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ラジャプラパダムと蟹の街

2010年2月28日
スラタニー ⇒ トラン 369Km

 スラタニーを出たのは、まだ町が眠たそうな顔をしている時間だった。金色の門、踏切、高架の案内標識、そんなものを次々にカメラに収めながら走る。この国はどこへ行っても道端に矢印だらけで、行き先を知らせてくれるのはありがたいのだが、字が読めないので結局のところ勘で走ることになる。今日はスラタニーからトランまで369キロ、暑くて長い一日だ。

踏切
高架の案内標識

 最初に寄ったのはRajjaprabha Damだった。正式にはもっと長い名前があるらしいが、覚えられないのでダムはダムでいい。石で組まれた堤の上をずっと道が続いていて、片側は湖、片側は谷という贅沢な景色だ。湖の名前をシャオラン湖というそうだが、これも聞いた側から忘れる。とにかく水と山と空の青が幾重にも重なっていて、写真を撮っても撮ってもキリがない。芝生の広場には黒い像が台座に乗っていた。牛のようにも見えるし、何かの精霊のようにも見える。近づいて確かめれば良かったのだが、あいにく私はそういう時に限って横着になる性分で、遠くから「多分、牛だろう」と決めつけて次の写真に移ってしまった。

Rajjaprabha Dam
Rajjaprabha Dam
Rajjaprabha Dam

 湖畔にはブーゲンビリアが咲く小さな門があって、そこをくぐるとまた別の展望台に出る。同じような湖の写真ばかり撮っているようで、実は少しずつ角度が違う。これがドライブ旅行の困ったところで、その場では「これは違う景色だ」と信じて撮っているのに、後で並べてみるとほとんど見分けがつかない。それでも構わず撮る。何かの記録というより、その時そこにいた証拠が欲しいだけなのかもしれない。

クラビ

 ダムを離れてしばらく走ると、クラビの町に入った。クラビという名前はタイ語で剣を意味するそうだが、町のあちこちに立っているのは剣ではなく蟹の像だった。それも一体や二体ではない、いくつも並んでいる。剣の街のはずが、なぜ蟹なのか。理由を尋ねる相手もいないので、勝手に想像するしかない。きっと昔、剣より先に蟹が有名になってしまい、今さら剣の像を作っても誰も見向きもしないので、仕方なく蟹で押し通しているのだろう。真偽のほどはまったく分からないが、そう決めてしまうと妙に納得がいく。

クラビ

 昼はクラビの食堂で、ガイヤンと、ソムタムを頼んだ。辛いのは覚悟していたが、思っていたより辛くて、口の中で何かが燃えた。それでも箸ならぬフォークが止まらないのだから、辛いのと美味いのは案外両立するものらしい。店の前には寺の飾りアーチのようなものがあって、金色の屋根が午後の日差しを弾いていた。

ガイヤン
ソムタム

 町を出てからは、また海沿いの道をひたすら走った。車一台がのんびりと前を行くのを見ながら、こちらものんびり後をついていく。急ぐ理由も特にないのだから、それでいい。トランの我が家にに着いた頃には日が傾いていた。

 今日も特に何が起きたわけでもない。ダムを見て、蟹の像を見て、辛いサラダを食べて、走っただけだ。それでいいのだと思う。剣の街の蟹たちが、今日も台座の上で何を見ているのか知らないが、こちらは明日もまた似たような一日を走るつもりでいる。

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