世界のはじまりの音
世界のはじまりには音がする。
正確には、「ポンッ」だ。
炊飯器でもなく、クラッカーでもなく、ポップコーンが弾ける瞬間に近い。
毎朝六時十三分。
世界はその音で始まる。
ちなみに、それを聞けるのは僕だけだった。
「かなり嫌な特技ですね」
と、佐藤は言った。
佐藤はいつも他人事みたいに喋る。
実際、たぶん他人事なのだろう。
「で、今日はどっちなんです?」
「どっち?」
「右の世界か、左の世界かですよ」
そう言って、佐藤はコンビニのおにぎりを二つ並べた。
ツナマヨと鮭だった。
世界の命運にしては、ずいぶん安っぽい。
「じゃあ鮭で」
「意外ですね」
佐藤はそう言って、鮭のおにぎりを僕のほうへ滑らせた。
「何が」
「あなた、いつもツナマヨを選ぶので」
「そんな情報まで管理されてるの?」
「世界を繰り返してますからね。おにぎりの好みくらい把握します」
佐藤は当然みたいに言った。
腹が立つのは、たぶん当然だからだ。
コンビニの窓の外では、朝の通勤ラッシュが始まっていた。信号待ちをしている人たちは、誰も世界の終わりなんて気にしていない顔をしている。
実際、知らないのだから仕方ない。
六時十三分。
あの音が鳴るまでは。
「今回は、どっちが死ぬんです?」
僕は鮭のおにぎりを開けながら聞いた。
佐藤は少しだけ困ったみたいに笑った。
「そういう聞き方、やめません?」
「でも毎回そうだろ」
「毎回ではありません」
「ほぼ毎回だ」
「まあ、それはそうですけど」
佐藤はレジ横のコーヒーマシンを眺めながら言った。
「今日は、二人です」
鮭の塩気が、少しだけ強く感じた。
「それじゃ、また明日」
こちらの企画に参加させていただきました。
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