【解説と考察】「2025年エイプリルフール記録 失われた鼻行類の一種、へーベラーオニハナアルキの骨格標本の再発見」
この記事は、X(旧Twitter)にて4月1日付で投稿された記事「2025年エイプリルフール記録 失われた鼻行類の一種、へーベラーオニハナアルキの骨格標本の再発見」の背景知識の解説となっております。Xでの呟き(現在は削除済)を再編集したものですが、投稿時の反応を鑑みて、多少解説を付け加えております。
-目次-
①「鼻行類」とは
②経緯
③作成
④小ネタ
①「鼻行類」とは
まず、予備知識として必要になる鼻行類という哺乳類の一群に関してです。これは架空の哺乳綱の動物群です。
ただし、『鼻行類』という書籍は実在します。こちらは私が考えたものではなく、ドイツの動物学者であるゲロルフ•シュタイナー博士が「ハラルト・シュテュンプケ」名義で書いた動物の生態•行動学に関するジョーク本です。原著の発行が1961年、日本語訳は動物行動学者である日高敏隆先生、羽田節子先生が行い、思索社から1987年4月1日に(←いま気付いたのですが、最初の翻訳本の発行日よ…)発行されました。
その後も、博品社、平凡社より発行されています。現在書店でも入手可能なのは平凡社ライブラリーより発行されたものです。

書籍の内容は「架空の島で独自の進化を遂げた架空の哺乳類が、どのように適応放散するか」というのをシミュレートするものですが、全体が論文(架空)の引用や異なるタッチのイラストで構成されること、文体が学術文書寄りとなっていることなど、とにかく設定が細部に渡って「すごい!」としかいいようのない本です。一番肝心の紹介されている動物ですが、この島(ハイアイアイ群島)で適応放散した哺乳類である鼻行類(哺乳綱鼻行目)は、「鼻を異様に発達させた」という設定。鼻を発達させた哺乳類というと、ゾウの仲間やバクの仲間などがぱっと思い浮かびますが、鼻行類はそんなもんじゃありません。鼻を脚のように使い逆立ちするもの、鼻を使って狩りを行うもの、鼻をたくさん(4対、6対、多いもので38対まで)増やしたもの、鼻を花に(全くドイツ語関係ないところでわけのわからない駄洒落を…)擬態させて小動物を誘引し、これを狩るもの、鼻をつかって地中を進むもの、19対の鼻で音楽を奏でるもの…この書籍が生物学界隈に与えた影響はかなり大きく、今なおパロディ論文や文献が発行されています。なので実は今回の私の投稿は、恥ずかしながらかなりn番煎じ(nは任意の実数とする)なんですよね。ジェットハナアルキ(おならで飛びます…なんじゃそりゃ!)なんかは有名で、こちらは思索社、博品社版には追補として掲載されていますが、平凡社ライブラリー版からはファンメイドのパロディであるためか削除されています。読みたければ博品社版を購入するのがおすすめ。最近だと、2004年発行の論文ですが「鼻で増殖する鼻行類」が報告されていたりしました。なんじゃそりゃ!
とにかく、あまりに有名な書籍なので、今更私が書評を書くというのはかなり気が引けるのですが、Twitter上での反応を見る限り「全く知らない方々」にも届いてしまっていたので、急遽もとのポストには存在しないこの項目を付け足しました。鼻行類をご存知の方には退屈な説明でしたが、まだ未読の方は是非手にとっていただければと思います。
②経緯
本アカウント(とらふずく)では、鼻行類を扱ったエイプリルフールネタは過去にも何度かやりました。一番最初は2013年だったはず…ですが、掘り起こせず。これは2014年のネタです。ほんとにどこかの博物館やってくれないかなー。絶対に行く。

今回のエイプリルフールは、「鼻行類という哺乳類の動物群が存在したとして、その頭骨はどのような構造になっているのだろう」というのが一番大きなテーマでした。上述した通り、鼻行類ネタは私以外にも本気でパロディを作る方々が国内外問わず存在するジャンルです。鼻行類の骨格なんて誰かやっているだろう…と思うじゃないですか。
いないんですよね。複数の言語…日本語だけでなく、英語、ドイツ語、ロシア語など、鼻行類研究が盛んな国の言語で探してみましたが、鼻行類そのものを紹介する記事や新種の鼻行類を発見したという論文、鼻行類をテーマにしたアートなどは散見されても、何故か骨格に触れている人が殆どいないんです。言ってしまえば先行研究の殆どない状態です。意外。
なので、自分で考察してデザインするより他ないな、という感じだったのです。前置きなっが。
まず、どの鼻行類がいいかという話ですが、原作ではっきり骨格が描かれているのはダンボハナアルキのみです。


