3 セル氏の朝食 (1)
足早に歩くロダンが向かった先は、地下にある厨房であった。そこでは調理師―ポルカが食材の下ごしらえを始めつつあった。
「ポルカすまん、昨日のオーダーにイタリアンも足しておいてくれないか」
ロダンは階段を降りる時間も惜しいように、早口でポルカに言うと
「おや珍しい、そんな事もあるもんなんだな」
ポルカがニヤリと笑いながら応えた。
ロダンは右手の掌を下にして上下させながら、息も絶え絶え
「まぁまぁ、許してくれよ、私もAIではないんだから、こんな事もあるさ」
ポルカは笑いながら冷蔵庫を覗き込み
「んまぁ、ズッキーニくらいか、バンサに頼むまでもないな、
ちょいと俺が採ってくればオッケーだ。
たまにはこんな事がないと、こっちとしても堪らんさ。
まるでAIと働いているように錯覚しちまいそうだからな。」
と言いながらドアを開けて階段を上がり1階の裏勝手口から出て行った。
「やれやれ」
ロダンは首を左右に振りながら奥の貯蔵庫へ行き、その更に奥のワインセラーの前に立った。
ひと通り目を通して、頭の中で2通りの飲み物を選んでインプットすると、その足でイーリッヒの部屋へと向かった。
イーリッヒは作家であるセル氏に憧れて、大学を中退して5年前から付き人をしている。
ロダンが部屋へ行くと彼はもう身支度を済ませようとしているところであった。
彼自身の決めたルーティン通りの事の進め方はきっちりとしたものであった。
そしてそれはロダンをとても助ける役割を担っていた。
イーリッヒはネクタイをククッと締めながら、ロダンの方に振り向くと
「やぁ、おはようロダン、今日の資料はどんなものだい?」
ロダンはここでやっと、ホッと一息つきながら
「君はパーフェクトな男だ、イーリッヒ!!
もう一人立ちをしても大丈夫なんじゃないかい?
まっ、それをセル氏が許せばの話だがね。
あぁそうだ、今日はおそらくデスクワークはされないと思うから、
ドライブ中に聴くCD。
ん~、そうだなぁ、行きはリストで良いだろう、
帰りはショパンのバラードになるだろうから、
あとは君に任せるよ、クリスタルボウルやヒーリング系のものが
2~3枚あれば充分だろう
それと、右の本棚の中段左にある、海や森林の風景写真集を
持って行ってくれるかい、眺めたくなられるかもしれないから。」
軽くメモを取りながら聞いていたイーリッヒは視線をロダンに戻し
「オッケー、右の中段左だね、今日も冴えてるねロダン
惚れ惚れするよ!」
ロダンはそれを聞くや否や右手を少し上げ、左右に振りながら
「いやいや、今日はそうも言ってられないらしい、
朝からてんてこ舞いさ。」
と言いながら、その場を離れ、駐車場へと向かっていた。
(3 セル氏の朝食 (2) へ続く)
※連載小説【インスピレーション ~ロダンのしつらえ~】は週3回(月・水・金)の投稿とさせていただいております。お付き合い頂けると幸いです。
