ショートショート『鬼のアルバイト』
アルバイトを募集することになった。
桃太郎が仲間を引き連れて鬼ヶ島へ向かっているという情報が有力筋からリークされたからだ。
「またですか」
人事担当の鬼が頭を抱える。
前回の襲撃で若手が大量退職したばかりだった。
「ここが落ちると終わりなんだって」
鬼ヶ島城の会議室で、部長鬼がため息をついた。
「前回も聞きましたよ」
人事担当の鬼は求人票を見つめたまま答える。
「前回は犬だけだったじゃないですか」
「今回は猿と雉もいるらしい」
会議室が静まり返った。
「フルメンバーじゃないですか」
若手鬼が呟く。
犬だけならまだいい。
問題は猿だ。
去年も備品を壊された。
そして雉。
見張り台の鬼が三人辞めた。
「求人の条件は?」
課長鬼が尋ねる。
人事担当は資料をめくった。
「短期アルバイトです」
「時給は?」
「千二百円」
会議室の空気が凍った。
「命懸かってますよね?」
若手鬼が手を挙げる。
「嫌なら、応募しなければいい」
部長鬼は資料から目を離さずに言った。
「代わりはいくらでもいる」
若手鬼は口を閉じた。
「まかないは?」
別の鬼が尋ねた。
「現物支給だ」
「何が出るんです?」
部長鬼は少しだけ考えた。
「村から調達したものだ」
会議室が静まり返る。
「求人票には書くなよ」
「応募なんてこないと思いますけどねえ」
人事担当の鬼は肩をすくめた。
時給千二百円。
命の保証なし。
桃太郎襲来予定。
人事担当の鬼は求人票を書き換える。
『鬼ヶ島防衛スタッフ募集』
未経験歓迎!学歴不問!
やる気のある方優遇!
翌日には応募があった。
「応募者一名です」
「やっぱり来たじゃないか」
部長鬼は満足そうに頷いた。
「誰だ?」
人事担当の鬼は資料を見た。
「桃太郎です」
こちらの企画に参加させていただきました。
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