ダンボハナアルキを初めとする跳鼻類(これ日本語でしか通用しない長鼻類=ゾウの仲間のギャグかなぁ。日高先生なら意識してそう)、すなわちトビハナアルキの仲間は、鼻の中に骨があるのでそれとわかりやすいですが

例えばハナススリハナアルキやランモドキ、ナメクジハナアルキなどは鼻には骨がないため、他の現実の哺乳類と比べてみるという面白みはありません。



骨にしても面白そうなやつ、となるとあとは多鼻類…つまり、鼻が増えちゃったものをつくるのが良いだろうなという考えに至りました。なのでまずはナゾベームと、その捕食者であるオニハナアルキを制作し、その頭骨を比較することで生活が明らかになるような話が面白いかと。要は、普段ワークショップで小学生相手に教えているような内容のことを鼻行類で出来ればと考えていたのです。




さて、ではどのように鼻が4つの生き物をデザインするかです。冷静に考えて「鼻が4つって何だよ!」という話になるんですが、そもそも鼻が増えるってことは現実的にあり得るのか、というのがすごく疑問ですよね。ちょうど知人に顔面の発生を扱っている先生がいるので、その先生にお伺いを立てようか迷ったのですが、さすがにこんな訳わからん冗談に付き合わせるのは良くないとも思い…。今度リアルでお会いしたときにでも答え合わせしたいです。そもそも、鼻というのは何か、という話ですが、鼻の孔そのものは魚類以上の脊椎動物にすべて存在します。ただ、哺乳類以外の脊椎動物の鼻というのはあくまで、上顎から額にかけてのラインの上にある孔であって、その部分が鼻としてまとまっているのは哺乳類だけなんですよね。 我々の祖先の上顎の先端部分が鼻となり、発生の過程でその下に中上顎骨が前方へせり出すことで作られる、というのが今のところ最新の研究らしいです(先程紹介した先生の研究でもあります)。確かに、我々の鼻は口先とは独立して存在しているのが、他の哺乳類の骨を見てもわかります。

次に見ていただきたいのはセイウチの頭骨です。
何が何だかわからない形をしていると思いますが、中央の孔が鼻孔、その周りを取り囲む骨が前上顎領域にせり出した中上顎骨で、中上顎骨からは門歯が生えています。

つまり何が言いたいかというと、まず鼻をつくるには顎の骨が必要であるということです。
ところで、顎の骨はもともと無顎類の前方の鰓に由来するとされます。無顎類はその名の通り顎のない原始的な脊椎動物の一群で、ヤツメウナギやヌタウナギの仲間がそれにあたります。彼らは顎の骨は持たず、口の中の歯で餌をこそげ取って食べています。


顎のもとになる鰓ですが、鰓は前後には連続しているけれど、横方向には重複していません。つまり、簡単に言うと鼻は横方向には増えません。
詰んだ。
その後も、顔面の発生に関する文献を読み漁りましたが、調べれば調べるほど「横に4対」になるために必要な過程が思いつかないわけです。一旦はこのエイプリルフールネタはやめようかなとまで思いました。というか、2024年のエイプリルフールをやらなかったのはこのためであり、準備の途中で行き詰まったのです。今改めて自分の思考を辿っていますが、何だこの面倒くさいオタク。
ただ、冷静になって考えるとそもそも鼻行類って 架 空 の 動 物 なんですよね。何を大真面目に考察しているんだおれは。発生や遺伝子の話は無視して、単に鼻を増やした骨格を作ればよいのでは????
と、何か吹っ切れてしまったこともあり、単に鼻を増やした頭骨をつくる事に決めたわけです。わー、ここまでなっがい!
③作成
鼻を増せばいいじゃん!と書きましたが、鼻は「鼻の骨(鼻骨)」だけで独立しているわけではありません。そもそも、頭の骨はたくさんの骨が集まって出来ています。もちろん鼻も、前述の中上顎骨をはじめとする複数の骨が合わさって「鼻」となるのです。となると当然、鼻骨だけでなく他の骨も増やさねばならなくなります。

さらに、全体の形も考えねばなりません。
今回の制作では、模型はナゾベームから作り始めました。

デザインするのにモチーフが欲しいところです。幸い、仕事柄というか趣味というか、私の手元には各種哺乳類の頭骨がたくさんあるので、それを参考にして近いものを作っていくことにします。

鼻行類はもともと食虫目(無盲腸目)から派生したと考えられる、とシュテュンプケの『鼻行類』には書かれています。無盲腸目とは、いわゆるモグラやジネズミ、ハリネズミの仲間ですね。


このうち、モグラは地中生活で特殊すぎる形態になっているし、ジネズミ類は標本を持っていません。今回は手持ちの標本の中からハリネズミをモチーフにして頭骨をデザインすることに決めました。

