門脈診療録 episode3 | フェルミの夏の物語
イリアム西岸、ムチ横。
年に一度の夏祭りの日。
海辺では、夜の盆踊り大会に向けて準備が進んでいた。
屋台が並び、かまどからは香ばしいにおいが漂う。
「フェルミくん、わたあめ屋台できたか?」
「できました! 次はかき氷の看板ですね!」
「浴衣の貸し出しもまだだぞー!」
「はーい!!」
小さなビフィズス菌族の一人、フェルミは、
真面目な性格が災いして、あれもこれもと張り切りすぎていた。
普段は穏やかな腸内の気候も、今日ばかりは熱気がすごい。
フェルミは、汗だくになりながら走り回った。
やがて夜。
盆踊りが始まり、屋台も大にぎわい。
お囃子に合わせて、フェルミも仲間たちと輪に加わった。
だが――。
踊りの最中、フェルミの目の前が、ぐにゃりと歪んだ。
(あれ……?)
次の瞬間、フェルミは音もなく地面に崩れ落ちた。
──門脈診療所。
静かな診療所に、若い助手ヴェナが駆け込んできた。
「先生!! フェルミさんが倒れました!!」
「運び込んでこい。」
門脈は落ち着いて頷いた。
診察台に寝かされたフェルミは、顔色が悪く、意識もぼんやりしている。
門脈は脈をとり、皮膚の状態を見た。
「……これは、自律神経型頭痛だな。」
と、静かに言った。
ヴェナが息を飲む。
「自律神経……!」
門脈はうなずく。
「夏の高温、過緊張、脱水。
ビフィズス菌はもともと、暑さと酸素に弱い。
興奮しすぎたうえに、水分補給も忘れたんだろう。」
ヴェナはすぐに桶に水を張り、
エプサムソルト(硫酸マグネシウム)を一つまみ加えた。
フェルミの足をそっとつける。
「あったかい……」
フェルミがかすかに声を漏らす。
「いいか、フェルミ。」
門脈は静かに言った。
「このタイプの頭痛は、無理に動いたら悪化する。
身体を温め、血流を戻し、自然にリカバリーさせるしかない。
薬じゃない。回復は、体の底からだ。」
ヴェナはフェルミの額を拭きながら、うんうんと頷いている。
外では、祭りのクライマックス。
小さな打ち上げ花火が、海岸の空にポンポンと咲いていた。
診療所の窓からも、その光がちらりちらりと見える。
フェルミは目を細めた。
「……花火……」
「見えるよ。」
ヴェナがにっこり笑った。
「来年は、外で一緒に見ようね。」
フェルミは、もう一度だけ、うんと頷いた。
──それからしばらくして。
夜の帳が降りきった海岸で、祭りの最後の儀式が行われた。
今年作った「善玉菌の紋章」が、ラクト姐のかまどにくべられ、
パチパチと静かに燃えていった。
見上げる夜空には、ひときわ大きな花火がひらいていた。
【頭痛診療メモ|門脈診療所】
フェルミ|自律神経型頭痛
①分類
• 自律神経型頭痛(過緊張・脱水型)
②発生メカニズム
• 暑さ・脱水・緊張により交感神経過剰→血管収縮→脳血流不足→締めつけ型頭痛。
③対策
• 足湯、マグネシウム補給、リラックス入浴。
• 小まめな水分補給と深呼吸。
④発生しやすいシチュエーション
• 真夏の外出やイベントで水分を忘れた時。
• 緊張する本番(発表会や試験)後。
※この物語はフィクションです。
体内のしくみを楽しく想像するための創作であり、医学的事実とは異なる部分があります。
ご自身の健康については、医療専門家にご相談ください。
