しじゅうくにち旅物語
第七話 薬師如来(49日しじゅうくにち)
おん ころころ せんだりまとうぎ そわか
おん ころころ せんだりまとうぎ そわか
そう呟いて歩いていました。
呼びましたか?
そう聞こえたので振り向くとそこには光り輝く仏様が立っていました。
おぉーこれはこれは、初めてお目にかかります。
今日が最後の日ですね、貴方がこの世に来られてちょうど49日目です。
そうだったんですね、といいながら深々とお辞儀をしました。
私は薬師如来(やくしにょらい)と申します。
薬師如来さま、宜しくお願い致します。
立ってお顔をあげなさい。
はい、と言いながらすっくと立ち上がり薬師如来様の正面に立ちました。
良いお顔になられましたね。ここに来られた日とは別人のようです。
私をずっとみておられたのですか?
そうです、貴方が出会った御尊格様達も同様です。ここに連れて来られたのを嘆いてばかりの人も居れば、貴方のように教えを信じて歩いていかれる人もおられます。
そうだったんですね、でも誰ともすれ違ったりしなかったような気がしますが....
見えないのですよ、他の人は。皆全て暗い道をたった1人で歩いているのです。
そうだったんですね、誰かと一緒なら助け合って歩けたかもしれないとも思いますが...,
薬師如来さまはニッコリと笑い、そうですね、でもそれはその人の旅にはならないのです。自分がどう進むかはこの49日の間に誰の助けも借りずに自分で決めて歩んでいかねばならないのです。
そういうことだったのですね、何も知らずに申し訳ありません。
いえ、謝まる必要はありません。
貴方の慈悲の心が言わせた言葉だと思います。もう少し前に来なさい。
成仏とはどういう意味だと思いますか?
成仏、この世に未練を無くし空へと帰っていく魂のことですか?
成仏とは仏に成る、と書きます。文字通り貴方が言った通りこの世、人として生きていた世界から仏に成ることを言います。貴方が歩んで来たこの旅は人から魂となり仏道を歩んで行くための準備期間の49日だったのです。
なるほど....そういう期間だったのですね、そう言えばここに着いた時とは全く違う自分だと思います。自分の家族のことも忘れかけていたくらいです。
貴方はもう人が持つ煩悩をすべて断ち切り真理を求め、経を唱え、真言を唱えてここまで来たのですよ、薬師如来さまは微笑みながらそうおっしゃいました。
貴方の本当の修行はまだまだ続いていきますがもう貴方はその準備が出来ていますね、宜しいですか、貴方に最後の施しをいたしましょう。
恐る恐る前に出ながら、はい、宜しくお願いします。
そうすると薬師如来さまは左手に持っていた壺(薬壺やっこ)から右手で何かを摘むと旅人の頭から全身に何かを唱えながら振りかけました。
「この者の未だ微かに残る恐れ迷い穢れ煩悩全てを取り去り身体の悪しき部分を全て快癒せよ」
キラキラと輝く粉のようなものに包まれとても気分がより一層良くなり、身体の中が澄み切っていくのを感じました。
そうするとどうでしょう!ボンヤリとしか見えてなかった光が大きくなり暗かった道が照らされるようにハッキリと見えているではありませんか!
ビックリして何も言えなかったのですが、
あぁ、私はあの光の中へ入って行っても良いんですか?そう思わず尋ねていました。
もちろんです、入って行きなさい。
そして皆の仏様になれるよう精進してくださいね。
はい!皆のことを守れるような本当の仏様になれるように修行致します!
嬉しさと感動のあまり涙が出て止まりませんでした。
ありがとうございます。
ありがとうございます。
ありがとうございます。
旅人は薬師如来さまに深くお辞儀をし手を合わせて光の方へと進んで行きました。
おん あぼきゃ べいろしゃのまかぼだら まに はんどまじんばら はりばりたや うん
この御真言がずっと光の方から聞こえます。きっとあの旅人が唱えているにちがいありません。