下の写真はかなり後になって撮影したものなので、もうナゾベーム頭骨が出来上がっていますが、奥に見えるのが最初に描いたデザイン画です。
ベースはハリネズミですが、色々と変更した箇所があります。

まず、無盲腸目のなかまは全て昆虫や小動物を食べる肉食の動物です。ナゾベームは植食性の動物ですから、歯は臼歯が発達し、すりつぶしが得意な構造になるはずです。ぱっと思いつくのはウマやシカの臼歯ですが、彼らの臼歯はエナメル質と象牙質が層のように折り重なり、イネ科の硬い繊維を噛みちぎるような特殊化が進んでいるため、食虫目の歯とはかなり違います。なので、ウマやシカの歯は参考にはできませんでした。


そもそも、無盲腸目の哺乳類の歯はどうなっているかと言うと、外側が尖って噛み切る形、内側が平たくすりつぶす形である、トリボスフェニック型臼歯という形をとっています。余談ですが、様々な哺乳類の臼歯はまずこのトリボスフェニック型臼歯から始まりました。この歯の大きな特徴は、上下顎の歯が噛み合ってぴったり収まる、というところです。そして、この臼歯からさらに、そこから噛み切る機能を拡張させたり、すりつぶす機能を拡張させたりという形で多様化が進みました。

トリボスフェニック型臼歯を持ちつつ植物食になっている生き物となると、植食専門ではないにせよ、イヌ科や一部のイタチ科、オオコウモリなどはすりつぶし、噛み潰しが発達しています。なので、歯はイヌとアナグマをもとにしてデザインしてみました。

いずれもトリボスフェニック型臼歯を持つ。
次に変更したのは目の位置と頬骨弓の形です。
ナゾベームはオニハナアルキに追われる被食者です。多くの場合、被食者は眼が横向きについています。もともと視野は広いほうが生存には有利で、我々のように眼が前方についているのは、哺乳類の中では実は少数派です。


という訳で、もとのハリネズミよりも眼窩をさらに横に移動しました。さらに、ナゾベームは鼻が発達した動物ではありますが、鼻は嗅覚よりも移動に使っているため、どちらかと言うと視覚情報に頼って生活をしている可能性が高くなります。頭そのものが運動器官となるため、上下に揺れる時に眼球があまり動かないような工夫が必要…となると、シカやネコのように後眼窩突起と頬骨弓がくっついて、丸く囲ったような頑丈な眼窩が欲しいところです。


さらに、顎の形も変えました。
肉食の動物と植物食の動物では、顎関節と歯列の位置関係が異なります。
植物食の動物は、臼歯の可動域を大きくするために、顎関節の位置が臼歯の歯列より高い位置にあります。逆に、肉食の動物は噛む力を最大限に発揮するため、顎関節の位置は臼歯の列に近くなります。

大後頭孔(脳から脊髄が出るための頭蓋の孔)の位置も変えました。ナゾベームは頭を下にして身体を逆立ちさせる動物です。支えるためには、後頭骨はかなり幅広に、大後頭孔は上方につくべきでしょう。ということで、大後頭孔が上向きについているヒゲクジラなどを参考にしながら後頭部をつくりました。

ただ、これで身体を支えられるのかは謎です。首で身体を支えるような生き物いるかなーと探してみました。オットセイとかは逆立ちをする動物てはありますが、さすがに前脚と胴体を使って逆立ちするので、首だけで、というのは参考に出来そうな生き物いなさそうです。
次にオニハナアルキです。

オニハナアルキはナゾベームからさらに肉食になったもの、とされています(植物食から肉食が派生する例ってあるのか…?)
オニハナアルキ、原作の挿絵を見るとかなり顔が前面に寄っていて、いわゆる平面顔になっています。顔面は体軸に対して完全に下向き…というか、これ直立するとヒトと同じような形になるなと思ったので、やはりデザインのベースをハリネズミから初めつつ、今度は歯の周りにはネコの要素を、頭全体の形はサルの仲間の要素を取り入れて、平面顔になるようにしました。

犬歯の位置と眼の位置を参考にした。

頬骨弓まわりと大後頭孔を参考にした。
さらに、鼻腔は上向きで頭の上に空いています。マレーバクやイルカが近いなと思ったので、中上顎骨を縦にぐーっと伸ばして、鼻腔を頭頂に移動させました。この時役立ったのが、中上顎骨が異様に縦長のセイウチの頭骨です。

