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線香花火

「線香花火ってさ」

「恋愛に似てるよね」

夏祭りの帰り道だった。

遠くでは、まだ祭りの音が聞こえている。

「どこが?」

僕は線香花火を見つめながら聞いた。

「最初は派手じゃない?」

彼女は笑った。

「でも最後の方が綺麗」

火花の玉が、小さく揺れていた。

「なんか味気ないなあ」

「最後には消えちゃうんだろ?」

川から吹く風が、彼女の髪を揺らした。

「実はさ」

彼女がぽつりと言った。

「好きなんだ」

僕は思わず顔を上げた。

「線香花火?」

彼女は笑った。

僕もつられて笑う。

「そうじゃなくて」

彼女は視線を落としたまま言った。

「だから」

線香花火の火玉が、落ちそうで落ちない。

「わかってる?」

僕は笑った。

「ばか」

線香花火の火玉が、ぽとりと落ちた。



十五年後。

「なんかつまんない」

娘が頬を膨らませた。

「だって地味じゃん」

娘は線香花火をぶらぶら揺らす。

「それがいいんだよ」

僕は笑った。

「えー」

夜風が川面を撫でていく。

線香花火の先に、小さな火が灯った。

それを、娘は黙って見つめていた。

「きれい」

ぽつりと呟く。

僕は返事をしなかった。

ただ、その横顔を見ていた。

手の中の小さな火は、まだ残っていた。

「ばか」

そんな声が聞こえたような気がして、

僕は少しだけ笑った。

夏の夜風が吹く。

「もう一本やる」

「そうだな」

そして、二本目の火をつけた。

小さな光が、夏の夜に静かに揺れていた。





こちらの企画に参加させていただきました。

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