なさいますか?」
と言うと、セル氏も出された洋服に着替えながら、
「そうだなぁ~、朝食は軽くていいよ。
ちょっと寒いからミネストローネが飲めると良いんだが、
それとパンにソーセージが良いな。
あと、今日はとても仕事をする気にはなれない。オフにしてゆっくりしようと思うんだ。
はぁ、そうだなぁ、かと言って気分もリフレッシュしたいから、『美しヶ丘』辺りまで行って、のんびりしてくるよ。」
言い終えたセル氏は、着替えを済ませていた。
「かしこまりました。」
ロダンが答えると、セルは
「ちょっと書斎で新聞に目を通してからパーラーに行くよ。」
と言って、寝室を出て行った。
ロダンが厨房に行くと、食事の準備は整っていた。
「ポルカ、完璧だ。」
と言い置いてパーラーへ運び、テーブルにセッティングし終えたところへ、セル氏がやって来た。
丸い小さめのダイニングテーブルに、やや軽めの椅子が4個置いてある。そのうちの一つの椅子の後ろにロダンが立った。
流れるような所作でセル氏を椅子に座らせる。
こんな事は執事にとっては朝飯前だと笑われそうだが、ロダンはこの一瞬が堪らなく好きなのだ。
無事に席に着いた後、朝チョイスしておいたグラスに注いだ。
軽く一口飲んでセル氏が言った。
「気持ちが緩んで良いね、心地が良いよ。」
ロダンは静かに
「はい、それは何よりでございます。」
と返した。
続いてミネストローネを2口飲み、
「体の芯から温まるよ、実に贅沢だ。」
と頷き乍ら言っている。
パンをちぎりミネストローネに浸して食べたり、ソーセージに粒マスタードを付けて食べたりと、食事中のセル氏は実に満足気で、
ロダンは胸をなでおろすのだった。
(3 セル氏の朝食 (4) へ続く)
※【連載小説】『インスピレーション ~ロダンのしつらえ~』は週3回(月・水・金)の更新となっております。お付き合い頂けると幸いです。
