小さなドラゴン
僕の小さなドラゴンは、丸いカプセルに入っていた。
ゲームセンターのガチャガチャみたいな透明ケースの中で、そいつは器用に尻尾を丸めて眠っていた。
説明書にはこう書かれていた。
『成長には個体差があります』
まるで、子どもの注意書きみたいだった。
スイッチを入れると、カプセルの内側に小さな灯りがともった。
ドラゴンの胸が、ゆっくり上下する。
それから数秒遅れて、片目だけが開いた。
金色だった。
「……あ」
ドラゴンは眠そうにこちらを見つめたあと、小さく欠伸をした。
その拍子に、ぽん、と青い火が出る。
説明書の端っこが燃えた。
慌てて火を叩き消したけれど、ドラゴンのほうはどこか満足そうだった。
早速、名前をつけた。
『コドラ』
安直すぎる気もしたけれど、特に嫌がる様子もなかった。
小さく「クルル」と鳴いて、気に入ったみたいに尻尾を揺らした。
説明書によると、ドラゴンは最初に名前を呼んだ相手を“主人”として認識するらしい。
コドラはその日から、僕のあとをついて回るようになった。
炊飯器の上。
洗濯かごの中。
ノートパソコンのキーボード。
気づけば、いつも少しだけ焦げ臭かった。
コドラは、みるみる大きくなった。
最初は手のひらサイズだったのに、一週間後には猫くらい、ひと月後には大型犬くらいになっていた。
しかも、成長したのは大きさだけじゃなかった。
火力も上がった。
朝、欠伸をしただけでトースターが壊れたし、くしゃみでカーテンが燃えかけた。
大家さんには「最近ちょっと焦げ臭くないですか?」と聞かれるようになった。
コドラは悪びれもせず、ベランダで気持ちよさそうに尻尾を振っていた。
そのたびに、物干し竿が少しずつ溶けた。
コドラは、ある朝から火を吐かなくなった。
代わりに、よく眠るようになった。
ベランダにも出なくなって、僕の脱ぎっぱなしのパーカーの上で、小さく丸くなっていることが増えた。
身体はあんなに大きくなったのに、不思議と寝顔だけは、最初にカプセルで眠っていた頃と変わらなかった。
説明書を、久しぶりに読み返した。
端の焦げたページの、一番下。
今まで気づかなかったくらい小さな文字で、こう書かれていた。
『本製品は急速成長型ペットドラゴンです』
その夜、コドラは最後に一度だけ火を吐いた。
ろうそくみたいな青い火だった。
「クルル」
そう鳴いて、コドラは静かに目を閉じた。
こちらの企画に参加させていただきました。
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