鼻腔4対に関しては、結局増やすのを鼻骨、中上顎骨のみにして(といいつつ、この構造だと鋤骨とか増えそうなのはいくつもありそうですが)、それを上顎骨で挟む構造にしました。
困ったのは上顎の門歯です。前上顎骨を増やすのであれば、結果として門歯も増えるわけで、そうすると下顎の門歯を増やさなければ咬み合わせができなくなるなー、と。
反芻動物のように上顎門歯を全て失っている設定にしようかと思いましたが(シカやウシは上顎の門歯がありません)、原著見るとナゾベームよりさらに派生的なオニハナアルキで、上下顎にちゃんと門歯が描かれているんですよね。

オニハナアルキで上顎の門歯を再度獲得したというのも変な話だよなぁと。
結局どうしたかというと、チンやパグなど丸顔のイヌの品種で、上顎の短縮が激しすぎて下顎と噛み合わさっていない例もあるので、それならばいっそのこと多鼻化に伴って上顎顎の咬み合わせを失ってしまっている、というのもありかと思い、上顎と下顎の門歯はそれぞれ噛み合わない構造になりました。妥協もいいとこです。
大まかにデザインが決まったところで、制作過程を御覧ください。











という訳で、実は製作にあたっては一応ちゃんと…というかかなり考察しながら作った割と本気のデザインです。むしろこっちがメインのつもりで作ったので、エイプリルフールの「お話」はオマケみたいなものなんですよね。解剖学的な造形や発生学的な知見で、詳しい方と色々突っ込んでもらったり、議論をしたいなーというのが本音です。
④小ネタ
先程も書いたように、エイプリルフール記事の「お話」は、ほとんどオマケのようなものです。
アカウント「理科教師とらふずく」は、中の人(平山)の思考をほぼ反映していますが、それでもけっこう気を使って運営するアカウントです。他にアカウント持ってないけど。
なので、アカウント内ではあんまり趣味の話とかしないんですが、実は中の人はサイエンス・フィクション大好きで、今回頭にあったのはSFの名著『星を継ぐもの』です。見つけたサンプルから次々に明らかになる、という流れをやってみたかったんです。
作った小道具
【オニハナアルキの入っていた箱】
ベランダに転がってたコンパネの残骸を切って組み立て、コーヒーで着色してからバーナーで炙りました。中の麻布はDAISOで買った和風のれんをバラして紅茶で煮ました。

蓋の落款は、本編では焦げてよく見えないですが、実は「たいへんよくできました」です。どこまでもふざけていますね。


【大鼻行類展ブックレット】
あったら私が読みたいです。
元ネタは「大哺乳類展 陸の仲間たち」のブックレット。怪しげな文章とイラストは筆ペンで書きました。
文中に出てくるアウベフト•メスポトは、アルブレヒト•ミースポットを日本人が聞いたらどういう発音に聞こえるかを考えました。ちなみに、ミースポットというのは元ネタ『鼻行類』に登場する、モルゲンシュテルンにナゾベームを教えたとされる商船の船長の名前で、彼の船に日本人が同乗した、という設定で書いています。
森賀寿太郎は、モルゲンシュテルンのもじり、彼が師事した卯月阿宝はエイプリルフールのもじり、この文章を書いた人は大法螺吹きです。


【デ•ブルラス著 環太平洋島嶼部の哺乳類相】
そんな本はありません。
ブロメアンテ•デ•ブルラスは元ネタ『鼻行類』に登場する架空の哺乳類学者です。
ハイアイアイ群島に渡る前はきっと島の哺乳類をたくさん研究していたんだろうなーと想像して書きました。


オニハナアルキのスケッチは、自分で作った頭骨の輪郭をスケッチして、あとはネコの頭骨とかを見ながらひたすら点描しました。スケッチ好きなので楽しかったです。


鼻行類のどさくさに紛れてけったいな化け物にされたたぬちゃん。原作はうちの妻。

元ネタは、クラゲの生活環です。
クラゲは受精卵が孵化するとプラヌラ幼生となり、岩に固着してポリプに、ポリプが成長するとストロビラ幼生になり、それが節ごとにわかれてエフィラ幼生に、育って親クラゲとなります。
子供とお風呂に入った時に、子供に「クラゲの一生ってどんななの?」と聞かれて、その場でお風呂クレヨンで壁に描いて説明しました。
それを消さないままいたら、後から入浴した妻が、クラゲの一生を真似て変なタヌキの一生をその横に描いたというお話。
今回はその思い出を脚色しました。
プラプラ幼生→金時計
プリポン→ポリプのもじり+ポン
ムズィナヴィラ→むじな
マミフィラ→まみ
たぬきです。化かされてます。
プリポンのデザインはそのまま、タヌキノショクダイという菌従属栄養植物なのですが、流石にそこまで言及してくれる方はいらっしゃらなかったですね。細かすぎ。
以上です。長かったー。
