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巨大な亀が守る湿地

 タイ東北部イサーン地方のサコンナコン。プー・パーン山の麓に広がるこの地には、他では見ることのできない、力強くも慈愛に満ちた巨大な亀の像があります。それが、「プラヤー・タオ・ゴイ(Praya Tao Ngoi)」です。

 この巨大な亀の像を前にすると、まるで太古の時代からこの湿地を見守ってきた守護者と対峙しているような、不思議な静寂に包まれます。この場所に伝わるのは、単なる伝説ではなく、人々の「生きる力」と「平和への願い」が結晶となった記憶の物語です。


逃れてきた人々と「亀の砂浜」

 物語は四百年以上前、ラオスから戦火を逃れてきた人々が、ナム・プン川のほとりに辿り着いたことから始まります。

  • 安住の地の象徴: 疲れ果てた人々が目にしたのは、川辺に集まる無数の亀たちの姿でした。亀が豊かに暮らせる場所なら、人間も生きていける。人々はそこを「タオ・ゴイ(亀が上がる砂浜)」と名付け、村を築きました。

  • 繁栄の記憶: それ以来、亀はこの村の象徴となり、村を守り、豊作をもたらす神聖な存在として崇められるようになったのです。

「プラヤー・タオ・ゴイ」の誕生

 私たちが今目にするこの巨大で華やかな像は、そうした古い記憶を形にするために建立されました。

  • 姿に込められた意味: 亀の背中に載せられた装飾や、周囲を囲むナガ(大蛇)の彫刻は、イサーン地方独自の信仰と仏教が混ざり合った、極めて高い精神性を表しています。

  • 幸運の代名詞: タイ全土でこの名が知れ渡ったきっかけの一つは、ある歌手がこの亀をテーマにした歌を歌い、大ヒットさせたことでした。それ以来、宝くじの当選を願う人々や、健康を祈る人々が絶えない、イサーン屈指の「パワースポット」となったのです。

 かつて、村人が川辺の小さな亀に手を合わせていた時代。そして現在、像の前にはデジタル決済で供え物を買う若者たちの姿もあります。しかし、像の足元に捧げられた赤い飲み物や、色鮮やかな七色の布(パー・サーム・スィー)の輝きは、何百年も前から変わらない「敬意」の形そのものです。


 亀の甲羅に刻まれた複雑な紋様は、この地を生き抜いてきた人々の知恵の系譜のようでもあります。

響き渡る亀の歌

 サコンナコンの巨大な亀、プラヤー・タオ・ゴイ。
この聖なる場所をタイ全土に知らしめ、現在も色褪せないブームを巻き起こした歌手、それはタイの国民的人気歌手であり「モーラムの女王」とも称されるジンタラー・プーンラープ(Jintara Poonlarp)です。

 彼女が2017年に発表した楽曲『タオ・ゴイ(Tao Ngoi)』は、中毒性のあるリズムと親しみやすいダンスで瞬く間に爆発的なヒットを記録しました。

歌が呼び起こした奇跡

 この歌は単に楽しいだけでなく、歌詞の中で「プラヤー・タオ・ゴイに愛の成就を祈る」という内容が歌われています。これがきっかけで、「この亀に祈ると幸運が訪れる」「宝くじが当たる」という信仰がタイ全土に広まりました。

  • ジンタラー自身の奉納: 彼女はヒットの感謝を込めて、実際にこの場所で村人たちと共に「奉納の舞」を捧げています。赤い衣装を身に纏い、数千人の参拝者と共に踊る彼女の姿は、現在もサコンナコンの人々の間で伝説として語り継がれています。

  • 社会現象としての広がり: この曲はYouTubeでも数億回再生されるほどの社会現象となり、静かだったタオ・ゴイ村は、国内外から観光客が押し寄せる熱気あふれる聖地へと変貌を遂げました。

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