夜を集める古いポスト
古びたポストを見つけた。
三角の形に、黄色と白のしましま模様。
夜を投稿すると、一時間後に朝が来るらしい。
「ちょっと怖くない?」
「何が」
「夜が消えるやん」
「ほな、試してみる?」
「何を」
「夜の投稿。ほんまに朝来るんか」
「やめとけって」
後ろから笑い声がした。
カップルが一組、こっちに歩いてくる。
「ほら、ちょうどええやん」
「何が」
「もし朝が来たら、あの二人びっくりするで」
ポストの前に立つ。
三角の口が、静かに開いている。
「どうやって入れんの?」
「さあ」
──カタン。
「……入れたん?」
「たぶんな」
「何を」
「今日の夜、かな」
ポストの奥がほんの少しだけ暗くなった気がした。
遠くでカップルの笑い声がする。
その声が、少しだけ途切れた気がした。
初デートなのに、話すことは意外と少なかった。
沈黙が気まずいわけでもなくて、
言葉にするほどでもない時間が流れていた。
歩幅だけが、なんとなく揃っていく。
その途中で、見覚えのあるポストが視界に入った。
三角の形に、黄色と白のしましま模様。
その前に少年が二人、立っていた。
何をするでもなく、
ただ、ポストを覗き込んでいる。
「……あれ、何してるんやろ」
少しだけ足を緩める。
ちょうどそのとき、
片方の少年が手を差し入れた。
──カタン。
軽い音が、夜に落ちた。
カーナビの光だけが、車内を照らしていた。
目的地までは、あと十分。
「ここ、夜景めっちゃ綺麗らしいで」
アクセルを踏む。
言わないといけないことがあった。
ちゃんと、夜のうちに。
夜景の観える丘で。
「なあ、実は──」
そのとき、
フロントガラスの向こうが、ゆっくりと白んだ。
気づいたときには、空はもう明るくなっていた。
「……え?」
思わず、声が漏れる。
隣を見ると、同じように外を見ていた。
「今の……」
この夜は、もう戻ってこない気がした。
「本当に朝がきたで」
友だちが、少しだけ笑いながら言った。
空を見上げる。
夜は、きれいに消えていた。
朝が何事もなかったみたいに広がっている。
「なあ、もう一回やってみる?」
「まじかよ」
「今、朝やで」
ポストは、変わらずそこにある。
三角の口が、静かに開いている。
また手を差し入れる。
──カタン。
「なあ、これ、ほんまに大丈夫なんかな」
友だちが言った。
答えは、出なかった。
遠くで、誰かの声がした。
その声は、ほんの少しだけ短かった。
それが誰の夜なのか、分からなかった。
こちらの企画に参加させていただきました。
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